表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
75/119

氷月神の思い

「・・・王妃・・・」

「こんな・・・」

 ユウヒ、ミルア、ハルアの三人は、王の寝室と思われる部屋の扉を開けて立ちすくんだ。

 中には重臣と思われる数名と侍女。

 ベッドの側には医師らしき白衣を着た男。

 ベッドには、アイズベルグ王が横たわったまま凍りついていた。

 そして、王の胸にすがっているのは、悲しみの涙を流しているとすぐにわかる悲痛な顔をした王妃だった。

 王妃の腹部は、間もなく臨月を迎えるだろうとわかる程の膨らみを持っていた。

 結婚式の時の若く凛々しい印象からは、まさかこんな終わり方をするなんて想像もつかなかった。

 まさに、王の死の瞬間に氷月神の力で凍らされた場面を、ミルアもハルアも悲痛な顔で見つめる。

 ユウヒは厳しく目を細めた。

「・・・じゃあ、氷月神はいったい・・・」

 誰も残っていないとすれば、氷月神が誰を操っているというのか。

 ユウヒがそう呟いた時だった。

「・・・きゃああああっ!!」

 悲鳴と共に、突然コウキとリンが天井から降ってきた。

「えっ・・・!?」

「うわっ・・・!?」

 ぎょっと目を剥くミルアとハルアの前に、なんとか着地に成功したコウキが片膝を着き、そのコウキを下敷きにするようにリンが落ちた。

「コウキ・・・リン!?」

「・・・いったた・・・」

「重いっ!早くどけろっ!」

「悪かったわねっ!!・・・あれ?」

 悪態をつかれて怒鳴り返し、コウキの上から退けたリンは周りの景色の変化に気づく。

「・・・ミルアっ!ユウヒ様!ハルア!」

 やっと再会できたと喜んで涙ぐんだリンはミルアに抱き着く。

「良かった会えて~!もう大変だったのよ!同じ所をぐるぐるぐるぐる・・・!」

 立ち上がったコウキも心底嫌気がさした顔で付け加える。

「方向感覚狂わされるわ、水攻めにされるわ、最後はものっすごい吸引力で吸い込まれてここに出たんだよっ!氷月神ってのはミルアの親父かっつーぐらい色ぉ~んな仕掛けでそりゃあもう楽しくてしょうがなかったっての!!なぁ~にが『氷月神は私を待ってる』だ!!遊ばれただけだろが!!」

