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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
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炎竜の真実と幻霧神

「本当にやるのか?」

「もちろん」

 アイズベルグ城の屋上で、コウキの厳しい瞳で見詰められたリンは、負けずに真っ直ぐに見つめ返して頷いた。

 王の寝室で氷り漬けになっていた王妃や王の側近たちは、リンが放った癒風光によって救われ、自由を取り戻した。

 氷の中でずっと仮死状態のまま生き続けていたのだ。

 ただ一人、凍らされる前に命を落としたアイズベルグ王だけは甦ることはなかったが、王妃も、胎内の子供も無事に生還を果たした。

 何が起きたのかわからず混乱するアイズベルグの人々にユウヒがそつなく状況の説明を行い、一夜明けた今、リンは大きな目的を持って屋上へ来ていた。

 そばでは、心配そうにミルア、ユウヒ、ハルアも見守っている。

 そんな中で、コウキは鋭くリンをにらんだ。

「国中の大人たちを助けようなんて、お前の体が保たないだろ」

 アイズベルグの国境を囲む、大人たちを閉じ込めた氷の壁。

 王妃たちが生きていたことから考えて、氷の中にいる大人たちも城下の人々も皆生きている可能性がある。

 同じように癒風光をかければ、元に戻れるかもしれないのだ。

 だが、その規模は、国全土だ。

 とてもではないが、範囲が広すぎる。

「・・・でもきっと、氷月神はその為に私を待ってたのよ」

 ギリギリの選択で国民を氷り漬けにした氷月神の心を思えば、放っておくことはできない。

 それに、このまま子供達だけが残されても、国は成り立っていかない。

 返せる可能性があるなら、子供達に家族を返したい。

 昨夜から、何度も話し合ったことだった。

「コクワやミナギやカイリだって、他の子達もまた家族と一緒に暮らせるかもしれないのよ!?」

 それを言われ、コウキはぐっと押し黙る。

 あの子達の思いは、全員痛い程わかっているつもりだった。

 だが、リンのやろうとしていることはあまりにも大き過ぎる。

 コウキがぎりっと歯を鳴らした、その時。

 ーーーーコウキ~っ!もういいじゃん!そろそろバラしてもいいだろー?

 能天気な少年の声が空から聞こえ、全員がぎょっとして空を振り仰いだ。

「・・・え?今の声・・・」

 聞き覚えのある声に、リンは目を瞬く。

 ーーーーこのままやらせたら、リン死ぬぜー?オレなら手助けできるじゃん。なんで言わないんだよ?

「え・・・?」

「何・・・?」

「うるせぇ幻霧げんむっ!!勝手にしゃべんなっ!!」

 何がなんだかわからず呆然とするミルアやユウヒの前で、コウキは空に向かって怒鳴った。

 その声に、リンは弾かれるようにコウキを見た。

「・・・幻霧・・・!?」

 目を見開いたリンの反応にハッとし、コウキは舌打ちした。

「・・・幻霧?って、どこかで聞いたことが・・・」

 呆然と呟くミルアの隣で、ユウヒが口を開けた。

「・・・あ~!・・・ああ・・・あ~あ!なるほど・・・」

 あんぐりと口を開けてから、一人でポンと手を打ち大きく頷いた後、一人で納得しているユウヒを、コウキは嫌ぁな顔で見た。

 ーーーーほぉらコウキ~!ユウヒにはバレちゃったよ♪

 誰のせいだと機嫌悪くこぶしを握るコウキを見ながら、ミルアはハッと思い出す。

「・・・幻霧って・・・フォレスタの城でリンが言ってた・・・!月の守護神・・・!?」

「ええっ・・・!?」

 ミルアの言葉に、ハルアがぎょっと驚く。

「リンが教えてくれたよな・・・!?青き月の守護神は夜霧神よむしん。赤き月の守護神は、幻霧神げんむしん・・・!」

 ーーーーよく覚えてたじゃん、ミルア♪そっ♪オレ幻霧!

