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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
91/119

解毒、のち・・・

「・・・コウキ!リンは!?」

 ヒエンの部屋からリンを抱いて出てきたコウキを見つけ、ミルアとユウヒは駆け寄った。

 二人とも結局心配してパーティー会場を抜け出してきたのだ。

 近付いてきた二人に、コウキは冷めた瞳を見せた。

「あのくそバカ王子がいかがわしい薬飲ませたせいで副作用で苦しんでる。ヤキ入れといたけど、もう少し念入りに頼む」

 あごで部屋の中を示しながら言ったコウキの言葉になんとなく事情を察したミルアとユウヒは、それぞれに怒りを表した。

「なにー!!あのバカ王子、ホントにバカだっ!!ぶん殴って来る!!」

「あはは。ダメだよミルア、一人でやっちゃ。僕と半分ずつだよ。死ななきゃ多少のことしても大丈夫だから」

「おうっ!」

 さっそくヒエンの部屋に入って行ったミルアとユウヒを見送り、コウキはリンを休ませる場所に移動した。

 さっきあちこち扉を開けて回っていた為、使っていなさそうな空き部屋に心当たりがあったのだ。

「ん・・・コウ・・・キ・・・苦し・・・」

 寝椅子に横にならせたリンはまだ息が荒く苦しそうだった。

「リン・・・」

 髪を撫でる大きな手に頬を寄せ、目を閉じて耐えるリンにコウキは顔を近付けた。

「解毒な・・・」

「・・・んっ・・・」

 寝椅子の背もたれに片手を掛け、もう片方の手をリンの頬に添えたコウキは、そのまま深く口付けた。

 まだ媚薬に支配されているリンはびくりと震えた。

 唇が触れただけで全身に電流が流れるような快感が駆け巡る。

 それなのに、更に深く舌が入ってきて、リンはわけがわからなくなり涙を流すほど感じた。

 さっきのヒエンの時と違って嫌悪感は全く無く、身体中が喜んでいるのがわかった。

「ん・・・んっ・・・ふぁっ・・・あ・・・!」

 あまりの快感に我慢できずに逃げようとする顔を押さえ、コウキはリンに直接体液ーーー唾液を与える。

 何度も何度も口の中を舌で愛撫され、リンはたまらず泣きそうな声を出した。

「だめ・・・コウキっ・・・私・・・もうっ・・・!」

「だめだって。薬抜けるまで我慢しろ」

「んぅ・・・んんっ・・・やぁ・・・」

 逃げることもできず容赦なく口付けを受け続け、リンはそのまま何も考えられなくなり、ただただコウキのくれる快感の中で溺れた。

「んっ・・・んんーーー!」

 びくんとリンの体が大きく震えて、コウキは一旦唇を離した。

 二人の息は、大きく乱れていた。

 流れる涙を唇でぬぐってもらいながら、リンは強制的な快感の波が徐々に引いていくのを感じた。

 呼吸は乱れていたが、先程までの心臓を圧迫されるような苦しさは無くなっていた。

 朦朧としていた頭も少しずつハッキリしてくる。

「・・・薬、抜けてきたみたい・・・」

 かすれた声でそうささやき、腕をついて体を起こそうとしたリンをコウキは寝椅子に押し戻した。

「・・・えっ・・・!?」

 解毒はもう終了したのに再び覆い被さってきたコウキに、リンは戸惑いの声を上げる。

 そんなリンを、コウキの黒い瞳がじっと見詰めた。

「・・・他の男に触られたままにしておけると思うか?」

「・・・っ!」

 状況からみて最後まで汚されてはいないとわかったが、それでもいいように体を触られたことは間違いない。

 朦朧としていた為にハッキリとは覚えていないが、強烈な嫌悪感と強制的な快感だけは嫌でも体に残っていた。

 思い出し、泣きそうに顔を歪めたリンにコウキは顔を近付けた。

「お前が悪いんだからな?そんな、俺にしか見せちゃいけないような所出した格好してるから。まんまとあの野郎の思うツボにハマりやがって」

「・・・見せちゃいけない所・・・?」

 ちゃんと人前で着れるドレスで、変な所はどこも出ていないはずと眉を寄せたリンにコウキはムッとした。

「首も腕も背中も出てるだろうがっ!他の奴の前でんな格好して俺が喜ぶわけねーだろっ!?」

 その言葉に、リンは呆然とした。

「・・・似合わなくてみっともないから、怒ってたんじゃないの・・・?」

「あのバカが選んだ服なんか、死んでも似合うなんて言うかっ!」

「・・・・・・」

 自分が思っていたことと、コウキの言い分が食い違っていることがわかり、リンは目を瞬いた。

 つまり、コウキはヤキモチを妬いていたと言っているように聞こえる。

 あの時、今のような言葉をくれていればまた対応も違ったのにと思い、ランプ一つの薄明かりの中で怒った顔をしているコウキが堪らなく愛おしくなり、手を伸ばしたリンはコウキの首に腕を回し初めて自分からキスをした。

