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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
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氷の罠

「・・・っ・・・いたた・・・」

「・・・どうなったんだ・・・?」

 いくつものカーブを曲がり、かなり長い時間猛スピードで滑り落ちたコウキとリンは、やっと平らな所に出て、壁にぶつかって止まった。

 かなりの勢いでぶつかった二人はしばらく動けずにいてから、体の下の冷たさに耐えられなくなり、やっとの思いで身を起こす。

「・・・ミルアたちは・・・?」

 周りを見渡したリンが不安げな声を出した。

 コウキが立っても辛うじて頭がぶつからない位のドームになっているこの場所には、コウキとリンの二人しかいなかった。

 そして、ドームの四方には入口のように穴が4つ空いている。

 その穴の1つから滑り落ちてきたのだが。

「あっちはあっちで、違う所に落ちたのか?」

 よっこらせと立ち上がったコウキは、それぞれの穴を調べる。

「落っこってきたのは、ここだな」

 どの穴も似たようなものだったが、壁にぶつかった時の角度からしても間違いないと、氷をコンコンとたたいたコウキにリンも頷く。

「浮遊で昇っていって、ユウヒ様達と合流しなきゃ」

 つるつる滑る坂を生身で登るのは困難と判断し、言霊を使うことにしたリンはコウキに近付いた。

 一緒になって穴をのぞき込んだが、うねうねとカーブしたトンネル内はとても出口まで見えるようなものではなかった。

 落ちてきた過程を思い出し、コウキはやれやれとため息をつく。

「・・・あっちこっちぶつからないようにしねーとな」

 急カーブの続く狭いトンネルは、浮遊で昇って行くにも困難なように思えた。

 リンにも、その状態はよくわかった。

 だから、コウキの意図は理解していたし、その方が安全だと頭ではわかっていたが、腰に手を回されて体を密着させられたとき不覚にもリンはドキッとしてしまった。

「・・・ふ、『浮遊』!」

 妙な沈黙を疑問に思われる前にと、リンは慌てて言霊を唱えた。

「ゆっくり行けよ」

 慎重に行かないとアザだらけになると言ったコウキにリンは頷き、トンネルの先をしっかりと見詰めた。

「・・・・あれ?」

 半分程も昇ったかと思ったところで、リンは声を出した。

 コウキも眉を寄せて難しい顔をする。

 出口につながっているはずのトンネルの先が、氷でふさがっていたからだ。

 しかも、後からふさいだのではなく、もともとそうだったように滑らかな氷の表面がトンネルの終わりとなっていた。

 二人は眉を寄せて顔を見合わせる。

 確かにこの穴だと思ったのだが、どれも同じような穴だったので間違えたのかもしれない。

「・・・・きゃあああああっ!!」

「どわっ!!」

 再び一番下のドームに滑り落ちてきた二人はもんどり打って重なり合い止まった。

「・・・誰よっ!『滑った方が早い』とか言ったの!!」

「お前が『ミルア達が心配だから早く』って言ったんだろうがっ!!」

 浮遊したままうねうねトンネルを降りてくるのは、登るより難しい。

 時間的には何倍も短縮されたことは確かだった。

 なんとか体を起こし、さて登るべき穴はと顔を巡らせた二人は固まった。

 同じような穴が、5つに増えていたからだ。

「・・・え~っと・・・」

「1個、増えてる・・・?」

 明らかに、氷月神の術中に捕らわれてしまっていた。