 親しげに名を呼ばれてあっさりと肯定され、ミルアは目を丸くする。

「・・・え?・・・ってことは、コウキ・・・」

 ミルアは思わず、コウキとリンを交互に見た。

 リンはまだ目を見開いたままコウキを見詰めていた。

 ーーーーコウキが大人しくしてろって言うから黙ってたケド、オレもず~っと一緒に旅してたんだぜっ♪

 リンの視線に耐えきれなくなり、コウキは大きくため息をついて額に手を当てた。

「・・・コウキ・・・?」

 呆然としたリンの声に名を呼ばれ、コウキは顔を上げた。

「・・・俺は・・・」

 ーーーーコウキは赤き月の長老の孫なんだよな♪故郷を嫌って地上に家出してきたけど、地上は戦争の真っ只中でさ!やさぐれて戦荒らしなんてし始めた頃に、ちょうどいいからってオレと契約したんだよなぁ~?

「うるっせぇっ!人のことペラペラペラペラしゃべってんじゃねぇよっ!」

 ーーーーだってコウキなかなか話そうとしないじゃん。

「これから話すんだよっ!とにかく黙って・・・」

 ゆっくりと動いたリンが目の前に来て、コウキは口をつぐんだ。

 自分の前で立ち止まり、今まで見たこともないほどニッコリとリンが笑った時にコウキは覚悟を決めた。

 バチーーーン!!

「・・・うわ・・・」

 強烈なビンタを目の当たりにし、ユウヒは思わず苦笑してミルアとハルアは目を手で覆った。

「・・・信じらんないっ!!よく今まで黙ってられたわねっ!!」

 怒鳴るリンの瞳がみるみるうちに潤んでいった。

「・・・っ・・・!」

 そのまま涙が止まらず、うつ向いて嗚咽を上げ始めたリンに何も反論もできず、コウキは立ち尽くした。

「・・・そりゃあ、怒るよな・・・」

 ミルアはぽつりと呟いた。

 地上を救う為に青き月から一人で来たリン。

 本当なら、赤き月からの使者と合流して二人で使命を果たす手筈になっていたのに、森でモンスターの大群に襲われたために相手との合流を諦め、たった一人で重荷を背負ったのだ。

 そう考えるうちに、ミルアはムカムカする気持ちを抑えられなくなった。

 言葉も泣くリンをかばうように立って、コウキをにらんだ。

「なんで最初から言わなかったんだ!!リンがかわいそうだ!!そんなんでよくリンにちょっかいかけられたなっ!!最低だ!!」

 初めからコウキが、自分は赤き月の人間だと名乗っていれば、リンも心強かったはずだ。

 コウキやミルアを巻き込みたくないからと、一人で離れるようなこともなかった。

「見損なったぞコウキ!!」

 大声で叫び大きく肩で息をするミルアに、コウキは目を細め視線を合わせないよう横を向いた。

 その態度に、ミルアは更にカッとなる。

「なんとか言ったらどうなんだっ!!」

「ミ、ミルアっ・・・!」

 目尻に浮かんだ涙を振り飛ばしながら叫ぶのを見かねてミルアの肩を押さえたハルアも、責めるようにコウキを見た。

「・・・別に、改めて言うようなことはない」

 ぼそりと口を開いたコウキに、リンはハッとした。

 皆が注目するなかでコウキは続ける。

幻霧げんむが言った通り、俺は赤き月の生まれで長老の孫だ。何の因果か知らねぇけど幻霧の契約者ってことになってる。でも俺は故郷を捨ててきたんだ。今更赤き月の使者だなんて言うつもりはない」

「・・・じゃあ、なんで君はリンが降り立ったあの森に、あの日あの時にいたんだい?」

 面倒臭そうに言い捨てたコウキに、ユウヒは鋭く質問した。

 ユウヒの言葉に、ミルアとハルアも目を瞬く。

 コウキはまるで赤き月の代表として動くことを拒否するような言い方をしたが、それならば青き月の使者と落ち合う予定になっていた場所に現れたのは不自然だ。

 ずっと真実を隠して拒否する位なら、あの森に来なければ良かったのだ。

 ーーーーなんだかんだ言ってもコウキいい奴だからさ。文句言いつつ、青き月からリューマチ持ちのばーさんが来るって聞いて放っとけなかっ・・・。

「だからお前は黙ってろっての!!」

 再び口を挟んだ幻霧神に、コウキは力一杯怒鳴った。

 幻霧神の言葉に、リンは涙に濡れた目を押さえながら唇をかむ。

 ーーーー本当は長老のじーさんが地上に来るはずだったのに、ぎっくり腰が酷くなったから、ちょうどいいからお前が行けって一方的に連絡寄こされたんだよな~?

