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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
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ドレスアップ

「・・・あ~・・・バカだとは思ってたけど、本当にバカだったな~・・・」

 ヒエンの城内の一室を与えられたコウキは、誰ともなくため息混じりに呟いた。

 その言葉を聞き取ったユウヒは苦笑する。

「どうも思い込みが激しいみたいだね、彼は」

 あの後も、とにかく風奏神に助けを求められた自分が全て担うと言ってヒエンは聞かなかった。

 その為に風奏神の力を借り、まずは地上を統一して全ての国の王となる為にヒエンは戦い続けているのだ。

 コウキはがしがしと頭をかく。

「あの竜巻だって風奏神の仕業だってのに・・・!」

 コロッセオを襲った竜巻がヒエンにとって全く予想外だったことは確かだ。

 だからこそ、話が違うなどという言葉が出てきたのだ。

 おそらく風奏神と何かしらの盟約を交わしていたのだろうが、それが破られたことをヒエン本人が認めようとしていない。

「・・・そう考えると、この城も危ないなぁ」

「そう思うよな・・・」

 風奏神と約束でもしなければ、この国でこんな城を建てるなどただの金の無駄遣いになりかねない。

「ここには竜巻は起こさない!・・・なんて言ったんだろうな・・・」

 ちょっと考えれば容易に想像がつくとため息をついたコウキを、ユウヒはじっと見た。

「・・・もしかしてこの城に泊まるって決めたのは、ヒエン王子が心配だからかい?本っ当に人のこと放っておけない性格・・・」

「ちっげぇよっ!!風奏神の手掛かり掴む為に決まってんだろっ!!」

「リン達が戻ってこないからってそうカリカリするなよ」

「うるせぇ!!」

 泊まるならゆっくりしていってくれとヒエンに言われ、リンとミルアは城の大浴場へ案内されて行ったのだが、かれこれ二時間も戻ってこないのだ。

「ゴージャスなお風呂を堪能してるんじゃないのかい?女の子だし」

「・・・・・・」

「・・・それともちゃっかりヒエン王子も一緒に入ってたりして。あまつさえサービスとか言って体を洗ってあげてたり、もしくは逆に洗わせてたりとか・・・」

「うるせぇなっ!!爽やかな顔してエロ親父みたいなこと言ってんじゃねぇっ!!」

「あはははは冗談だよ。そんな怒るなって」

「本当に冗談じゃ・・・!」

 キィっと扉が開き、コウキとユウヒはそちらに顔を向けた。

 廊下と繋がる控えの間から、ちょこんとミルアが顔を出していた。

「・・・あれ?」

 すぐに気付いたユウヒの上げた声に、ミルアはにんまりと笑った。

 まだ顔しか見えていないが、ミルアはメイクを施され、髪もキレイに結われていたのだ。

 もしかして衣装もとユウヒが言う前に、ミルアは姿を現した。

「じゃ~ん♪」

 オーガンジーとレースをたっぷりとあしらった可愛らしいプリンセスラインのドレス姿を披露したミルアにユウヒは感心する。

「かわいいかわいい。やっぱりお姫様だねぇ。もしかしてそれ、ヒエン王子が?」

「ああ、特別にあつらえてくれたらしい。プレゼントだそうだ♪」

 行動が早いと感心するユウヒの隣で、コウキはむっつりと顔をしかめていた。

「・・・リンは?」

 コウキの口から出た名前に、ミルアはこれ以上ないほどにんまりと笑う。

 扉の向こうへ一度引っ込んだミルアは、扉の陰に隠れていたリンの手を引っ張った。

「ほらっリン早くっ!」

「ちょっ・・・待ってミルア!やっぱり私っ・・・!」

「大丈夫だって!すっごく似合ってるから!」

 ぐいぐいとミルアのバカ力で引っ張られ、リンは姿を現した。

「本当だ。すごく似合ってるよ。なぁコウキ?」

 花のついたピンをふんだんに使って髪をアップにしたリンは、ミルアともまた違った大人っぽい装いだった。

 リンの瞳と同じ濃い青のシルクのドレスは体にぴったりとしたマーメイドラインで、夜会向けに背中が大きく開いており、腰の後ろに同じシルクの大きなリボンがデザインされている。

