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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
始まりの旅
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水浴び

 今いる森は、緑の国フォレスタの辺境。

 海の国マール・モーリェ側のはずれだ。

 そこからどう進むのか、ミルアは二人に説明する。

「なるべく町は避けながら進む。大きな町は軍が駐在してるから物騒だ。戦場に巻き込まれてもたまらない。だから、不自由な道を進むことにはなるが、よろしく頼む」

「兵隊はいないが、モンスターがいる、か」

 町でない場所はやはりその分危険も多い。

 眉を寄せて難しい顔をするコウキに、ミルアはニッと笑った。

「その為にお前を雇ったんだ。しっかり働いてくれ」

「・・・へいへい」

 高額報酬を即金で支払える雇い主様に、コウキはしぶしぶ頷いた。

 そこへミルアはだめ押しする。

「もちろん、兵士だってどこにいるかわからないからなっ!」

 年若い三人がウロウロしていれば、この時代それだけでも怪しまれる。

 ゴタゴタはなるべく避けたい。

 年下の少女に厳しく言われたコウキは早くもうんざりしていた。

 成り行きとはいえ、とんでもないことになったとため息をついた時、ミルアが突然突拍子もないことを言い出した。

 出発をする前に、水浴びをしたいと。

「今まで一人だったし、良さそうな小川とかあっても満足に体も洗えなかった。気が抜けないしな。でも今は、見張りをしてくれる護衛もいるし」

 にんまりと笑うミルアの言い分も確かに理解でき、コウキは頭を押さえてため息をつく。

 次にミルアはリンに顔を向けた。

「リンも一緒に水浴びしようっ!・・・実は私は一人で湯浴みもしたことないんだ。悪いが手伝ってくれっ!」

「・・・ええ!?」

 後半をコウキに聞こえないようにこそこそと耳元で言われ、リンは驚いた。

 本当に、この少女は何者なのか。

 ミルアは驚いているリンに続けて耳打ちする。

「あいつに知られたらバカにされそうだし、内緒で頼む!」

 ミルアの視線を追い、リンは納得する。

 確かに一人で水浴びもできないなどとコウキに知れたら、必ず一言二言物を言うだろう。

「・・・わかったわ」

 しかたなくリンは頷いた。

 ミルアは嬉しそうににっこりと笑ってから、ビシッとコウキを指さした。

「のぞくなよっ!」

「誰がのぞくかっ!!子供に興味なんかねぇよっ!!」

「失礼なやつだな!子供じゃないっ!もう赤ちゃんだって産めるんだからなっ!!」

 ムキになってそう言い返され、コウキはがくりと肩を落とした。

「・・・・そうですか」

 言い合いするのもバカらしくなりそう言うしかないコウキを、ミルアは勝ち誇って見た。

「わかったか。ほら、見張り見張り」

「・・・・はいはい」

 ものすごく疲れたようなコウキの背中に、リンは苦笑を送った。

 小川の岩の陰に回ったリンとミルアは、時間を無駄にしないよう手早く衣服を脱いだ。

「あったかい季節で良かったなっ!」

「そうね」

 まるで妹の世話でもするようにミルアを手伝いながら、リンはそっと呟くように尋ねた。

「ねぇミルア?どうして私が首都に行きたいか、聞かないの?」

 その問いにきょとんとしたミルアは、少し考えてから口を開く。

「・・・ん~、確かに聞いてみたいけど、逆に私が聞かれても困るからな~」

 ミルアのその答えに、リンは目を瞬いた。

 思ったよりミルアは考えている。

 何か事情があるのは確かだが、目的を遂行できる位にはしっかりしていそうだと思えた。

 好奇心だけで根掘り葉掘り聞きたがるような少女ではない。

「・・・確かに、あなた子供じゃないわね」

 優しく認められ、ミルアは顔を輝かせた。

「そうだろうっ!あいつ、失礼だよなっ!?」

「本当ね。私も今朝、同じこと思ったもの」

 クスクス笑いながら言ったリンの言葉に、ミルアは首をかしげた。

「・・・リンは、コウキと仲悪いのか?」

 リンは苦笑した。

「悪いも何も、一昨日会ったばかりの人だし。名前以外なにも知らないもの。ここでお別れだと思ってたしね」

「・・・ふ~ん・・・」

「さ、次は髪よ?」

 ミルアの美しい髪を手に取り、リンはにっこりと笑った。


 コウキは小川の方に背を向けて、少し離れた木陰に入り一人ブツブツ言っていた。

(・・・ったく、なんでこんなことになるんだか。水浴びなんかしてる場合か。自分たちばっかりサッパリしやがって!ぜってー俺も水浴びしてやる!)

 一通りブツブツ言ってから、ひとつため息をつく。

(しっかし最近の女は空から降ってくるのが流行りなのか!?リンといい、ミルアといい・・・。どっちも一風変わってるし。もっとしっかりしてればまだしも、二人して危なっかしいのに、旅なんて・・・)

 片や、光と共に降ってきた謎だらけの女。

 片や、やたら偉そうで金持ちの少女。

 こんな二人が一緒に旅をしようなど、無謀もいいとこだ。

 それに巻き込まれている自分が、もしかして一番の貧乏くじを引いているのかもしれない。

(・・・まぁ、しょうがねぇか。放っとくわけにも・・・)

 そこまで考え、コウキはぴくりと顔を上げた。

「!」

 水辺の近くに、巨大なモンスターの気配を感じた。

 突然現れたところを見ると、水中に身を隠して近付いて来たのかもしれない。

 ザバァっと大きな水音と同時に、リンとミルアの悲鳴が聞こえた。

 舌打ちしながら、コウキは二人の元へ急ぐ。

「・・・おいっ大丈夫・・・」

「『氷結』!」

「・・・はぁっ!」

 コウキが岩の陰に姿を現した時には。

 リンの術によって凍らされたモンスターを、ミルアの蹴りが粉々に打ち砕いていた。

 バラバラになったモンスターの氷の断片が、ボチャボチャと音を立ててせせらぎの中へ落ちていく。

「・・・ふん」

 上手に岩の上に降りたったミルアは水中に沈んでいく無数の氷を見て、鼻を鳴らした。

「でかいわりに、たいしたことなかったわね」

 ため息をつきながら、リンは片手で長い髪をさばいた。

 とても息の合った技を見せた二人は。

 全裸。

「・・・・」

 顔を動かしたミルアは、蒼白な顔をして突っ立っているコウキを見つけて叫んだ。

「・・・コウキ!いつからそこにいた!?」

 やっぱりのぞきかと怒鳴ったミルアの声に、リンもハッとして首を巡らせた。

 そして、ひきつったような蒼い顔をしたまま突っ立っているコウキを見つけ、真っ赤になった。

 みるみる怒りの形相で赤くなっていくリンと目が合い、コウキは我に返った。

「ちがっ・・・!のぞきじゃなくてっ・・・!」

「『風刃』!『風刃』!『風刃』~~~~~!!」

「心配したんだろぉがぁ~!!」

 パニクったリンの呪文で大きな岩がスパスパ斬れていくのを、そして、ダッシュで逃げながらその風の刃を見事に避けるのを見て、ミルアはリンとコウキのそれぞれに称賛の拍手を送った。

「お前ら護衛なんかいらねぇだろ~っ!!」

 コウキの絶叫が、森に響き渡った。

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