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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
73/119

氷の城

「・・・うわわわわわっ!!」

「こらっ邪魔だハルアっ!!」

 あまり村へは寄らないようにしながら国の中心部へと近付いてきた一行は、雪原の中でモンスター群に遭遇していた。

「ほらほら、危ないよ~」

「ひぃっ・・・!」

 モンスターを狙って横凪ぎにしたユウヒの剣が、頭を抱えてしゃがみ込んだハルアの頭上をかすめる。

「だりゃあっ!!」

「うわっ!?ぐえっ・・・」

 ミルアの飛び蹴りで吹っ飛んできたモンスターに潰されて目を回したのを見かねたリンが、結界にハルアを引き込む。

「ここでじっとしててね。・・・『火炎弾』!」

「はわわわわ・・・っ」

 ぎゅっと目を閉じたハルアのまぶたの向こうで、リンの放った炎がモンスターを焼き尽くす。

 戦闘で全く役に立たないハルアは、リンの張ってくれた個人用結界の中で縮こまっていた。

(・・・はぁ・・・自分の身は自分で守るって言ったのに・・・)

 結局は各人の邪魔になったり、手間を掛けさせてばかりいるとハルアはため息をついて落ち込む。

 慈澪神の影響を受けていたという自分は、自覚はなかったがもっと積極的にいろんなことができていた。

 行動も、思考も、今の自分とは全く違う。

 そのことが、更にハルアを落ち込ませた。

 人格が変わっていたとはいえ、今のお前ではミルアに釣り合わないと言ったコウキの言葉が、重くのし掛かっていた。

「・・・あれが、お城・・・?」

 呟いたリンの言葉に、一同は沈黙した。

 雪の丘を登り、眼下に首都を臨んだものの、真っ白に雪をかぶった街はひっそりと静まり返っており、中心にそびえる王城は、なんと建物全体が氷で覆われていた。

「人の気配、無いな・・・」

「子供達もいないのか?」

 街の中を警戒して歩きながら、コウキとユウヒは辺りを見回す。

 シーンとして耳が痛くなるような静けさの中で、一行の雪を踏む足音だけが聞こえていた。

 ミルアはぎゅっとリンの手を握りながら王城を見つめる。

「油断できないぞ。またいつ氷月神がリンを狙ってくるか・・・」

「・・・・・」

 ミルアの言葉に、リンも唇を引き締めてこくりと頷いた。

 あれから一度も攻撃は無かったが、何をどうやって来るかは全くわからない。

 大通りも全く人の気配もなく、雪の塊があちこちにゴロゴロしていて進むのは一苦労だった。

 先頭を進むコウキは、突然ドクンっと心臓が跳ね、胸に圧迫感を感じて立ち止まった。

 フォレスタで豊樹神と戦ったとき程ではないが、同じような感覚に嫌な予感がしたコウキは、おもむろに目の前の雪の塊に触れた。

「コウキ・・・?どうした?」

 すぐ後ろを付いてきていたミルアの問いに答えず、コウキは手で雪を払っていった。

「・・・っ!」

「う、うわっ・・・!」

 何をするつもりなのかとコウキの行動を見守っていたリン達は息を飲み、ハルアはひきつった悲鳴を上げた。

「・・・ひとっ!?」

 雪の塊の中から出てきたのは、氷の中に閉じ込められた人間だった。

 まるで、大通りを歩きながらさて次はどの店に行こうかと首を巡らせた瞬間に氷に閉じ込められたようで、今にも歩き出しそうな姿だった。

「まさかっ・・・周りの、全部ひとなのかっ・・・!?」

 ミルアは慌てて首を巡らせる。

 今の今までただの雪だと思っていたものが、突然恐ろしい物に見えた。

「ここだけは、人はそのままなんだな・・・」

 他の村では、大人は皆、国の外周を囲う『壁』になっているのにと、ユウヒは顎に手を当て目を細める。

 少なくとも、カイリたちの村だけの大人ではとても『壁』には足りないだろうから、国中の大人たちを集めたことは間違いないだろうが。

「・・・きっと、氷月神はお城にいるわ・・・」

 リンがぽつりと呟いた。

 さっきまでは、たぶんお城にいるだろうくらいの推測だけだった考えが、ハッキリとした確信になっていた。

 リンは瞳を閉じて考える。

 氷月神が今までしてきたこと。

 大人を使って壁を作り、子供達だけを残すという行為。

 そして、首都の人間だけは、凍らせたもののそのままの形で残していること。

「・・・なんとなく、わかった・・・」

 呟いたリンを、コウキは振り返って見た。

 リンはコウキを強い瞳で見詰め返す。

「早くお城に行きましょう」

 一同は、王城の前に立ち、しばし呆然とした。

 見事に氷に覆われている城には、当然入り口など無かった。

「・・・景気よく、火で溶かすか?」

 ミルアにも手伝わせて一気に火の精霊を喚び、城ごと火で包んでしまおうかというコウキの案に、リンは眉を寄せる。

「中に人がいるかもしれないのに、そんな無茶なことやめてよ」

「でもリン、こんなに分厚い氷じゃあ、穴を空けるのも大変だよ?」

 そっと氷に触れ、冷たさに慌てて手を引っ込めたユウヒに言われ、リンは氷の城を見上げた。

「浮遊で上に行ったとしても、どこか開いてるとは限らないしなぁ」

 それでは浮かぶだけ損だと、ミルアは腕を組んで唸った。

「ど、どうすればいいのかなぁ・・・?」

 ハルアは困ったように眉を寄せる。

 立ち尽くすハルアのそばで上を見上げていたリンは、そっと腕を上げた。

「・・・『結界解除』」

 ハッと気付いたコウキが止める間もなく、自らに張ったままだった結界を解いたリンは、氷に触れた。

「うっ・・・!」

 触れた指先から刺すような冷たさが体の中を突き抜け、リンは思わずうめいた。

「何やってんだよ!?」

 コウキの怒った声が聞こえたが、構わずリンは手の平を氷に押し付け、声を上げた。

「『私を中に入れなさい』!!」

 ドンっ!!