「うるっせぇ!!そもそも神託下ろしたのはてめぇだろーがっ!!結局こっちに面倒事押し付けやがってっ・・・!」

 ーーーーあー!そういう事言うか~!?いいじゃん!ぎっくり腰のじーさんとリューマチのばーさんじゃ何もできゃしなかったんだから、こうなることになってたんだよ!コウキとリン、いいコンビじゃん!!

「勝手に決めんな!!だから俺は守護神なんて嫌いなんだよっ!」

 ーーーーなんだそれ!?初めて聞いたぞ!?

「・・・もうやめてっ!!」

 未だ姿の見えない幻霧神と大喧嘩を始めたコウキに、リンは叫んだ。

 ぴたりと口を閉ざした幻霧神の気配と、目の前のコウキにリンは静かに口を開いた。

「・・・もういいわよ・・・。それより、力・・・貸してくれるなら、お願い。早く凍らされた人達を戻さなきゃ・・・」

「・・・・・・」

 目を合わさないリンの力無い声に、何も言えずコウキは唇をかむ。

「・・・あなた、最初からずっと、嘘ばっかり・・・。もう、信じない・・・。今までの言葉も、信じられない・・・」

 小さな消え入るような声のリンの呟きに、コウキは目を見開き、こぶしを握る手に力を入れた。

 リンの呟きを聞き取ったミルアとユウヒに、コウキの反論を待ってじっと見詰めた。

 だが、コウキはリンの言葉には何も答えなかった。

 その事は、まるでリンの言葉が本当だと言っているようで、リンは瞳に力を入れて再び溢れそうになる涙を抑えた。

「・・・幻霧」

 ぽつりと呼んだコウキの呼び掛けに応え、空に大きな影が落ちた。

「・・・わっ・・・!」

「うわわわっ・・・」

「・・・ドラゴン・・・?」

 空を見上げたミルアとハルアは驚き、ユウヒは目を細めて影の正体を見極める。

 アイズベルグ城の上空に現れたのは、大きな赤銅色の鱗が輝く一頭のドラゴンだった。

「・・・幻霧神・・・?」

 その竜体の美しさに目を奪われ、リンは幻霧神を見詰めた。

 ーーーーそっ♪オレが幻霧♪改めてよろしくな~♪

 確かにそのドラゴンから聞こえてくる能天気な少年の声。

 そのギャップに一同は言葉もなく幻霧神を見詰めた。

 美しさに見とれていたユウヒは、あることに気付きハッとした。

「幻霧神よ。あなたは『黒い月』とやらの影響は無いのですか?」

 ユウヒの問いに、幻霧神はパチリと目を瞬いた。

 ーーーーん~、オレたち月の守護神と地上の守護神はそもそも別物なんだよな。だから、俺らは平気。

「そ、そうなんだ・・・」

 幻霧神の説明でわかったようなわからないようなと、ハルアはとりあえず頷く。

「幻霧神。この国の人たちを助けるにはどうしたらいいの?」

 真っ直ぐに見つめるリンに問われ、幻霧神は大きな顔をリンの方へ向ける。

 ーーーーああ、ごめん。普通なら契約者のコウキにしかしないんだけど、特別な。オレの力をリンに入れるから、リンはいつも通りに言霊を使えばいいよ。オレの力で増幅される。

「・・・わかったわ。じゃあ、お願いします」

 背筋を伸ばして立ったリンを、幻霧神は赤い瞳でじっと見詰めた。

 ドクンっとリンは自分の心臓が跳ねるのを感じた。

 急激に強大な力が自分の中に入ってくるのがわかった。

「・・・あっリン、目の色っ・・・!!」

 そばにいたミルアが一番に気付いた。

 濃い青色のリンの瞳が、幻霧神の力を受け取ることによって真っ赤に変化していた。

 少し離れた所でコウキが見守っているのを感じながら、リンは大きく息を吸った。

「『癒風光』!!」

 その瞬間、氷の国アイズベルグ全土が、光に包まれた。

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