「・・・心配しなくても、私は、あなたのものよ」

「・・・ったり前だ・・・!」

 ムッとした顔のまま、コウキはリンに情熱的な口付けを返した。

 本当は、まだまだ大事にしたいと思っていた。

 大変な旅の途中でもあるし、本当に結ばれるのは全てカタがついてからで構わないと思っていた決意が、ヒエンのせいで見事に崩れた。

 リンを探していたコウキは、リンがその名を叫んだ時、ちょうどヒエンの部屋の前まで来ていた。

 扉の前で、リンが自分の名前を呼ぶのを聞いた次の瞬間、コウキはリンの側へ『召喚』されていた。

 だから、ヒエンが気配に気付く間もなく、扉を開けることもなくコウキは室内に現れた。

 リンが叫んだ名前が、そのまま召喚の言霊となった。

 それだけ、あの時のリンのコウキを求める気持ちが強かったのだ。

 コウキはベッド上の光景を見た瞬間頭が真っ白になり、ヒエンに対する殺意が抑えられずに剣を抜いてしまったが、リンの声で間一髪正気を取り戻す事ができた。

 そうでなければ、リンの目の前で人を殺してしまうところだった。

 あの時からもう、リンを自分のものにしたくて仕方なかったが、媚薬が消えるまではと我慢していた。

 コウキが欲しいのは、薬のせいで欲情するリンではなく、心から自分を受け入れてくれるありのままのリンだったからだ。

「・・・ん・・・」

 熱い舌に反応してぴくりと瞼を震わせるリンが愛しくて、コウキは艶やかな黒髪を撫でながら口付けを深める。

 マール・モーリェに入ってすぐの頃。

 血にまみれるコウキの夢を見て怖がっていたリンに髪を撫でられ「もう怖くない」と抱き締められた時に、リンがいればもう何もいらないと思った。

 癒しの光がいるかと聞かれて、いらないと断ったのは、リンの存在そのぬくもりそのものが癒しだと思ったからだ。

 大きな隠し事をしている自分がこんな風に受け入れられることなど許されないという葛藤と戦う日々が続いたが、気持ちは大きくなる一方だった。

 素性を明かさないことが、リンに対しての酷い裏切りだということも自分でわかっていた。

 だから、その最大の秘密がバレた時には、もう許されるはずがないと諦めたのに、結局リンはそれすらも受け入れてしまった。

 あの時に、もう絶対に離さないと決めた。

「リン・・・」

 熱い吐息混じりに名を呼ばれ、リンはゾクッと背筋をはしる甘いしびれを感じた。

 その素性も知らないうちから、いつの間にか自分の中の大部分を占める存在となっていたコウキ。

 ありのままの自分を素直に表せることが不思議だった。

 自然体の自分を出せる、唯一の相手。

 それは甘えであり、コウキがその甘えを受け入れてくれるから安心して自分を出すことができるのだと、自分の気持ちを認めた時に理解した。

 最初から、大きな心でリンを包んでいてくれた人。

 それが、リンが地上で戦い続ける為の大きな力となった。

 ミルアの想いに気付いた時は、自分はコウキに想われるような人間ではないと自分の心に蓋をしたが、今となってはもう、誰にも渡したくない。

「・・・っ・・・コウキっ・・・」

 首筋から胸へ唇で触れながら移動したコウキの赤い髪の中に指を這わせてから、リンはその名を叫んでもう一度キスをねだる。

 それに応え、コウキは腕の中にリンを閉じ込め口付けた。

 もう止まらず、コウキはリンの存在を確かめるように身体中を愛撫する。

 求められ、その熱い手で、唇で身体中愛され、沸き上がる快感と歓喜の中でリンは夢中でコウキに応えた。

 二人は、初めて愛を交わすために抱き合った。

「・・・んっ・・・!」

 ドレスの裾から侵入したコウキの手が、その感触を楽しむようにリンの太ももを撫でる。

「あっ・・・っ・・・ん・・・!」

 白く柔らかな胸の膨らみの先端の赤い蕾を、それぞれ指と唇で刺激され、リンは必死に声を抑えた。

「あっ・・・!コウキ・・・っ」

「リン・・・」

 太ももを撫でていた手が上がっていき、下着を脱がそうと触れた瞬間。

 二人は目を見開いて動きを止め、顔を見合わせた。

「・・・・」

「・・・・・・うそだろ」

 顔をひきつらせたコウキが呟いたその時。

 うなるような風の音が窓の外に響き、ガラスがガタガタと鳴り出した。

「・・・・うそじゃないみたい」

 なんとも言えない中途半端な表情でリンは言った。

 そうしているうちに、風の唸りが近付いてくる。

「ここまで来て・・・!」

 確実に近付いてくるのは、風の唸り声と、風奏神の気配だった。

 ものすごくいい所まで来ていたのにジャマが入り、がくりと肩を落としたコウキは次の瞬間怒りの形相で顔を上げる。

「ただじゃおかねぇぞ風奏神っ!!さっさと片付けて続きだ!!行くぞリンっ!!」

「ちょ・・・ちょっと待って・・・!」

 急いで身なりを整えて、ミルアたちと合流するために部屋の扉に手をかけたとたん、風の唸りが一段と大きくなった。

「・・・っ!」

「きゃ・・・!」

 バリバリバリと騒音を立てて、窓に嵌められていたガラスが割れて飛び散る。

 ガラスの破片が飛んでくる前に、二人は慌てて廊下へ出て扉を閉めた。

 階下の方からも多数の悲鳴が聞こえ、コウキは舌打ちする。

 風奏神が攻撃の意思を持ってこの城の近くに来ているなら、不本意だがヒエンの側へ行かなくてはならない。

 ヒエンの部屋に行っていたミルア達も心配だった。

 なにせ、ヒエンの部屋は全面ガラス張りの大窓を持っているのだ。

「嫌だけど行くっきゃねぇ!お前、バカに近付くなよ!?」

 心底嫌そうな顔で言い放つコウキに苦笑しつつ、リンはその後をついてヒエンの部屋へ戻る。

「・・・ミルア!ユウヒ!」


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