 矛先を向けられたリンはカチンときた。

「出られたんだからいいでしょ!?何よ自分だって子供みたいにムキになってたくせに!!」

「ああっ?そりゃムキにもなるだろうが!!だいたいっ・・・!」

「ストップストップ、二人とも」

 閉じ込められて遊ばれた鬱憤のせいで、大喧嘩になりそうな二人の間にユウヒが入った。

「二人とも、よく見てごらん」

 静かに促され、コウキとリンは首を巡らせた。

「!」

 まるで物語の一場面のように時を止めた凍れる人々の姿に二人は息を飲んだ。

「・・・王様と、王妃様・・・?」

 呟いたリンの言葉を、ユウヒは頷いて肯した。

 いったいどんな場面なのかを理解し大人しくなったコウキとリンに、ミルアは一生懸命に訴える。

「今までみたいに、王も王妃も操られてるわけじゃないのに・・・!氷月神はどこにいるんだ・・・!?」

 もう城内に、動いている人間がいないことはミルア達が確認済みだった。

 ミルアの訴えを受け、厳しい顔つきになったリンは神経を集中する。

「・・・氷月神!望み通り、私は来ました!どうか姿を現して下さいっ!」

 リンの祈りのような呼び掛けの直後、コウキはハッと身構えた。

 その動きにつられ、ミルアやユウヒも緊張して身構える。

 その一同の前、つまりアイズベルグ王と王妃の前に、大きな人影がぼんやりと現れた。

「氷月神・・・!」

 剣をいつでも抜けるよう握ったコウキは影をにらみ、リンはただじっと、少しずつ実体を持ち始めた氷月神の影を見つめた。

 ーーーー・・・月の民・・・言霊使いの娘・・・。

 聞こえたその声に、ミルア達はハッとした。

 柔らかで優しく透き通るような女性の声だった。

 すっかり実体を現した氷月神は、微かに光る素材の白く美しいドレスを身に纏った雪の女王のような姿をしていた。

 ーーーー・・・地上に降りし、月の娘よ・・・もう・・・時間が・・・。

 夢のように美しい顔を歪ませた氷月神の表情に、一同はハッとした。

 氷月神はかすかに揺れる体で、苦しげに言葉を絞り出す。

 ーーーー・・・急ぎなさい・・・私たちは『神』などではない・・・ただの・・・。

「!?」

 氷月神の口から出た言葉に、一同は耳を疑った。

 ーーーー・・・もう・・・私も・・・もたない・・・民たちを、どうか救って・・・っ・・・あああああああああっ!!

 突然響いた氷月神の絶叫。

 それと同時に豊樹神の時のような禍々しい障気が氷月神の体から放出された。

「・・・っ『防御』!」

「どういうことだ!?」

 とっさに言霊で障気を防いだリンの隣に立ったコウキは剣を抜き叫んだ。

 リンは歯を食いしばって防御を続ける。

「わからないわ!今の今まで氷月神が正気だったのは確かよっ!」

 全員が戦闘体勢に入り、頭を巡らせる。

 ユウヒは、豊樹神が最後に残した言葉を思い出していた。

(あの時『違う・・・私の本当の願いは・・・』と言った・・・!そして氷月神は『私たちは・・・ただの・・・』と・・・)

 ユウヒはハッと顔を上げた。

 ただの直感だったが、的を射ているような気がした。

「リン!コウキ!守護神たちは何者かに操られてるんじゃないのかっ!?」

「・・・えっ!?」

 驚いて振り向いた二人に、ユウヒはいつにない真剣な顔で訴える。

「豊樹神も、戦争は本意ではないような言葉を残したんだ!慈澪神は、豊樹神と戦った僕達のことを知っていた!氷月神の言葉と合わせれば、彼らの裏に誰かっ・・・!」

 ーーーー黙れぇっ・・・!

