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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
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狙い

今回は、シリアス多目です。

「夜逃げでもするつもりかと思ってたよ」

「しねーよ。んな無責任なこと」

 コクワやカイリたちの村を出て首都に向けて歩きながら、いつもの笑顔のユウヒにそう言われ、コウキはムッとして答えた。

 ユウヒが懸念していたのは、ずっと大人がおらず親や家族のぬくもりと離れていた子供達との別れの時のこと。

 あんなに親しく、楽しい時間を過ごしては、お互いに別れがたくなってしまうのではと心配したのだ。

 どうしたって村に残ることのできない自分達が、行かないでと泣いてすがる子供達を果たして置き去りにして行けるだろうかと。

 しかし、その懸念も徒労に終わった。

 リンが月の民ということ以外の今世界で起こっていること、守護神たちの暴走について、コウキは子供達に全てを説明した。

 幼い子供達の頭には難しいこともあったが、コウキ達が世界の平和を取り戻す為に守護神を治めながら旅をしていることは、全員が理解してくれた。

「氷月神を治めれば、15歳になっても氷の壁に取り込まれることはなくなる!」

 コウキの力強いその言葉に、カイリとミナギはすがるような瞳を向けた。

 大人達を戻すことはできないが、これからの子供達の未来を守ることはできる。

 一番幼く、コウキとリンを両親に見立てていたコクワですらも、一行の旅立ちに異論は唱えなかった。

 ただ、目に涙を溜めて歯を食いしばりながらではあったが、コクワはこんな言葉を残した。

「氷月神様たちと仲良しに戻ったら、絶対にまた会いに来てね」

 コウキ達は笑顔を見せ、もちろんだと約束した。

 その時のことを思い出し、ハルアは涙ぐむ。

「や、やっぱり僕が残れば・・・」

 いつも受け身なハルアにしては珍しく、自らコクワたちの為に村に残ると発言したが、それはユウヒにやんわりと却下されたのだ。

 大変な思いをしているのはここの子供達だけではなく、アイズベルグの国中の町や村がこうなのだからと。

 雪道を歩きながらしょぼんとするハルアに、コウキは振り返る。

「でも自分からそんなこと言えるようになるなんて、進歩だな」

 船で一人で待つのは嫌だと泣いて付いてきたハルア。

 仲間と離れてでも子供達の為にと考えて発言したことは評価できる。

「まぁ、そうだね」

 苦笑したユウヒに、ミルアも頷いた。

「そうだ、ハルア。気持ちは嬉しかったぞ?」

「ミルア・・・」

 ミルアにも褒められ、ハルアはなんとも言えずうつ向いた。

 せっかく役に立てると思ったことが実行できず、悔しさもあった。

「あの子達の見る目も変わってたわよ?」

 下僕扱いをしていたお兄ちゃんに尊敬の眼差しを向けたことは確かだと言ったリンの言葉に、やっとハルアは照れたような顔をした。

 その様子を見て微笑んだユウヒは、次に厳しい表情を作った。

「・・・しかし、直接リンを狙ってくるなんてね」

 その言葉に、各人はそれぞれユウヒに視線を向けた。

「・・・慈澪神も、リンのことを邪魔だって言ってたものな・・・」

 ミルアは唇を噛みながら考える。

「・・・・・・」

 先頭を歩いていたコウキは、立ち止まって体ごと振り返った。

「リン、覚えてるか?初めて会ったあの森に、モンスターがわんさか集まったこと」

 同じく立ち止まったリンは、きょとんとして首を傾げた。

「もちろん覚えてるわよ。無我夢中で、一晩中戦って・・・」

 そこでリンは言葉を切った。

 リンも思い出したのだ。

 顔を上げて自分を見詰めたリンの強張った顔を、コウキは見詰め返した。

「で、も一回森に戻った時に、俺言ったよな?『あんた狙われてるんじゃないか』って・・・」

「!」

 ユウヒとミルア、そしてハルアもハッとした。

 コウキは淡々と続ける。

「・・・あのモンスターがリンを殺すために差し向けられたんなら、最初から狙われてたんだ。・・・守護神たちに」

「・・・言霊使いが月から降りてくることを、事前に知っていたということか?」

 厳しい眼差しのユウヒの言葉に、コウキは首を振った。

「わかんねーけど。でも、守護神の力すら抑えることのできる言霊使いを消そうとしてるんなら、つじつまは合う。・・・あの日、あの時にあの場所にモンスターが大量発生したこと」

「確かに、あれは異常だったな・・・」

 同じ時に同じ場所に居合わせていたミルアは唇に指を当て唸った。

「そ、それだけ、守護神たちは言霊使いを恐れてるってことになる・・・?」

 ハルアの発言に、全員が注目した。

 突然注目を浴びたハルアは、うっと息を飲んで身を引く。

 じっとハルアを見詰めたコウキは、おもむろに口を開いた。

「・・・い~い所に気づいたなハルア。俺もそれを言おうと思ってたんだよ」

「・・・うそだろ」

 腕を組んでうんうんと頷きながらもっともらしく言ったコウキに、ミルアはジト目を向けた。

 ユウヒは微笑む。

「頭いいじゃないか、ハルア君。つまり、そういう事になるな。守護神たちは、言霊使いの力を恐れてる」

 ユウヒに視線を向けられたリンは、ごくりと唾を飲み下した。

 何か隠してることはないのかとユウヒの目で問われたリンは、しばし迷ってから口を開いた。

「私は、おばあちゃんから、フォレスタの王様に真実を伝えて秘宝を貸してもらうようにお願いするっていう指示しかもらってません。こうして旅をしているのは、私の独断だもの。こんなに長く私が地上に残ってるなんて、誰も思わなかったと思う・・・」

