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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
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国風

明けましておめでとうございます!本年も引き続き、よろしくお願い致しますm(__)m

「・・・近くに軍隊はいないようだな」

 辺りの気配を探り、コウキは呟いた。

 隊長や副隊長の言った通り、国境の門から適度に離れたこの場所は、ウェントゥス軍のいない『穴』になっているようだった。

「今のうちに移動しよう」

 月が隠れているうちにとユウヒに促され、異論があるわけもなく四人は急いで移動する。

「・・・・・この辺りも、本当はマール・モーリェだったんだ・・・」

 ぽつりとミルアが呟いた。

 開戦当初からウェントゥスの勢いは強く、マール・モーリェは押されていた。

 先程越えてきた壁は、国土の一部を切り捨てることを覚悟の上で大戦元旦始まってから急ぎ造ったものだった。

 今歩いている場所は暗くてよく見えないが、壊れた建物が残る荒れた街。

 間違いなく、自分の国民が住む場所だったはずなのにとミルアは悔しく唇を噛んだ。

「ミルア・・・」

 そんなミルアになんと言葉を掛けたらいいかわからず、リンがそっと名を呼ぶ。

 その時、一番前を歩いていたコウキが振り返らずに口を開いた。

「・・・お前は、それで許せるのか?」

「・・・え・・・?」

 その問いに、ミルアはリンの隣でさっと顔を強張らせた。

「お前の国を荒らして、国民を苦しめてる張本人にこれから会う事になるんだぞ?」

 国土全てを凍らされ、国として全く機能していなかったアイズベルグ。

 敵対してはいたものの、戦争自体に反対し戦に出ることのなかったフォレスタのユウヒ。

 その両者とはまた違う感情を抱くことになるだろう。

 ミルアはうつ向いて考え込んだ。

 果たして、悔しさや憎しみといった激情をぶつけずにいられるだろうかと。

「・・・ユウヒは・・・どう思う・・・?」

 同じく国を背負う者として、ミルアはユウヒに助けを求めた。

 その頼りない声に、一番後ろを歩くユウヒは苦笑する。

「さあ?会ってみないとわからないな」

 ユウヒにしてみても、条件はミルアと同じだ。

 軽く聞こえたユウヒの声に、先頭のコウキは嫌な顔する。

「・・・お前の方がブチ切れそうだな・・・」

「あはは、それもアリだねぇ」

「あははじゃねぇよ・・・」

 簡単に笑うユウヒに、コウキはがくりと肩を落とした。

 そんなやりとりに呆気に取られているミルアに、リンはそっとささやく。

「私はミルアの立場、想像するしかできないけど・・・。自分の気持ちや感情を大切にしてほしいと思うわ。怒りや悲しみがあるなら、押し込めなくていいと思う。その時になってみないとわからないけど、もし暴走して危ないようだったら、ちゃんと止めるから」

