予選
今回、痛い表現、血の出る表現が含まれてます。苦手な方はお気をつけくださいませ。
「予選は武器無しのバトルロワイアル。制限時間までにステージに立ってた者が本選に出場、か」
ドリンクと、とうもろこしを弾けさせたスナックを買ったユウヒ達三人は観客席に来ていた。
やはり国風なのか、戦争中によくこんなに人が集まるものだと感心してしまう程、観客がいっぱいだった。
ウェントゥスの勢力が日々増していることで、国民も浮かれているのかもしれない。
凍りついていたアイズベルグとは比べるのも愚かであり、フォレスタやマール・モーリェよりもウェントゥスははるかに豊かだった。
「・・・あ、出てきた」
スナックを頬張りながら言ったミルアの声と同時に、観客席から待ってましたと地鳴りのような歓声が沸き起こった。
ただでさえ見たことのない程の人の多さに気持ち悪さすら覚えていたリンは、その音量のすごさに思わず耳をふさぐ。
その間に出場者たちはステージへと上がった。
ざっと50人程がステージに所狭しと立って、開始の合図を待っている。
「・・・コウキどこだ?」
「赤髪は何人かいるみたいだね」
コウキの姿を探して、ミルアとユウヒにならいリンも目を凝らす。
そうしているうちにすぐに開始を宣言するアナウンスが流れ、大砲の音が鳴り響いた。
「始まった・・・!」
一行が見守る中で乱闘が始まり、あっという間に次々と脱落者が出てくる。
ステージから落ちたらその場で失格。
戦闘不能の状態に陥っても失格だ。
「あっ・・・!」
「うわ~・・・」
ミルアとユウヒは同時にコウキを見つけて声を上げた。
ステージ中央から少し左寄りの辺りでコウキは暴れていた。
モンスターと戦っているわけでもなく、戦の為に剣を振るっているわけでもなく、ただ人相手に暴力を振るうステージ上の男達の姿にリンは青ざめて息を飲んだ。
「・・・なんか、集中的に狙われてないか?」
ミルアは眉を寄せて呟くように言った。
「『炎竜』を名乗ってるからなぁ。口コミで噂が広まったのかもね」
自分達が『炎竜』の名で登録させたことも忘れて、のほほんとユウヒは言った。
二人の心配する通り、ステージの上で不自然に左側の方に選手が固まっていた。
そして、その中心にいるのがコウキだ。
「『炎竜』を倒して名を上げようってことか!」
「つくづく敵を作る男だなぁ~」
戦場で名の知れた『炎竜』を倒したとあれば、ヒエン王子へのアピール度も格段と違ってくることだろう。
リンは震える自分の手を、自分でぎゅっと握った。
「行けぇコウキ!アッパーアッパー!後ろ!そこだ上段蹴りっ!!」
すっかり興奮した格闘娘のミルアは大声で歓声を送る。
「・・・大丈夫かい?」
ずっと口を閉じたままのリンに、ユウヒは静かに声を掛けた。
リンは、とてもぎこちなく頷いた。
モンスターや守護神と戦っている時は平気だったのに、今はコウキを見ているのが辛かった。
「・・・あいつっ!反則だ!」
ミルアと共に周りの観客も騒ぎ始めた。
ステージを見ると、選手太刀が一人の男の回し蹴りを食らう度に血を噴き出させて倒れていく。
その血しぶきが、徐々にコウキに近付いていた。
「靴に仕込み刃を付けてるんだ」
冷静に観察したユウヒの言葉にリンはハッとして身を固くした。
「失格じゃないのかっ!?」
怒号のように叫んだミルアに、隣にいた観客がニヤニヤしながら教えた。
「バレずに出場できたってことは、それも実力のうちさ」
それが認められるということに、ミルアは眉を怒らせた。
「何がルールだっ!コウキーっ!!そいつ危ないぞーっ!!」
ステージ上のコウキは、心の中でため息をついていた。
(・・・あ~、面倒くせぇ・・・疲れるしよ~)
ステージに上がる前から、ジロジロと視線を受けていたことには気付いていた。