 リンの言霊に反応して、爆発のような音を立てた氷の一部分が砕け、ちょうど人が通れるだけの大きさのトンネルが城の正門へと向かって出来上がった。10mはあろうかという長いトンネルを目の当たりにし、コウキたちは呆然とする。

「・・・大丈夫か?」

 氷月神の作った氷の壁を力尽くで砕くなどという荒業をやってのけたリンに、どっちが無茶だとコウキは顔をしかめる。

 心配する言葉だったが、声は怒っているとわかったリンは、苦笑してコウキに振り返った。

「大丈夫よ。今のは氷の壁に向けた言霊じゃないの。・・・中にいる氷月神に呼び掛けたのよ」

「は!?」

「氷月神に!?」

「どういうことだ!?」

 驚く一同に、リンは微笑んで見せた。

「とにかく中に入りましょう?中で氷月神が待ってるわ」

 リンのその笑顔と言葉に、ミルア達は不安を隠せずにお互いの顔を見た。

 こんなにあっさりと内部に入り込んでいいものかと考える一行の前で、コウキは厳しい顔をしてリンに近付いた。

「・・・リン、お前・・・」

 コウキは、リンの顔を見詰めたまま、右手を上げた。

 バチーーーーン!!

「なにするのよっ!!」

「・・・いや、またニセモノかと思って・・・」

 いきなり胸を触られて真っ赤になったリンに思いきり平手打ちを食らったコウキは、慈澪神の時のような幻のリンではなく、本物のリンだと確信する。

「本物よっ!!わかるでしょ!?」

 ずっと一緒にいたくせに疑うなんて失礼なと怒ったリンに、苦笑したユウヒが口を開く。

「コウキのやり方はともかく、どうして氷月神が待ってると思うんだい?」

 今までは操っていた者との関わりを断ち切られたことで本体が姿を現していたが、本体そのものが待っていると断言できることが不思議だった。

 穏やかなユウヒの声に心を静めたリンは、ユウヒ達に向き直る。

「・・・ただのカンですけど、そう思うんです。魔力を持つ氷のせいで気配もよくわからないけど、氷月神は私を待ってる。道が開けたのがその証拠です。きっと、言霊の力を必要としてるんです」

「でも、氷月神はリンを凍らせようとしたんだぞ!?」

 殺そうとしたことは確かなのに、おとなしく待っているなんておかしいと心配するミルアに、リンは目を向ける。

「でも、氷の壁に取り込むことはしなかったわ」

 あんな風に時間をかけてじわじわと凍らせなくとも、他の大人たちのように壁に閉じ込めてしまえば良かったはずだ。

 リンの頑固な態度に、コウキはため息をついた。

「・・・わかった。とにかく、道が出来たんなら行くしかないだろ」

 どうせ何を言っても聞かないと判断して氷のトンネルに体を向けたコウキにホッとしたリンは、笑顔を浮かべてその隣に立つ。

「ありがとう。私が先に立つから、みんな気をつけて付いてきてね!」

 自分が道を開いたのだから当然とばかりに先頭に立ちトンネルに入ったリンの後ろを慌てて付いていきながら、コウキ達はトンネル内を見回した。

 透き通った氷が光を乱反射していて、キラキラしている。

「・・・おい、張り切るのはいいけど、足元すべ・・・」

「ひゃうっ!!」

「・・・るぞ・・・」

 コウキの忠告も間に合わず、滑って思いっきり転んだリンに、ミルアは思わず手で目を覆い、突然の悲鳴にビックリしたハルアは同じように滑りそうになり、目の前のユウヒにしがみついた。

 トンネルのちょうど半分来た辺りですっ転んだリンに呆れたコウキは、なんとも言えない顔で助け起こそうと膝を落とす。

「お前な~・・・予想通りなことすんなよな~・・・」

「悪かったわね!・・・痛・・・」

 年甲斐もなくハデに転んだリンは、硬い氷に打ち付けた膝をさする。

「大丈夫か?リン・・・わっ本当に滑るっ・・・」

 リンを心配したミルアも足元を取られ、隣にいたユウヒの腕に掴まった。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

『・・・ん?』

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

「・・・何の音だ?」

 コウキが顔をひきつらせた瞬間だった。

『・・・うわっ!?』

 背中にハルア、左腕にミルアを貼り付けていたユウヒの姿が突然消えた。

「・・・・・・え?」

 リンを立ち上がらせようとした中途半端な格好のまま、コウキは目を疑った。

 そして、呆然とした二人の足元が突然下り坂になった。

「おわっ!?」

「きゃああああっ!」

 氷で出来た滑り台。

 当然のごとく、コウキとリンは状況を理解する間もなく滑り落ちて行った。

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