 心配いらないと微笑んでくれたリンに、ミルアは自分をそのまま受け入れてくれる存在に心底ホッとした。

「じゃあリン。ユウヒの事も止めてくれるか?」

「もちろん止めるわよ」

「コウキが暴走したら?」

「・・・・・止められるかしら・・・」

 難しい声を出したリンに、ミルアは思わず吹き出して笑った。

「・・・こら、俺はバケモノか・・・?」

 言霊使いを苦戦させる暴れん坊は、今のところ守護神くらいなものだ。

 それと同じ扱いをされるのは心外だと抗議したコウキの声に、ユウヒも吹き出す。

 実際は、どんなに暴れていてもリンの一声で瞬く間に大人しくなってしまいそうだと思ってしまったからだ。

「・・・ユウヒ、笑うな・・・」

 笑いを必死にこらえるユウヒの姿に、なんとなく何を想像しているのかわかりコウキは顔を引きつらせたのだった。

 暗いうちに距離を稼ぐため夜通し歩いた四人は、小高い山を一つ越えたふもとで休むことにする。

「・・・風が強くなってきたわね」

 ウェントゥス領土に入ってマール・モーリェが遠くなる分、どんどん風が強まるようだった。

「うん、あの北から東の山脈が見えるだろう?あっちがフォレスタ。で、あの山脈から吹き下ろす風が強いんだ」

「で、西側の海からの海風か・・・」

 ユウヒの言葉を補足し、コウキは確認する。

 両方からの風が混ざり合う加減で竜巻が起こるのだ。

「・・・人が住んでいて被害は無いのかしら?」

 そんなにしょっちゅう竜巻が起きていては街も造れないだろうと首を傾げるリンに、ミルアは教える。

「私は見たことないけど、建物が特殊なんだそうだ。防風の何かになってるのか?」

 ミルアに視線を向けられたユウヒは首を振った。

「残念ながら、僕もウェントゥスに来るのは初めてだよ」

 自分も見たことが無いのだと言ったユウヒは、コウキに目を向けた。

「・・・俺も戦場しか見たことねぇよ」

 のんきに観光などしたことはないとコウキは吐き捨てた。

 確かにと納得したリンは、行ってみればわかるかと一人頷いた。

 そこで仮眠を取った四人は、モンスターと戦いながら人のいないような所を選んで都へ向かった。

 そして徐々に人の集まる地域へと入った四人は、大いに納得し感心することとなった。

 平地に並んでいるのは、ほんの物置小屋程度の丈夫な石造りの建物。

 その建物の上に長い竿が立てられ、洗濯物が吹き付ける風にはためいている。

 その小屋は言わば玄関に過ぎず、人々は地下の住居で暮らしているのだった。

「・・・なるほど。これなら竜巻が突然起きても被害は洗濯物だけで済むわけか」

 空気孔などどうなっているのかまではよく分からないが、ちゃんと環境に適した知恵に感心しユウヒは頷いた。

 そこに住む人々も、度胸が据わっているのかおおらかなのか、コウキ達旅人を見ても気にする風でもなく、むしろ気さくに声を掛けてくる。

「なんか、戦争してるなんて嘘みたいだ・・・」

 ミルアは呆気に取られて呟いた。

 不安など欠片も見えない住民に思わず尋ねてしまったミルア返ってきた答えは、こうだった。

「ウェントゥスは風奏神ふうそうしん様とヒエン様に守られてるからね。心配はないんだよ。現にうちの国は他国の侵略もないどころか、領土を奪う勢いだ。いずれ全ての国を治める事になるのはヒエン様さ!」

