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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
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パーティー

 華やかな大広間で音楽が奏でられ、たくさんのごちそうとお酒やジュース、カクテルなどが振る舞われていた。

 パーティーに出席しているのは、ウェントゥスの貴族の姫君たち。

 皆ヒエンの帰城を祝い、迎える為にきらびやかに着飾って熱い言葉と視線を贈る為に集まっているのだ。

 その中で、リンはむぅっとしたままグラス片手に壁際に立っていた。

「きゃ~♥炎竜様ぁ~♥」

「かっこいいっ♥」

「こっち向いてぇ♥」

「ヒエン様と戦った時のことお聞かせ下さいな♥炎竜様♥」

 再び聞こえた甘ったるい声に、ぴくぴくと眉をひきつらせたリンはグラスを一気にあおる。

「・・・リ、リン・・・大丈夫か・・・?」

「大丈夫よ」

 さっきから何杯グラスを空にしたのかわからなくなってしまい心配するミルアに、リンは据わった目で答えた。

 パーティーが始まってすぐに、ヒエンはコウキのことをあの『戦荒らしの炎竜』だと大々的に紹介してしまったのだ。

 うわさの『戦荒らし』とヒエンが何度も剣を交え、決着が着かなかったことを知っている姫君たちは、強い者が好きという本能に逆らわず、大いに『炎竜』に興味を持ってしまった。

 姫君たちがヒエンのライバルとして勝手に思い込んでいたイメージと、実際のコウキの容姿が全く違ったことも要因だった。

「『炎竜』ってぇ~」

「ヒエン様が勝てないくらいだからぁ~」

「もっとごつくって岩みたいな感じだと思ってたぁ~♥」

 思い描いていた姿よりも、ずっとずっと若くシュッと長身で黙っていれば整っている顔立ちが姫君たちのお眼鏡にかなってしまったのだ。

「炎竜様♥こっちに来てくださいな♥」

 また聞こえた声に敏感に反応してしまってから、リンはため息をついた。

(何やってるんだろう・・・私・・・バカみたい・・・)

 コウキに言われた通り、素敵なドレスを与えられて浮かれたのは事実だった。

 ドレス姿を見たコウキが何か嬉しい言葉を言ってくれるのを少しでも期待した自分がとても恥ずかしい。

 ユウヒやヒエンがさらっと言うような言葉を言ってくれる人物ではないとわかっていたのに。

 しかし。

(人には浮かれるなだのそんな格好だの言っておいて・・・!キレイなお姫様に囲まれてデレデレしてるくせに・・・!)

 再びリンが頬をむぅっと膨らませた時ユウヒが近付いてきた。

「リン、いいのかい?コウキかなり困ってるようだけど・・・」

 きゃぴきゃぴとはしゃぐ姫君たちに周りを囲まれ、逃げることもできずにいるコウキを助けなくていいのかと聞かれ、リンはムッとしたままそっぽを向いた。

「いいんです!『楽しいか楽しくないかって言ったら、楽しいに決まってる』んでしょうから!」

「・・・なんだい、それ・・・?」

 リンの放ったセリフに首を傾げるユウヒに、ミルアは苦笑した。

「そう言えばコウキ、あの村でそんな事言ってたな・・・」

「なになに?何の話だい?」

 フォレスタで三人で訪れた最初の村。

 マイカの村でもなにげにモテていたコウキを思い出したミルアの声に興味を持ってユウヒは飛び付いた。

「あのな、まだフォレスタの城に行く前に、こういう村があったんだ・・・」

 話し始めたミルアの声に、もうコウキの話は聞きたくないとリンはドリンクを取りに行くと断ってその場を離れた。

「・・・それ、かなり強いお酒じゃないの?」

 びっくりするような声で声を掛けられ、リンは逆に驚いた。

「えっ!?これお酒なんですかっ!?」

 目を丸くして近付いてきたヒエンに、リンも目を丸くする。

 ずっとジュースだと思っていたが、そういえばミルアも何度も大丈夫かと心配そうに聞いていた。

 そんなリンの様子に、ヒエンは険のある瞳を細めてクスクスと笑った。

「意外と酒豪なんだね」

「・・・いえ、月のお酒はもっとキツイから・・・」

 赤くなって言い訳するリンに、なるほどと文化の違いを納得してからヒエンは微笑んだ。

「そっか。リンちゃんは月から来たんだもんね。地上の女の子と全然違わないから、つい忘れるなぁ」

「そ、そうですか・・・?」

「うん。そうしてると、普通のキレイな女の子だよ。バカ竜にはもったいないくらい」

「・・・そんな・・・私なんか全然・・・」

 いくら着飾っても、一番誉めてもらいたい人に誉めてもらえず、逆に怒られてしまうような自分を恥じてリンはうつ向く。

「きゃ~♥炎竜様お酒も強~い♥」

 ピクッと反応したリンに、ヒエンはくすりと笑ってその手を取った。

「行こうリンちゃん!いい所に連れてってあげる!元気出るよ?」

「え・・・?」

 そのまま手を引かれ数歩進んだリンは、そっと首だけ振り返った。

 ミルアとユウヒはまだ初期の頃の旅の話に夢中になっているようだったし、コウキに至ってはこちらに背を向けたまま、リンがヒエンと一緒にいることにも気付いていないようだった。

(・・・ここからいなくなったら、気付いてくれる・・・?)