 コウキはピクピクと眉をひきつらせた。

「こうなりゃ手当たり次第だっ!行くぞっ!」

 再び二人は浮遊でトンネルを登ったが、途中で水音が聞こえ始めて慌てふためいた。

「ヤバイっ!戻れっ!」

「急には無理よっ!」

 言い合っているうちに水音がどんどん大きくなり、ものすごい量の水がトンネル内で二人を襲った。

「・・・・っげほっげほっ!冷た・・・」

「うがぁ~っ!腹立つ!!」

 結局水と一緒にまたドームへ戻ってきたコウキとリンは、びしょ濡れになりぐったりとする。

 この氷の世界で濡れるのは、命取りだ。

 だが、まるっきり遊ばれているような氷月神に対する怒りでコウキは血圧を上げる。

「リンっ!乾かして次行くぞっ!!」

「・・・はい・・・」

 言霊で服を乾かした二人は、別の穴へと挑戦した。

「・・・・・・」

「・・・え~と・・・ずっと、昇ってたわよね・・・?」

 ずっとトンネルを昇ってきたはずなのに、同じドーム内の別の穴から逆さまになって出てきた二人は立ち尽くす。

 途中で、どうやら方向感覚を操作されたらしい。

「・・・氷月神って、ミルアの親父か・・・?」

 おちゃめな仕掛けが大好きな王様が、コウキの脳裏に浮かび上がった。

 ドーム内の穴は、7つに増えていた。



「・・・っと、危なかったぁ~・・・」

「ハルア、大丈夫か?」

「ひ、ひぇぇ・・・っ」

 突然足下の角度が変わり、ミルアとハルアにしがみつかれたまま重力に引っ張られ体勢を崩されたユウヒは、とっさに剣を抜いて氷に突き立て、なんとか滑り落ちることを免れた。

 下を見れば、滑り台のようになっている氷の坂は底が見えないほど続いていた。

 落ちなかったことにホッとしたユウヒは、ミルアに顔を向ける。

「ミルア、登れるかい?」

 さすがに人を二人もくっつけたままぶら下がっているのはキツイとユウヒに視線を向けられたミルアは上を見る。

 もうひとつ足掛かりがあれば、上に登れそうだった。

「・・・ミ、ミルア、これ使える・・・?」

 ユウヒの背中にしがみついたままのハルアが、自分の腰に着けてあった短剣を差し出した。

 それを見たミルアは目を輝かせる。

「いいぞハルア!貸してくれっ!」

 ハルアから短剣を受け取ったミルアは、なるべくユウヒの負担にならないように静かにその肩に足を掛け、氷に短剣を突き刺して、ユウヒの剣とハルアの短剣を足掛かりにし坂を登る。

 続いてハルアがびくびくしながら登り、最後にユウヒが二人に手を貸してもらい登った。

「・・・はぁ・・・やれやれだねぇ」

 ミルアもハルアも、同じ年頃と比べたら細身で小柄とは言え、人を二人もぶらさげて剣ひとつを頼りに落ちないように耐えるのはなかなか辛かったと、ユウヒは肩や首をぐるぐると回して筋肉をほぐした。

「あれ・・・!?」

 リンを迎え入れる為に氷月神が開けてくれたトンネルに戻った三人は、コウキとリンがいないことに気づく。

 見ると、リンが転んだ辺りにミルア達が落ち掛けたのと同じような下り坂の穴が空いていた。

「・・・もしかして、向こうも落ちたのか?」

「見事に落ちたのかもねぇ」

「あわわわわっ・・・ど、どうしようっ・・・」

 三人は顔を見合わせる。

 少し考えてからユウヒが口を開いた。

「まぁ、あの二人ならなんとかして出てくるだろう。リンの言霊があるわけだし」

 二人を探すために、穴に落ちてみる気にはどうしてもならないのが本音だった。

「リンがあれだけ自信を持って『私を待ってる』って言ったんだ。きっと二人は氷月神の所に落ちた辿り着くよ。僕らは僕らで辿り着こう。・・・城の中がどうなってるかも確かめたい」