 肝っ玉母さん風の女性はカラカラと笑ってそう言った。

「・・・ヒエン王子はずいぶん信頼されてるんだな」

 地元では戦に出ないことで腰抜けの王子と言われていたユウヒは複雑な思いでそう呟いたが、それを聞き付けたコウキはふんと鼻を鳴らした。

「あんなの、ただの戦バカだろ」

 ユウヒを庇うような言い方にも驚いたが、何よりその言葉はヒエン王子を直接知っているかのようで、一同はコウキを見詰めた。

「・・・ヒエン王子と、会ったことあるのか?」

 ミルアに問われ、コウキは一瞬言葉に詰まった。

 だが、仲間達にじっと見詰められて根負けしたコウキは、嫌々ながらも結局口を割った。

「戦場で、何度か」

 一言だけだったが、ミルアは意味を悟り目を丸くした。

「戦ったのか!?」

「・・・・・まぁな・・・」

「で?」

「で?ってなんだよ・・・」

 ニッコリと笑って問うユウヒの放つ底知れぬオーラにたじろぎつつ、コウキは問い返した。

「会ってみてどんな人だったのか、どっちが勝ったのか、でしょ?」

 ユウヒの一言に込められた問いをリンが代弁したが、コウキはむっつりとして仲間達から目を反らした。

「そんなんどうでもいいだろ」

 そのコウキの態度からその意味を悟り、三人は頭を寄せてひそひそ言葉を交わした。

「・・・負けたのかしら」

「負けたんだな」

「『炎竜』ともあろう者がねぇ」

「聞こえてんだよっ!負けてねぇっつの!」

 怒鳴ったコウキをちらりと見て三人は再び顔を寄せる。

「・・・負け惜しみかしら」

「負け惜しみだな」

「『炎竜』ともあろう者がねぇ」

「・・・お前ら面白がってんだろ・・・」

 コウキががくりと肩を落とした時、近くを歩いていた中年の男が声を掛けてきた。

「お前さん達よそ者かい?大会に出場する為に来たのか?」

「・・・は?」

「大会?」

 声を掛けられきょとんとする一行の様子に、中年男は苦笑した。

「なんだ、剣士がいるからてっきり。ほら、あの貼り紙だよ」

 指で示された方を見ると、所々の家の玄関に共通のお知らせが貼り出されてあった。

 男はニコニコと気さくに笑いながら教えてくれた。

「なに、最近飛ぶ鳥も落とす勢いのヒエン様が、一緒に戦に連れていく強者を選ぶのさ。いわば側近だな。強さに自信のある者なら他国の者でも構わないっつー、ヒエン様の広い心でな。近頃じゃ圧されてるフォレスタやマール・モーリェに付いてるより、ウェントゥスの方がいいってそっちから流れてくる奴らも・・・」

「・・・え?」

「・・・なに?」

 ぴくりと反応したミルアとユウヒの様子に気付かず、男は上機嫌に続けた。

「まぁそれも仕方ねぇよな。フォレスタの王子は戦にも出ねぇ腰抜けって話だし、マール・モーリェの後継者はチビっちぇ小娘だろ?飛ぶ鳥どころか、飛ぶ竜だって落とせるヒエン様の方が・・・」

 ーーーーなんだとーっ!?落とせるもんなら落としてみやがれ~!!

「あっ・・・!」

「・・・な、なんだっ!?今の声っ!?」

 突然聞こえた幻霧神の声に慌てた一行が声を発する前に、中年の男はびっくりしてキョロキョロと周りを見渡したが当然声の主の姿など見えず、リンはあたふたしながら言い訳を探した。

「どっから聞こえたんだ!?」

「・・・こ、この人の腹話術ですっ!すごいでしょっ!?」

「こ、こらっ・・・!」

「腹話術っ!?」

 とっさについたリンの言い訳にぎょっとして、何を言ってくれるのかとコウキが目を剥いたときには時すでに遅く、男はまじまじと感心したようにコウキを見詰めた。

「ほ~、驚いたなぁ。うまいもんだぁ」

「でしょう!?・・・ほら、もっとなんか言ってみてっ!」

「う・・・」

 ーーーーおいおっさんっ!飛ぶ竜も落とすってその王子!オレがこてんぱんに倒してやるぜっ!

「・・・ばかっ何言っ・・・!」

 目の前でぎょっと目を見開いた男の反応を見て、いくらなんでも自慢の王子を倒すなどといったらいくら気さくな人間でも怒るに決まっていると慌てたコウキの前で、男は豪快ににかっと笑った。

「おもしれぇ!ヒエン様を倒すたぁ大きく出たなっ!大会で優勝して側近に選ばれればそのチャンスもあるかもしれないぜ!やってみなっ!」

 その反応にどう返したらいいのかわからず顔をひきつらせるコウキの肩にユウヒが、そして腕にミルアがそれぞれ触れた。

「・・・コウキ・・・やってしまえ・・・」

「こてんぱんにな・・・」

 昏い声と瞳の二人に、今度はコウキがぎょっとする。

「何言ってんだお前らっ・・・」

「ふふふふふふふふ・・・」

「くすくすくすくすくす・・・」

 ミルアとユウヒは目の前で散々な言われ方をした上に、自分達の味方だった者がウェントゥスに流れていると教えられたことがよほどショックだったようだ。

 すっかり人が変わっている二人に、リンは思わず後ずさる。

「・・・二人とも、怖い・・・」

「ふふふふふふ・・・」

「くすくすくすくすくす・・・」

「ふふふふふふ・・・」

「くすくすくすくすくす・・・」


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