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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
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子供の村・再

「やっと戻ってきたな」

「カ、カイリたちの村だね」

 幻霧神によって増幅されたリンの言霊で、アイズベルグの凍れる人々は蘇り、国を囲っていた氷の壁は消え去った。

 王を亡くし、敵を防ぐ壁も失ったアイズベルグの為、身重な王妃の為に、アイズベルグに隣接しているフォレスタとマール・モーリェの両国は、アイズベルグを共に守ることを約束した。

 大人たちの戻った村や街を見ながら、一行はハルアの船を停めている最初の港へと戻ってきた。

「・・・寄ってくかい?コクワと約束してただろ?」

「・・・ああ」

 いつもの笑顔でユウヒに問われても、コウキは目も合わせず頷いただけだった。

 その反応に、ミルアは気まずく口を閉じ、リンをちらりと見る。

 コウキと離れた所を歩くリンは、コウキの方を見ようともせず黙々と歩いていた。

 その様子に、ミルアはきゅっと唇をかむ。

 アイズベルグ城では、カッとなり一方的にコウキを責めたミルアだったが、幻霧神の言葉もあり、もっとコウキの言い分も聞いてやるべきだったのではと思っていた。

 コウキのことは、今までの旅を共にしてきて、よくわかっているはずだった。

 理由もなく人を傷つけるような男ではないと、わかっていたのに。

 軽口をたたいてはいても、中身は違うと。

 だが一番の心配は、リンだった。

 たった一人でも道を進もうとしたリンの気持ちを思うと、辛くなる。

 きっと全てが崩れ去っているようなものだろう。

 コウキの一番そばにいたのはまぎれもなくリンであり、月の人間だとわかっていて、それでも想いをぶつけてくれたコウキを誰よりも信頼していたのも、リンだっただろうから。

「・・・ミルア、滑るよ?」

 凍った雪道を考え事をしながら歩いているミルアを心配したハルアが、その手を取った。

「・・・大丈夫・・・?」

「・・・・・・」

 心配そうに顔を覗き込まれ、ミルアは思わず涙ぐんだ。

「ミルア・・・」

 ミルアが何を考えていたのかわかり、ハルアはうるんだ瞳を見詰めた。

 コウキとリンを心から信頼していたミルアは、ずっと二人の事が大好きで、二人一緒にいる空気が大好きで。

 二人が一緒にいることに安心感を覚えていたのだ。

 両親に置き去りにされた子供のような頼りない顔をしているミルアを見て、ハルアはそっとため息をついた。

 あれからコウキは、何も言うことはないの一点張りで、一切の言い訳もしていない。

 コウキが何を考えているのか、誰も知ることはできない。

 何か言葉があればリンの態度も違うのだろうが、今のままではリンへの気持ちも否定しているようで、二人の作る雰囲気を知っているハルアとしてはとてもやるせない。

 ユウヒはユウヒで、何事も無かったかのように振る舞っている為、こっそりとその話題を持ち出すのもためらわれた。

 ミルアは誰にも相談できずに一人で悩んでいるのだ。

「・・・・あ」

 先頭を歩いていたユウヒが声を上げ、ハルアはどきりとして顔を上げた。

 前方の村の入口で、見覚えのある子供達が大きく手を振っていたのだ。

 その中から、ひときわ小さな子供が飛び出してきた。

「・・・兄ちゃん、姉ちゃん!おかえりっ!」

 そう叫んで飛び出してきたコクワは、真っ先にコウキに飛び付いた。

 ぎゅっとしがみついたコクワは、満面の笑顔でコウキを見上げる。

「あのねっ空がぱぁっと明るく光ったら、父ちゃんと母ちゃんが帰ってきたんだよっ!」

「・・・良かったな、コクワ」

 嬉しそうに報告するコクワに、コウキは久々に見せる笑顔で微笑んだ。

 頭を撫でられ、コクワはニッコリとする。

「オレ、兄ちゃん達が助けてくれたんだって、すぐにわかったよっ!」

「・・・そうか」

「兄ちゃん達!!」

 コクワと話しているうちに、カイリやミナギや女の子達の子供達が皆駆け寄ってきた。

「親父たちも、兄貴も、皆、みんな戻ってきた!」

「またみんなで暮らせるようになったの・・・!」

 息を切らせて報告する子供達の目は涙でうるんでいたが、キラキラ輝くその笑顔にコウキ達は救われる思いがした。

「王子様みたいなお兄ちゃんが、手品してくれたのっ?」

 小さな女の子に問われたユウヒはクスクス笑う。

