ガラスの城
6話の登場人物紹介、追加して更新しております(^-^)
「本っ当に信じらんないっ!!」
巨大竜巻による被害状況を把握し、救援の指示を出したヒエンに付いて城へ向かう馬車の中で、リンは怒っていた。
もちろんヒエンとは違う馬車が用意され、いつもの仲間しかいない為に遠慮なく怒っていられたのだ。
ミルアとはぐれてからの経緯を聞いていたのだが、よりによって自分がヒエンに目を付けられたのはコウキとの因縁があり、コウキに本気を出させる為だったとわかり、大いに憤慨していた。
「いやぁ、リンにも見せたかったよ。あの時のコウキ」
「本気で怒ってたもんな」
「なんであそこまで怒ってたんだろうね?」
「何か話してたみたいだったけどな?」
あの時のヒエンの言葉はコウキにしか聞こえていなかった為、首を傾げるミルアとユウヒに視線を向けられたコウキはぶすくれたまま窓の方を向いていた。
「うるせーな。んなこと忘れた」
ヒエンの言った言葉など思い出したくもなければ、リンの前で口にも出したくなかったコウキはそう答えた。
まんまと挑発に乗ってしまったことも、格好が悪い。
「見せたかったと言えば、リンもだな」
ふと思い出して言ったミルアの言葉にユウヒもうなずく。
「そうだねぇ。言葉もない程心配して、真っ青になってたもんね」
「・・・へぇ~」
ミルアとユウヒの言葉を聞いて興味深そうな視線をコウキに向けられ、今度はリンが顔を背けた。
そこへミルアがだめ押しする。
「リン、言ってたもんな。少し離れただけで、自分がこんな・・・」
「ミルア~っ!!」
真っ赤になったリンは慌ててミルアの口をふさぐ。
コウキは意地悪い笑みを浮かべた。
「へぇ~?少し離れただけで、どうだったんだ?」
「そんなことよりっ!!さっきの竜巻っ!!あなたも気付いたでしょ!?」
真っ赤なまま叫んだリンに、やれやれと肩をすくめたコウキは真面目な顔になる。
リンの言いたいことがわかり、ミルアとユウヒもコウキに注目した。
「・・・ああ。あの竜巻は守護神の仕業だな」
「風奏神・・・」
ミルアは、風の国ウェントゥスの守護神の名を呟いた。
「あの竜巻を見てヒエン王子は『話が違う』と言ったんだ。何か知ってるのは確かだね」
「どっちにしろ、バカ王子と話さなきゃならないってことか」
その為に大会に出場したのがそもそもの始まりだったが、コウキは心底嫌そうにため息をつく。
だがすぐに思い出したようにくっくっくっと笑い出したコウキを、リンは眉を寄せて見た。
その視線に気付いたコウキは、笑いながら口を開く。
「いや、あのビンタは良かったなと思って」
楽しくてしょうがないと笑うコウキを、ヒエンが王子だとちゃんと教えてもらっていたらあんなことはしなかったとリンはムッとして睨んだ。
国の英雄であるヒエンは、きっと女に平手打ちをなどされたことが無かったのだろう。
その証拠にしばらく呆然としたまま立ち直れない様子だった。
「・・・そんな笑ってていいのか?コウキ」
「ん?」
ミルアはジト目でコウキを見詰めた。
「あの後のヒエン王子のリンを見る目が違ってたように見えたけどな」
「・・・・・・」
意味深なミルアの言葉と、隣で頷いているユウヒを見て目を瞬いたコウキは、次の瞬間笑い飛ばした。
「んなわけねぇだろ?気ぃ強い女がよっぽど物珍しかったんじゃ・・・」
「悪かったわね!」
軽く笑い飛ばされたことにムッとしつつも、リン自身も一国の王子が自分などに興味を持つはずがないと切り捨てていた。
自分が、実はヒエンの興味を最大級に引く要素を持っていることを、この時はすっかり忘れていた。
静かに馬車が止まり、一行は石造りの白い大きな城へ案内された。
この城だけ、ウェントゥスにしては珍しい地上に高くそびえる造りだった。
「・・・真新しい城みたいだけど・・・。大丈夫なのかな?」
この国は地下に住まう住居が定番のはずなのに、こんなに高い城を造って風の被害は無いのだろうかと呟いたユウヒの言葉に、三人も城を見上げる。
「・・・ガラスも入ってるんじゃないか・・・?」
「本当だ・・・」
「しかも、いっぱい・・・」
ついさっき竜巻の威力と恐ろしさを体験したばかりのミルアとリンは不安げに顔を見合わせた。
よほど考慮し、竜巻の起こらない土地として城を建てたのだろうか。
「・・・なんとなく、読めたけどな」
威を誇るかのような城を見上げながら腕を組んだコウキは、冷めたようすで目を細めながら考える。
(アイツ、やばいんじゃないか?・・・だとしたら本物のバカだ)
俺の城へ案内すると言ってここへ連れてきたヒエンの事を考え、コウキは疲れたため息をついた。
中へ案内された四人は、そのまま応接間へ通される。
もっとゴテゴテした内装を想像していたが、意外にシンプルで品の良い調度品に感心していると、ヒエンが颯爽と現れた。