たぶん戦場で自分を見た奴もいるかもしれないなと半ば投げ遣りに思っていると、ステージに上がった直後に近くにいた奴等に声を掛けられた。
「・・・お前、本物の『炎竜』か?」
と。
その声を聞き取った周りの連中が、すっと神経を集中したことに気付いたコウキは、ため息混じりに答えたのだ。
「本物だけど?」
その直後に大砲が鳴り、この騒ぎだ。
本当の戦場並みに殺気立つ連中の相手にうんざりしつつも、手を抜いたら袋叩きになるのは目に見えていたため、ここは頑張るしかない。
(そろそろあっちも限界な気がするし・・・)
コウキは、この観客席のどこかにいるはずのリンの事を思っていた。
出場を決めた時の不安そうな顔が頭から離れない。
血の気の余る格闘娘のミルアと違って、暴力沙汰には慣れておらず苦手なのはわかっていた。
その時。
「・・・コウキーっ!!そいつ危ないぞーっ!!」
甲高いミルアの声が怒号のような歓声の中から耳に飛び込んできたような気がして、コウキは思考を一旦中止し周りの状況に集中した。
左側の方から血しぶきが次々と上がっているのが見えたと思った時、目の前に立っていた大男が首の後ろから血を噴き出して倒れた。
「・・・っ!」
大男のかげに立っていた細身の男が、コウキと視線を合わせニヤリと笑う。
次の瞬間、体を捻ったコウキの顔の横で風のうなりが聞こえた。
そして、今まさにコウキに掴み掛かろう横手から来ていた別の男が、首から血を出して倒れる。
「・・・ちっ・・・」
コウキを狙って蹴りを繰り出した細身の男は、狙いが外れて舌打ちをした。
目を細めて自分の足元に倒れた男を見たコウキに、再び細身の男の足が唸りを上げて襲いかかる。
(・・・っと、そういう事かよ・・・)
くつに付けられた刃に気付いたコウキは更にうんざりした。
「・・・おいおいアンタ、それ反則じゃ・・・」
危ない蹴りを避けつつ口を開いたコウキがとっさに倒した首の真横を何か細く鋭い物が後ろから飛び抜けていき、仕込み刃の男の眉間に深く突き刺さった。
「・・・っ・・・」
それが針金のような物だとわかり、コウキはゾっとする。
しかし怖がる間もなく殺気を感じたコウキは、くるりと体の向きを変えて手近にいる奴を無理やり自分の体の前に引っ張った。
不運な盾にされた男は、体を数ヶ所針金に刺されて昏倒してしまう。
「・・・お~いおいおい。それ『武器』っつうじゃ・・・」
ルールを見てないのかと顔をひきつらせたコウキが改めて周りに残っている連中を見渡すと、なんとほとんどの者達が何かしらの刃物や鉄板を体に仕込んでいた。
「・・・・・・」
コウキの眉が、ぴくりとはね上がった。
「・・・おやおや、本当にバカ正直だったのはコウキだけだったってことかい?」
状況に気付いた観客席のユウヒは、ため息混じりに呟いた。
「卑怯者ーっ!!男なら堂々と拳で闘えーっ!!」
血を見て更に血圧を上げたミルアは、臆せずに怒鳴り声を上げた。
蒼白な顔をしたリンは、ぎゅっと祈りの形に手を握った。
ステージ上のコウキは、どんどんとイライラしてくるのを感じた。
「・・・ああそうかよ・・・そういう事かよ・・・本っ当、あのバカ王子の国らしいなぁ・・・」
真面目にルールなど読んだ自分がバカだったと激しく後悔しながらコウキは口を開いた。
「我が身我が魂に集いし雷の精霊 我が手を依代にその力を現せっ!!うおらぁ!!感電しやがれっ!!」
怒りまくったコウキが放った魔法が炸裂し、ステージ上の全面に雷電がはしった。
鉄製の物を持っている者、身に着けていた者たちはことごとく叫び声を上げて倒れてしまい、最終的にはコウキのように武器を持っていない者、もしくは持っていたとしても鉄製でなかった者だけが数名残った。
そこで頃合いを見計らったように、終了の合図の大砲が鳴る。
「・・・はぁ・・・」