 もしかしなくとも、城下の街のように、城にいる人間も凍らされている可能性が高いと思い至り、ミルアとハルアも頷いた。

「・・・確か、アイズベルグ王は、大戦が始まる前・・・もう6年になるか?6年前位に妃をめとって・・・」

 情報を思い出すミルアにユウヒは頷いた。

「そうだよ。その式に、僕もミルアも参列した。若い王と王妃は、とても幸せそうだった・・・」

 あの頃は国交も何の問題もなくて、盛んに交流していた。

 だが、戦争が始まってしまい、氷の国アイズベルグは一切表に出なくなり、国民はおろか王や王妃の消息さえわからなくなったのだ。

「・・・行ってみよう」

 正門に向かってトンネルを歩き出したユウヒに、ミルアとハルアも警戒しながら付いて行った。

「良かった・・・門、開いてたな」

 門が凍りついていたらどうしようかと思ったが、半開きの状態になったまま凍っていることにミルアはホッとする。

 中に入るためにコウキの言ったように火の魔法を使わなければならないかもしれないと思ったが、まだ水以外の魔法を一人で使うには自信が無かったのだ。

 門を通り、すぐに見えたお城の正面入り口に入る前に、三人は空を見上げた。

「・・・内部は凍ってないのかな」

「城全体が氷のドームに覆われてるだけだったね」

「こ、こういう置物、あるよね・・・」

 ハルアが想像したのは、ガラスの半球体の中に水が入れられ、キラキラ光る砂などが入れられた飾りの小物だった。

 それを思いつき、中に囚われたような感覚がして、三人はぞっとした。

「よし、入ろう」

 全く凍っていない大きな扉をそっと押し開けたユウヒは、中から出てきた冷気にハッとした。

「・・・っ!」

 ミルアとハルアもぞくりと体を震わせる。

「中の方が寒いみたいだね」

 目を細め、いつもの柔和な顔から厳しい顔つきに変わったユウヒは、二人を促して中へと入った。

「!?」

「あっ・・・!」

「う、わっ・・・!?」

 入ってすぐのホールで三人は足を止め、絶句した。

 おそらく、城で働く者たち。

 衛兵や侍女たちが、仕事の為に動いている姿のまま、オブジェのように氷に閉じ込められていた。

「・・・ここもか・・・」

「ひどい・・・」

 瞳も開いたまま凍りついている人達に、ミルアは声を震わせた。

 ハルアも唇をかみ、こぶしをぎゅっと握っている。

 ユウヒは中央の大階段に目を向けた。

「王の部屋は上だ。行ってみよう」

 階段を上り、二階は大ホールや会議室のような公式に使用するフロアになっているようだった。

 一応、全ての部屋を見て見なければ、どこに氷月神がいるのかわからない。

「・・・リンやコウキみたいに、守護神の気配がわかればいいんだけどねぇ」

 ため息まじりに呟いたユウヒの言葉にミルアは目を瞬いた。

「ユウヒ・・・それ・・・」

「カイリたちの村でも、言ってましたよね・・・?」

リンが凍らされそうになっていたとき、コウキに向かってお前なら守護神の気配がわかるだろうと言ったユウヒの言葉を、ミルアとハルアは疑問と共に覚えていた。

「どうして、コウキもわかると思うんだ?」

 普通なら、自分達のように守護神の気配などわからない。

 だが、あの時のユウヒは確信を持った言い方をしており、コウキもそれを否定しなかった。

 ミルアの問いに?ユウヒはくすりと笑う。

「なんとなく。いつもリンと同じに反応してたし。・・・『炎竜』だったってこと以外にも、まだ秘密がありそうだよねぇ」

「・・・・・・」

 楽しそうに笑うユウヒを見ながら、ミルアは今までのことを思い返した。

 確かに、フォレスタで豊樹神と戦った時には異常な位に影響を受け動けなくなっていたし、豊樹神と慈澪神の本体が現れた時には、その姿が見える前にリン共々構えていた。

(リンとコウキの共通点って、なんだ・・・?)

 なぜ二人にだけ守護神の存在を読むことができるのか。

 考え込むミルアに、ユウヒは苦笑を浮かべた。

「・・・まぁ、ただの野生のカンなのかもしれないし。機会があったら、ちゃんと聞いてみよう」

 そう言われてぎこちなく頷くミルアを優しい目で見ながらも、ユウヒは心の中で確信めいたものを感じていた。

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