「よお!どうだ俺の城は?」
入ってくるなり自慢するかのようなその態度に、一同は顔をしかめた。
「どうって・・・」
「危ないんじゃないの?」
「ガラス窓まで入って・・・」
「バカじゃねーの?」
口々に非難し、ひとつもホメ言葉をもらえずヒエンはむぅっと顔を歪めた。
「あのなぁ!俺が何も考えねーでこんな城造るわけねーだろ?ちゃんと大丈夫だって!」
ムダに偉そうに胸を張って言い切ったその言葉を聞き、四人は顔を見合わせた。
「大丈夫って・・・」
「本当かな?」
「いつ竜巻が出るかわからないよな?」
「いつも何も考えてねーように見えるけどな」
「おいこらてめーら!!失礼だなっ!!特にバカ竜っ!!」
名指しでバカ呼ばわりされたコウキは、ふっと余裕の笑みを浮かべてヒエンを流し見た。
「バカにバカって言われてもな」
「あんだと~!?」
相手にされずバカにされたヒエンは身を乗り出したが、そこでユウヒが間に入った。
「コウキ。・・・ヒエン王子、この城を見せたくて僕たちを連れてきたのかい?」
静かな声で名を呼びコウキをたしなめてから、真っ直ぐに穏やかな視線を向けられたヒエンは、ぐっと言葉に詰まって身を引いた。
ユウヒの穏やかな瞳の奥に、何か強いものが見えた気がしたのだ。
(・・・こりゃただの腰抜け王子じゃなさそうだな)
現にあの『炎竜』が名前を呼ばれただけでおとなしく引き下がったのだ。
タダ者ではなさそうだと感じ取ったヒエンは、小さくため息をつく。
「・・・いや、本当はお前らに聞きたいことがある」
四人にソファーに座るよう促したヒエンは、自分の大きな一人掛けの椅子に腰かけた。
「守護神を倒して回ってるってのは、本当か?」
「!」
前触れなくいきなり核心を衝かれ、四人は一瞬言葉を失った。
ヒエンはその様子を見て続ける。
「フォレスタのユウヒ、マール・モーリェのミルア、『戦荒らしの炎竜』、そして・・・青き月から来たという言霊使いの娘」
ヒエンは確認するようにそれぞれの顔を見た。
「最初は冗談かと思ったけどな。でも、コロッセオの屋上で竜巻を鎮めたあの力は『言霊』だな?」
「・・・は・・・」
「ちょっと待て。だとしたら、どうなんだ?」
返事をしかけたリンの肩を押さえて言葉を遮り、コウキは挑むようにヒエンを見た。
自分達が各国を回り守護神と戦っていることは事実だが、ヒエンの言い回しはどうも否定的だった。
やたらと返事はできない。
ミルアも緊張した様子で姿勢を正してヒエンを見る。
ブラックハルアのように、月の民に対して偏見を持っている人物だったらどうしようと不安になっていた。
ユウヒも、ヒエンの真意を探るようにじっとその瞳を見詰めた。
各人の顔を見たヒエンは不敵な笑みを浮かべる。
「別に。ただ、余計なことすんなって言いたいだけだ」
「余計なこと・・・?」
眉を寄せたリンを、ヒエンはじっと見た。
「そうだ」
「・・・でもっ・・・!」
これには理由があると言おうとしたリンに、ヒエンは片手を挙げてその言葉を止めさせた。
「事情はわかってる!守護神たちに何が起きてるのかも、な」
「えっ・・・!?」
驚いたリンの声を聞きながら、ミルアとユウヒは顔を見合わせた。
コウキは目を細めてヒエンをにらんだ。
「どうわかってるって言うんだ?」
ヒエンが知っている事、持っている情報、誰かに与えられた知識。
それが本当に事実と同じ事なのか確かめる必要がある。
知っている事を言ってみろと言ったコウキに、ヒエンはニヤリと笑って見せた。
「そぉ~んなに警戒しなくてもいいんじゃねぇの?つまり、俺が聞いたことは本当なんだな?」
コウキ達四人が、各国を回り守護神を倒しているということ。
四人は顔を見合わせ、お互いの瞳を見て意志を確認し合った。
「確かに守護神たちと戦いました。でもそれは倒したんじゃなくて・・・」
「ああ、癒しのナントカ・・・だろ?同じコトだ」
リンの力をも知っている素振りのヒエンに、コウキはますます警戒する。
倒すことと癒風光は全く違うと説明しようとしたリンが口を開く前に、ヒエンは続けた。
「守護神たちが人間を滅ぼす為にこの大戦を起こさせた。だがそれは守護神たちの本意ではなく、何者かによって操られてしていること。その何者かっていうのは、『黒い月』」
すらすらと紡がれたヒエンの言葉に、一同は唖然とした。
アイズベルグで四人が知り得たことを、ヒエンが当たり前のように知っていたことが信じられなかった。
「そんな話、誰に聞いたんだ?」
コウキに問われ、ヒエンは更に笑みを深める。
「風奏神自身さ」
「!?」
「だからさ、せっかく月からはるばる来てもらって悪いんだけど、リンちゃん?手ぇ引いてくんねぇ?守護神たちを束ねて、その力で世界を救うのはこの俺だ!」