「いや、手品をしたのは僕じゃないよ」

「・・・コクワ!この人達か!?」

 村の入口から、長身の赤髪の男性が慌てて走ってきた。

 続いて、肩口で切り揃えた黒髪の女性も。

 コクワの家で家族の絵を見ていた、ユウヒ以外の四人はその二人がコクワの両親だとすぐにわかった。

「父ちゃん!母ちゃん!そうだよっ!」

「あなた達が子供達の面倒を見てくれた人達なのね!」

 笑顔を向けられ、コウキはたじろぐ。

「いや、面倒っつっても、一晩だけだし・・・」

「この兄ちゃんと姉ちゃんが、オレと一緒に寝てくれたんだよっ」

 一生懸命に両親に説明するコクワは、本当の両親が戻ったことでコウキとリンを父ちゃん母ちゃんとは呼ばなくなっていた。

 その事に気付いたリンは、なぜかもの寂しさを感じ、そんな自分の気持ちに驚いて急いで瞬きをする。

「良かったわね、みんな」

 子供達の笑顔を見られたことが、とても幸せだった。

 ずっと心細い思いで過ごしてきた子供達に笑顔が戻ったことが、一番のご褒美だった。

「・・・コクワの言う通り、確かに俺たちに似てるかもな」

「私達の若い頃みたいね♪」

 コクワの両親に改めてまじまじと見られたコウキとリンはドキッとする。

「・・・ねぇ?お兄ちゃんとお姉ちゃん、なんで離れてるの?」

「こいびとどーしなのに」

「ふーふゲンカ?」

 おしゃまな女の子三人が不思議そうに二人を見上げた。

 子供達の無邪気さに言葉が詰まる二人の後ろで、ミルアとハルアはもっと何か言ってやってくれと真剣な瞳で何度も頷く。

 リンはきゅっとこぶしを握った。

「・・・べつに恋人同士じゃないし、ケンカもしてないわよ?」

 なんとか笑顔を浮かべたリンを、女の子三人は不審そうに見る。

 コクワはきょとんとし、カイリとミナギは不安そうに顔を見合わせた。

「なんで?前は仲良かったのに」

「お父さんとお母さんみたいだったのに」

「なんか二人変だもん」

 またもや言葉に詰まるコウキとリンの後ろで、これまた必死に頷くミルアとハルアを見、コクワの両親は顔を見合わせた。

 二人はつつつ・・・とコウキとリンに近付き、コクワの父はコウキの肩に腕を回して肩を組み、コクワの母はリンの手を取って握った。

「なんかわからんが、意地張っててもいいコトないぞ?」

「腹割って話し合ってこその夫婦よ♪」

「・・・いや、だから夫婦じゃないし・・・」

「まぁまぁ、とにかくうちの村で休んでいってくれ!」

「恩人だもの♪さぁどうぞ♪」

 有無を言わせぬ強引さで、コクワの両親は一行を村の中へと誘った。

 肩を組まれたコウキと手を握られたリンは逃げることも叶わず、前に泊まったカイリの家、つまり村長の家に連れて来られる。

「やぁやぁ!あなた方ですかっ!子供達から話は聞いておりますっ!ありがとうありがとう!もひとつありがとう!」

 出迎えた村長の感激ぶりに、いったい子供達からどんな風に話を聞いたのだろうと一同は顔をひきつらせた。

「さあ!ゆっくり休んでいってくださいっ!」

 村長との対面をしている間に、コクワの両親は村長の妻に何やらごしょごしょと耳打ちをしていた。

「・・・さぁさぁ!くつろいでくださいねぇ♪」

 村長とその妻に促されるままに、一同は反論の余地もなく食事をごちそうになり、酒まで振る舞われ風呂を使わせてもらい、着替えの準備や寝室の支度までしっかり世話をされた。

 入浴を終えたリンとミルアは、村長の妻に寝室へと案内される。

「・・・はい、あなたはこちら。あなたはこちらね♪」

 それぞれ別の扉の前に案内された二人はきょとんとする。

 てっきりミルアと同室と思っていたリンは、扉を開けてぎょっとした。

「・・・部屋、間違ってますっ!」

「問答無用っ!!」

 リンをドンと押して室内へ押し込めた村長の妻は、扉の外からガチャリと鍵を掛けてしまった。

「ちょっ・・・!ちょっと・・・!開けてっ!」

 どんどんとたたく扉の向こうから、村長の妻の無情な声が聞こえた。

「夫婦なんてね、いくらケンカをしても一晩共にすれば朝には仲直りしてるものですよ?じゃあね、朝になったら開けてあげるから」

「だからっ夫婦じゃないって言ってるのにっ・・・!」

 訴えも虚しく、村長の妻はミルアを促して扉から遠ざかって行ってしまった。

「・・・っ!」

 室内に取り残されたリンは、おそるおそる振り向いた。

 ベッドの上に、呆気に取られた顔をしてこちらを見ているコウキが座っていた。

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