 ノースリーブの肩から、ドレスと同じ色の長手袋との間に見える白い二の腕が食指をそそる程柔らかそうだった。

 谷間を強調する胸元には、満月を想わせるパールのネックレスが着けられており、シンプルだが清楚なようでどこか挑発的な印象になっていた。

 ニコニコと笑顔でユウヒに問われたコウキは、一瞬目を見開いた後、いつもと違うキレイにメイクをされたリンの顔を睨んだ。

「・・・なにやってんだよ」

「・・・え・・・?」

 低く機嫌の悪い声が聞こえ、三人は固まった。

 立ち上がったコウキは機嫌の悪さを隠そうともせず、鋭く睨みながらリンの前へ立った。

「お前、何やってんの?今の状況わかってんのか?乗せられて、んな格好してんじゃねぇよ。何のためにここにいるんだ?」

「・・・っ」

 強張った顔で息を飲んだリンを見て、ミルアは目をつり上げた。

「何言ってるんだコウキっ!!もっと別に言うことがあるだろうっ!?」

「何もねぇよ。お前もだミルア。浮かれてんじゃねぇよ」

「なんだと!?私はただ、コウキが喜んでくれたらリンも嬉しいと思って・・・!」

「誰が喜ぶんだよ。今の状況考えろって言ってんだ」

「わかってるけど、でも・・・!」

「わかってねぇだろ?」

「・・・待って!」

 睨み合ってケンカを始めたコウキとミルアの声を遮ってリンは叫んだ。

 うつ向いて唇をかんだリンは、大きく息を吸ってから口を開く。

「・・・コウキの言う通りよ。・・・私、着替えてくるっ・・・!」

 そのまま顔を上げずにくるりと体の向きを変え、控えの間へ飛び出したリンは、すぐに何か壁のような物にぶち当たってしまった。

「・・・っ!」

「・・・っと。うわ、リンちゃん?やっべ、予想通りすげー似合うじゃん!」

「・・・ヒエン王子・・・」

 ぶち当たった反動で後ろにひっくり返りそうになったところを支えられ、嬉しそうな声で褒め言葉をもらったリンは顔を上げた。

「あれ?泣いてる?メイク崩れちゃうよ?」

 そう言ってメイクが崩れないようにそっと指先で目尻の涙を拭き取ってくれるヒエンに、リンは慌てて頭を下げた。

「すみませんっ!せっかく素敵な衣装を作って頂いたんですが、私やっぱり着替えて・・・」

「着替える必要ないよ♪これからパーティーなんだから♪お~い、お前ら~!」

 驚くリンの手を引っ張って室内に入ったヒエンは、気まずい雰囲気のコウキ、ユウヒ、ミルアにニカッと笑って見せた。

「すぐ準備しろよ。パーティー始まるぜっ♪」

「・・・はぁ!?」

「言っとくけど野郎に服をプレゼントする趣味はねーからな?どうしてもって言うなら貸してやっても・・・」

「いらねーよっ!何考えてんだてめーっ!!」

「は?何カリカリしてんだよ?俺が城にかえってきたら、パーティーすんのは当たり前だろ?」

 事も無げに言ったヒエンの言葉に頭痛を覚え、コウキは言葉も無くして額を押さえた。

「・・・私よりずっと状況わかってない奴がいたな・・・」

 大戦の最中だというのに、パーティー。

 さすがのユウヒも言葉をなくし、ミルアの呟きに頷くだけで精一杯だった。

「さっ行くぞ♪」

 まるで人質のようにリンの手を引いたまま部屋を出るヒエンに、三人は慌てて付いて行ったのだった。


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