 リンがコウキの背中を切なく見詰めた時。

「きゃ~♥大きい手♥」

 姫君の一人がコウキの手を取り、その手に頬を寄せたのが見えた。

「・・・リンちゃん?」

 歩みの止まったリンに振り返ったヒエンの前で、ぷるぷる震えたリンは勢いよく向きを変え、大股で歩き出した。

「行きましょう!いい所っ!!」

「う、うん・・・」

 逆に引きずられるように廊下へ出たヒエンは笑った。

「では参りましょうか?月のお姫様」

 初めて会った時から兄のように優しかったユウヒともまた違う、優しい声でお姫様扱いをされたリンは赤くなった。

 そのまま本当のお姫様にするようにエスコートされたリンは、豪華な扉の一室に案内される。

 扉を開けてもらい中に入ると、目の前に全面ガラス張りの大窓とその向こうにバルコニーが見えた。

「ここは・・・?」

 素敵なこの部屋は、しかし落ち着いた空間になっていて、シンプルだか座り心地の良さそうなソファーの応接セットと、横手には天蓋つきのキングサイズのベッドが置いてあった。

 尋ねたリンをバルコニーに誘いながらヒエンは笑みを浮かべる。

「ここ、俺の部屋」

「えっ・・・!?」

 いくらなんでも王子の私室に入るなんてと驚くリンに、ヒエンはクスクスと笑った。

「ここから見る景色が、この城で一番なんだよ。ほら」

「・・・わぁ・・・!」

 バルコニーのガラス戸を開けてもらい外に出たリンは、感嘆の声を上げた。

 地上にはほとんど明かりは無かったが、何より素晴らしかったのは夜空に浮かぶ満天の星だった。

「・・・リンちゃんの月は見えないけど、その分よく星が見える」

「はい・・・!すごいっキレイ・・・」

 最上階に近いこの場所は足元にも頭上にも遮る物がなく、前方を向いて空を見ればまるで星の中を泳いでいるようだった。

「すごい・・・星が降ってくるみたい・・・」

 リンが星空に見とれている間に、ヒエン様と飲み物を用意する。

「はい、ジュース(・・・・)

 片目をつぶってグラスを渡してくれたヒエンの意図がわかり、リンは赤くなって小さくなった。

 これはきっとお酒なのだが、月の民のリンにとってはジュース同然。

 畏まってグラスを受け取るその様子にくすりと笑ってから、ヒエンはリンとグラスを合わせた。

「あの・・・ヒエン・・・様」

 一口グラスに口を付けてから、リンはずっと言いたかったことを言おうと思い切って顔を上げた。

「ユウヒ様のことです。ヒエン様は、噂だけを聞いて誤解なさっているようですけど・・・」

「ん?」

 バルコニーの手すりに寄りかかり酒を楽しんでいたヒエンはリンに顔を向けた。

「ユウヒ様は・・・あの方は腰抜けなんかじゃありません。戦争で無駄に兵が犠牲になることに深く心を痛めていて・・・それで私と一緒に各国を回る決意をして下さったんです!戦争を終わらせる為に!とても大きくて、強い心の持ち主です!それをわかって頂きたいんです!」

「・・・マール・モーリェの姫も?」

 ミルアの事も出され、リンは必死になった。

「ミルアもです!小さな体に大きな意志と勇気を持っていて、たった一人で立ち上がった姫君です!私を信じてくれた大切な仲間です!」

「・・・へぇ。そうなんだ。じゃあ、バカ竜は?」

 唇に笑みを浮かべたヒエンにコウキの事を尋ねられ、リンはドキリとした。

「・・・あの人は、私が地上に来て初めて出会った人で・・・」

 心臓が早鐘のようにドキドキするのを抑えながら、リンは急激に乾いてきた唇をなんとか開く。

 なんだか、めまいまでしてきた。

「ずっと、一緒に・・・戦っ・・・て・・・」

 突然リンはがくりと膝をついた。

 膝をついてしまってから、リンはドクドクと過剰に動く心臓と荒い呼吸をしている自分に気付く。

「・・・あ・・・れ・・・?私・・・っ・・・」

 まさか酔ったわけではあるまいと考える頭がぐるぐると回り、何も考えられなくなり体だけがどんどんと熱くなっていく。

 力が入らないのに、体の奥で蜜がとろけ体の芯から波打つような快感が勝手に押し寄せてきた。

「・・・んっ・・・っ・・・」

 自分の体を抱き締め、勝手に口からもれる吐息を手で押さえるリンの前にヒエンがしゃがみ込んだ。

「大丈夫?お酒には強いけど、地上の薬には弱いみたいだな。少ししか入れてないのに、こんなに効くなんて」

「・・・あっ・・・!」

 するりと頬を撫でただけで敏感に反応して甘い声を出したリンにニヤリと笑い、ヒエンはリンの体を抱き上げた。

「悪いねリンちゃん。俺別にあいつらの話なんて興味ないんだわ。興味あんのは、月から来た女・・・」

「・・・っ・・・はな・・・してっ・・・!」

「ああ、別に恋愛感情とかじゃねーから。ただの知的好奇心だから心配ないよ?」

「やっ・・・んっ・・・!」

 精一杯の力で暴れようとしたリンは、ベッドに寝かされて首筋をつ・・・となぞられ、抗えない快感と必死に戦った。

 ヒエンは感心して口笛が吹く。

「こんなに効き目強い子は初めてだな。こりゃいーや。・・・あ」

「・・・ふ・・・っ」

 思い出したように声を出したヒエンはハンカチを取り出し、リンの口をふさいで首の後ろで結んだ。

「一応口を封じとかねーとな。『言霊』とやらを使われたらやべぇし。・・・さて」

 伸ばされたヒエンの手が見え、リンはぎゅっと目をつぶった。

(いや・・・怖いっ・・・苦しいっ・・・!コウキ・・・!)

 荒い呼吸の中、朦朧とする頭で、その四つの単語だけがぐるぐると回った。

 ドレスの裾が、ゆっくりと引き上げられていった。

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