「じゃあ、リンのおばあさんは、心配してるな・・・」

 無断で予定より長くいるなら、戻りの遅い孫をどれだけ心配しているだろうと寄り添ってくれたミルアに、リンは感謝を込めて控え目に微笑み、言葉を続けた。

「・・・最初にあの森で私を殺せれば良かったんでしょうけど、そうはならずに守護神の元を廻ってる私は、確かに目障りでしょうね」

 何か覚悟したように顔を上げたその瞳を見て、コウキは目を細めた。

「・・・何か、守護神たちが恐れるような決定打があるんじゃないのか?」

 そう問われ、リンは唇を噛んだ。

「・・・言霊は、イメージした言葉をそのまま現実にする力よ。正確にイメージして言葉に表せれば、できないことはないと言ってもいい。・・・使い方次第ではとても危険な力なの。私は小さい頃から、その事について厳しく教えられてきたわ」

「できないことはない・・・」

 あまりのスケールの大きさに、ミルアは呆然と呟いた。

「でも、かなりの精神力を使うんだろう?」

 何度も神の力と対抗して気を失ったリンを見てきたコウキは、そう念を押して確認する。

 リンは、頷いた。

「・・・そうよ。例えば、守護神全てを封印しようと思えば、私の命と引き換え・・・いえ、それでもきっと足りないくらいだわ」

 命と引き換えと言ったリンの言葉に、ミルアとハルアは慌てる。

「だめだっリンそんなこと!絶対に考えるな!」

「そ、そうですよぉ!し、死んじゃったらっ・・・!」

 ハルアはちらりとコウキを見た。

 コウキは目を細めたまま、リンをじっと見ていた。

 リンはコウキと目が合わないよう、視線を反らす。

「考えないわよ。言ったでしょ?私の命くらいじゃ足りないのよ。地上の守護神は六体もいるんだから」

 全くの無駄死にになってしまうと言い切ったリンに、ミルアとハルアはホッとして胸を撫で下ろす。

「・・・で、でも守護神たちは、それを恐れてるのかな・・・」

 万が一でもリンが命を掛けた術を使われたならと考えたのだろうかとハルアは首をひねる。

「リン。君のおばあ様に連絡を取ることはできないのかい?」

「・・・っ」

 ユウヒに静かに尋ねられ、リンは言葉に詰まった。

 月の長老であるリンの祖母に、何か助言をもらえればというユウヒの考えはよくわかるが。

「・・・連絡を取ることは、できます。・・・でも、あまり取りたくはありません・・・」

「どうして?」

 ミルアにきょとんと見上げられ、リンは気まずくうつ向いた。

「・・・これ以上、心配かけたくないから・・・」

 ユウヒはため息をついた。

「そうだねぇ。する気があれば、とっくに連絡してたよねぇ」

「・・・すみません・・・」

 そしてユウヒは、コウキを見た。

「君の意見は?」

 フォレスタの城にいた時には、あれだけリンに月に帰れと言っていたが、今では心情も違うだろうと視線を向けられたコウキは、腕を組んで口を開く。

「考えてもわかんねー事は、考えても仕方ないだろ。とにかく狙われてるってことだけ、頭に置いて行動するしかない」

 その意見に、ユウヒはため息をつく。

「それしかないってことだな。希望を与えてくれたリンは僕の女神だ。絶対に守るよ」

 さらりと言われたセリフに、リンは真っ赤になり、コウキは何も口にしていないのに思い切りむせる。

 ミルアは眉を寄せて首に傾げた。

「・・・ユウヒ、リンが女神なら、ユリカ姫は・・・?」

 その問い掛けに、ユウヒはニッコリ笑った。

「もちろん、ユリカは僕の人生の伴侶さ。・・・焦ったかい?」

「・・・別に」

 ニコニコと笑顔を向けられたコウキは、むせながらユウヒをにらんだ。

 なんとかむせりを抑えてから、コウキはリンにぼそりと呟く。

「・・・今度は、指一本じゃなくてちゃんと全部握ってろ。そしたら、何かあってもすぐわかるから」

「・・・っ!」

 コクワと川の字で寝ていた時、そっと指を握っていたことがバレていたリンは真っ赤になって固まった。

 ユウヒとミルアがぴくりと反応する。

「ほほう。どういうことかな?リン」

「あの時なんでコウキが、リンが冷たくなってるってわかったのかナゾだったんだよな~」

「い、いえ、あの・・・」

 ニコニコと笑顔でユウヒとミルアに迫られて思わず後ずさるリンと、さっさと背中を向けて先に進んでいくコウキを交互に見ながら、ハルアは心の中で思う。

(女神と伴侶・・・炎竜さんにとっては、どっちなんだろう・・・。僕にとって、ミルアは・・・?)

 ユウヒの言った言葉に深いものを感じたハルアは、しばらくその事について考えていた。





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