「・・・きゃっ!!」

「っ・・・!」

「うわぁっ!!」

 氷月神の叫びと共に強烈な障気がぶつけられて耐えきれずにリンが吹き飛ばされ、防御膜を失った一同は障気を浴びた。

「・・・我が身我が魂に集いし炎雷の精霊! 我が剣を依代にその力を現せ!!」

 すぐに起き上がれないリンの代わりに、歯を食いしばったコウキが立ち上がり呪文を唱えた。

 効果はすぐに現れ、手にした剣に炎と雷の力が宿り、凄まじい力の奔流が氷月神の障気を薙いだ。

「ミルア!炎で攻撃しろ!」

「・・・っ!」

 檄を飛ばされたミルアはハッとして起き上がり、大きく息を吸って呪文を叫んだ。

「我が身我が魂に集いし炎の精霊! 我が手を依代にその力を現せ!!」

 凛としたその声に応え、ミルアの右手に光が宿った。

 そして。

「・・・あれ?」

 手の平からひょろひょろっと出た、ロウソクの火程の3つの火の玉に一同は目を丸くする。

 障気を防ぎながら、コウキはカッと目を怒らせて振り返った。

「お前なー!!道端の大道芸人でももっと大きな火出すわ!!」

「初めてだったんだからしょうがないだろうっ!!だいたい!!この辺にいる炎の精霊全部コウキが持ってったんじゃないかっ!!」

 剣が数倍の大きさに膨れ上がって見える程の力を宿しているベテランのコウキに敵うわけもなく、怒られる筋合いではないとミルアは怒鳴り返した。

 ただでさえ凍りつき、火の気の無い国なのだ。

 舌打ちしたコウキは次の手を考える。

「なら水で膜張れ!!防御だ!!」

 意図を理解したミルアは再び呪文を唱えた。

「我が身我が魂に集いし水の精霊! 我が手を依代にその力を現せ!!」

 今度はいつも通りの馴染んだ手応えに、ミルアは会心の笑みを浮かべる。

 上手に水の膜が張れたことを感じ取ったコウキは、剣を振るう合間に振り返る。

「・・・よしっよくやったっ!・・・って、俺も入れろよっ!!」

「・・・あれ?」

 なぜか最前線にいるコウキだけ水の防御から外され、ミルアは首を傾げる。

 全員を防御するイメージで呪文を唱えたのにと眉をひそめるミルアの後ろで、ハルアが控えめに発言した。

「・・・お、大きな炎の剣、持ってるからじゃないかな・・・?」

 本来、火と水は相反するもの。

 そのせいではないかと言ったハルアに、ミルアもユウヒもなるほどと納得して頷いた。

「ふざけんなー!!ずっとこのままかよっ!?」

 炎の剣をおさめれば障気を防ぐものが無くなり、コウキ一人がダメージを食らうことになる。

「そう言われても・・・」

 どうしたらいいのか困るミルアの肩に、よろりと起き上がったリンが手を置いた。

「・・・ありがとう。大丈夫。私がコウキを引き込むから、そのまま水の膜を張っててくれる?」

 ミルアの肩に掴まらせてもらいながら、リンは呼吸を整える。

「・・・『防御』!」

 ふいに手にかかる負担が無くなり、リンの言霊に守られたとわかったコウキはホッと肩の力を抜き、炎の剣をおさめた。

「そのまま中に入ってきて!大丈夫、通れるから!」

 リンの声を聞き、コウキはまだ苦しむように障気を放出し続ける氷月神から視線を外さないまま後ろへ下がり、ミルアの張る水の結界の中へと入った。

「うっ・・・!」

 コウキの炎の剣も、リンの防御も前に無くなり、直接自分が張る結界に障気を受けたミルアは、その衝撃に驚き、とっさに両手を前に突きだして足を踏ん張った。

「な・・・んだ、これっ・・・!くっ・・・!」

 圧倒的な力に押され、ミルアは血が出るほど歯を食いしばり、その額には汗が浮かんだ。

 いくら自分が初心者とはいえ、今までこんな威力を持つ力を受け止めていたコウキやリンの強さを知った。

 ミルアの様子に気付いたコウキはすぐに動き、その背中に手を添え、魔法力を送り込んでサポートする。

 ぐんっと両手から出た自分のものではない力強い魔法力に助けられて負担が減り、ミルアはホッとした。

 はやりまだまだ師匠コウキが必要なようだ。

 スムーズに魔法力が送れていると確認したコウキは、顔を上げてリンを見る。

「これでいいんだろ?あと任せるからな」

 コウキの言葉に、リンは目を瞬いた。

 そのきょとんとした反応に、コウキは目を細める。

「なんだよ?氷月神と話すんだろ?」

 氷月神が待っていると言ったリン。

 言霊使いを待っていた、正気だった氷月神。

 リンを防御から外し、対話に集中させる。

 この作戦に何か文句はあるかとにらむコウキに、リンはふわりと微笑んだ。

 なんだかんだ言いつつも、コウキは自分のやりたいことをわかってくれている。

 そう感じた。

「・・・話せるかい?」

 ユウヒの静かな問いかけに、リンは強い瞳で振り返った。

「はい。氷月神を結界で包んでみます。また正気に戻れるかも・・・!」

 さっきのユウヒの言葉通りなら、結界を張ることで氷月神を操っている何者かの干渉を防くことができれば、元の氷月神としての意識を取り戻すはずだ。

「だ、大丈夫かな・・・」

 守護神の干渉を防ぐ結界ですら大変そうだったのに、その守護神を操る力なんてもっと大変なのではと不安を声に出すハルアに、リンはニコっと振り返る。

「大丈夫!だから、皆信じて!それが力になるから!」

「!」

 そう言われ、ハルアはハッとした。

 言葉には、力がある。

 自分はいつも、不安ばかりを言葉に出してきた・・・。

 ハルアはぎゅっとこぶしをにぎる。

「・・・はいっ!絶対大丈夫です!」

「お前以上に頑固な奴なんて、この世にいねーよ」

 付け加えられたコウキの言葉はぶっきらぼうだったが、リンはにっこりと笑顔を返した。

「ありがとう。やるわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