大きなため息をついて力が抜けたようにリンはミルアの肩に手を置かせてもらい、更にその手の上に額を乗せた。
「考えたじゃないか。ちゃんと残ったね」
鉄に雷とは咄嗟によき考えたものだとニコニコしながら誉めるユウヒの言葉に、ミルアはリンを肩に乗せたままふんと息を吐いた。
「あったり前だ!あんな奴等に負けたら怒るぞ!」
卑怯者に負けるようなコウキでは、もう護衛とも師匠とも認めないと厳しく言い放ったミルアに苦笑したユウヒは、ふと気付く。
「・・・って事は、本戦は堂々と武器が使えるんだから、剣を届けなくちゃね。一緒に行こう。すぐ本戦だろう」
単独行動は良くないし、リンとミルアの護衛代理のつもりでいるユウヒはそう誘い掛けたが、リンは力無く首を振った。
「・・・今は、会いたくありません。私、お手洗い・・・」
そう言ってふらっと歩き始めたリンに目を瞬いたユウヒは、それならばとミルアの肩をたたく。
「じゃあ僕がコウキに剣を届けてくるから、ミルアはリンと一緒に。また後でここに戻ってくることにしよう」
「わかった」
リンの気持ちを推し測り、二人はすぐに行動した。
休憩時間を利用して手洗いや屋台に移動する人の波の中を、ミルアとはぐれないよう手を繋いで歩きながらリンは一人考える。
(・・・今コウキの顔を見たら絶対に弱音吐きそう・・・)
まさか、こんなに不安な時間を過ごすことになるとは思っていなかった予選。
もうこれ以上は見たくないから本選には出ないで欲しいなんて、口が避けても言えない。
それ以前に、こんなに弱々しい顔をコウキに見せたくなかった。
(こんな思いするくらいなら、一緒に出た方がマシだったかも・・・)
見ているだけしかできない事が。
そばにいない事がこんなにも辛いことだとは知らなかった。
「・・・リンは、本当にコウキを想ってるんだな」
「・・・えっ!?」
手を繋ぎながら歩くミルアに突然そう言われ、リンは驚く。
そんなリンを、ミルアは目を和ませて見詰めた。
「リンが心配でたまらないのは、それだけコウキのことが大事だからだろう?」
ミルアの優しい声に頬を染めたリンは、しばらくためらった後でこくんと頷いた。
これではどっちが年上なのかわからないと思いつつ、リンはミルアだけに白状する。
「・・・私も、自分でわからなかった。少し離れただけで、自分がこんな風になるなんて・・・」
正直に言ったリンをかわいいと思ってしまい、ミルアはくすりと笑う。
「大丈夫だ!コウキならあっという間に勝ち残って、すぐに会える!」
励ましてくれるミルアに感謝を込めて、リンはミルアの手をきゅっと握った。
混雑する手洗いの入り口で待ち合わせをし、だいぶ並んでから先に出て来てミルアを待っていたリンは、慣れない人波に押されてどんどんと移動してしまい、結局人混みから外れた所まで来てしまい立ち止まった。
(ミルアが出てきたら、声を掛ければいいわよね)
ミルアの明るい美しい色の髪なら、すぐに見つけられる。
人混みの中で自分の声などどこまで届くかも把握しないまま、リンはのんきに考えて壁際に立った。
「・・・あれ?君、確か・・・」
人混みでない方から突然近付いてきた声に驚き、リンは思わずそちらに顔を向けた。
コウキよりも長身で、砂色の髪をした険のある瞳の青年が、驚いた顔で近付いて来る所だった。
「?」
どこかで会ったことがある人だったろうかとリンが首を傾げた時。
「君、さっき受付のとこで赤髪の奴とキスしてたよね?」
「・・・!・・・っ・・・」
唐突に投げ掛けられた言葉に一瞬ついていけず、あの時見られていたのだと理解した瞬間、リンは腹部に衝撃を受けた。
みぞおちを殴られたのだと思ったときには、リンは意識を失っていた。
意識を手放しぐったりとしたリンの体を、青年はそのまま運び去った。




