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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
ウェントゥスの旅
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成長

 マール・モーリェのとある港町で一行は船を降りた。

 駐在している軍人たちはすぐにハルアの船だと気付き、一行を丁寧に迎えた。

「すまない、みんな。大変な戦いを強いているな」

 フォレスタと共同でとは言え、守る戦いをするよう命令を出しているミルアは、軍人たち一人一人を見てそう言った。

 このあたりの責任者をしている隊長は跪いて首を振る。

「いいえ。世界を救う為に立ち上がった王女を、我ら一同誇りに思います」

「・・・ありがとう」

 本当なら、今まで敵対していたフォレスタと提携を組むことにだって、一軍人としては言いたいこともあるだろう。

 だが、それでもミルアの決定に従ってくれる軍人や兵たちに、ミルアは心からの感謝を表した。

 その日の夜、隊長や主力の軍人達と共に一行は今後の作戦を練った。

 コウキやユウヒ、ミルアが積極的に発言し、ハルアが冷静にまとめていくのを、リンは戦略などさっぱりわからないながらもチームワークが出来ていると感じて嬉しく見ていた。

 だからこそ、翌日ハルアが言い出した事に驚いた。

「・・・どうしてだハルア!?」

 驚くミルアを、リンは不安げな瞳で見た。

 だが、責めるように問われたハルアは落ち着いていた。

「ちゃんと考えた結果だよ、ミルア。僕はマール・モーリェに残る」

 静かに、だがハッキリと言ったハルアをコウキはじっと見た。

 その視線に、ハルアは笑って見せる。

「怖じ気づいたわけじゃないですよ。確かに僕は戦闘の役には立たないし・・・」

「そんなのっ・・・みんなでフォローすれば・・・!」

 大丈夫と言おうとしたリンの言葉を、ハルアは首を振って否定した。

「足手まといになるのはわかってます。それでも、僕がアイズベルグへ付いて行ったのはどうしてだと思いますか?」

 ユウヒは黙ってハルアの話を聞いていた。

 眉を寄せるミルアとリンに苦笑しながらハルアは続ける。

「・・・ミルアのいない国で、一人で王や王妃を支えるのが怖かったからです。いなくなったミルアを必死で探そうとしたのも、一人が怖かったから」

「ハルア・・・」

「でもミルア。僕も少し自信がついたんだ。今までみたいにミルアの後を追いかけるだけじゃなく、僕は僕の役割を果たすよ。ミルアがいない間、国を守るのは僕だ」

 胸を張って宣言したハルアに、ミルアは瞳を潤ませた。

 ハルアが言ったことは、ミルアがフォレスタに一人で向かう時に、まさに心の中で託した願いだった。

「ミルアが一生懸命なのもよくわかったし。・・・仲間を心から信頼してるのもわかった。旅の間、ミルアは僕にも見せたことのない笑顔で笑ってたね」

 微笑みながら言うハルアをミルアは見詰めた。

 確かに、この仲間は王女としてではなくミルア個人を見てくれる為、ミルアは素直な自分を出すことができる。

「だから正直・・・あのブラックハルアの時も焦ってたりしたけど・・・。でも、ミルアが幸せなら、僕も幸せだから・・・」

「ハルア・・・!」

 ミルアは微笑むハルアの首に抱きついた。

「ありがとう・・・!私はハルアを信頼してる。ハルアはやっぱり、私のいとこだ・・・!」

 ハルアの言葉に感激して泣くミルアに、ハルアは苦笑した。

「・・・いつか『いとこ』じゃなくて『婚約者』って言ってもらえるように僕も努力するよ」

 そう言ってミルアの頬にキスを贈ったハルアは顔を上げてコウキとユウヒを見た。

「・・・だから、間違っても手なんか出すなよ・・・?」

 その昏い声と目に、コウキとユウヒは目を瞬いた。

 だがその間にいつもの穏やかなハルアに戻り、ニッコリとリンに笑顔を向ける。

「ミルアのこと、よろしくお願いします」

「もちろんよ!」

 急に大人になったハルアの成長に感激しながら返事をするリンの声を聞きながら、コウキとユウヒはひそひそと話し合う。

「・・・今、一瞬ブラックの方じゃなかったか?」

「う~ん、ブラックだったよねぇ?」

 そうでなければ、二人を睨んだりするハルアではないはずなのだが。

「・・・まぁ、中間くらいがちょうどいい気もするけどね」

「・・・上手い具合に混ざればいいけどな・・・」

 変に偏った性格になるのは、たまらない。

「無事に国境を越えるのを見届けたら、城に戻るよ」

「・・・父上と母上のこと、頼む・・・!」

 向かい合い、真っ直ぐに見つめ合ったハルアの頬に、ミルアは少しためらってからキスを贈った。

「・・・おお、進歩だな・・・」

「う~ん、ただの『ありがとうのキス』だと思うけど・・・」

「いいのよそれでも!二人の間にはちゃんと絆があるんだから!」

 こっそりと茶々を入れるコウキとユウヒを、リンは小声でたしなめた。

 二人の事、将来の事は、これからミルアも逃げずに考えてきちんと答えを出すことだろう。

 それが例えどんな結論だったとしても、成長したハルアならちゃんと受け止める。

 リンにはそう思えた。

「・・・では、行きましょう」

 ハルアは毅然と国境へ瞳を向けた。

 道案内の為に副隊長が一人付いてくれただけで、一行は国境を目指した。

 戦場になるかもしれないと言っても、街を通らなければいけない為に馬では目立つ。

 徒歩で進む一行の前に、国の境となっている門が見えた。

 そこから長城が続いており、お互いの侵入を拒んでいる。

 さすがにこの辺りには民間人もほとんどいない。

 時々思い出したようにウェントゥス側から砲弾が飛んで来るからだ。

 以前はマール・モーリェからも攻撃を仕掛けていたが、今は止めているためウェントゥス側も様子を伺っていることだろう。

 むしろこれを機に一気に攻めてくる可能性もある為、国境付近は更に守りを固めていた。

「暗くなってから、壁を越えるのがいいでしょう」

 副隊長の言葉に、一同は頷いた。

 いくらなんでも、門をそのまま通るわけにはいかない。

 目立たないような所まで移動して、暗闇に紛れて行くしかない。

 夜もだいぶ更けた頃、月が雲に隠れた隙に、コウキたちはハルアと副隊長に別れを告げた。

「・・・気をつけて」

 リンの言霊で浮遊し、音も無く壁を越えて行った仲間達の姿が見えなくなっても、ハルアはしばらくの間壁の向こうを見通すように、じっとその場に立ち尽くしていた。

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