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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
始まりの旅
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護衛契約

 老人が持たせてくれた食料を分け、三人は食事をとる。

「水ってこんなに美味だったのか!固パンも最高だっ!あっ木の実っ!大自然の贈り物ってすばらしい~!」

 丸二日近く飲まず食わずだったミルアは、全てに感謝を捧げて食事した。

「なんだか、見てるだけでお腹いっぱいになるわね」

 幸せそうに食事をする様子を優しく見ながら、リンはクスクス笑う。

 色々と聞きたい事もあったが、一生懸命に栄養を補給しているミルアがかわいらしく、邪魔をするのはかわいそうに思えたのでとりあえず食事を優先させてやった。

 ぷはっと水を飲み干したミルアは、やっと満足して一息ついた。

「ふぅ~、おかげで助かった。ありがとう」

 やっとにっこりと笑ったミルアに、コウキはさっそく質問を投げた。

「こんな時代に子供が一人で旅なんて、どこに行くつもりなんだ?」

 あちこちで軍が網を張っていて、いつどこが戦場になるのかわからない。

 この辺りは辺境なので、軍隊も来ないような所だが、女の子が一人で無事に旅できるような状況ではない。

 子供と言われたミルアは、ムッとして腕を組んで胸を反らした。

「もう16歳だ。子供じゃない。腕にも自信はある。これでも国境を越えてきたんだ」

「まぁ・・・」

「国境越えても、木に引っ掛かってたんじゃなぁ・・・」

 こんな少女が一人でそんな危険を冒すなんてとリンが憂え、コウキはそんな度胸のある娘がたかが木から降りられないなんて先が思いやられるとあきれた。

 ミルアはなおさらムムっとしてコウキをにらんだ。

「同じ間違いは二度も繰り返さないっ!その為の学びだ!私はフォレスタの首都を目指してるんだ!ここで立ち止まってるわけにはいかないっ!」

「立ち止まってただろ・・・」

「首都っ!?」

 静かにツッコミを入れたコウキの言葉をさえぎり、リンが身を乗り出した。

「あなた、首都を目指してるの!?」

 控えめでおとなしいと思っていたお姉さんに突然詰め寄られ、ミルアは驚きながらも頷いた。

「あ、ああ、そうだが・・・」

 リンは何かを見定めるようにミルアをじっと見詰めた。

 真剣な瞳で見詰められ、ミルアはどぎまぎしながら目を瞬く。

 しばらくミルアを見つめながら考えていたリンは、とうとう口を開いた。

「・・・私も首都に行こうと思ってるの。一緒に行かない?」

「えっ本当か!?」

「はぁっ!?」

 リンの誘いにミルアは目を輝かせ、コウキは寝耳に水だと驚いた。

 嬉しそうに笑ったミルアの反応を見て、リンも微笑む。

「女の子の一人旅なんて危ないもの。私と一緒に行きましょう」

「・・・『私達』じゃないのか?」

 リンの言葉を喜びながらも、ミルアは首をかしげてコウキを見た。

 リンは、ミルアを見たまま笑みを深める。

「この人はたまたまここまで一緒だっただけなの。旅の途中みたいだし。首都に行きたいのは、あなたと私の二人よ」

「・・・そうなのか?」

 ミルアに視線を向けられたコウキは、困ったようにポリポリと頭をかいた。

「いや、旅っつっても特に目的があるわけじゃないけどな・・・」

 コウキの呟いた言葉に、ミルアは飛び付いた。

「なら、私がお前を護衛に雇う!」

「・・・はぁ!?」

 子供が何を生意気なことを言ってるんだと驚くコウキを、ミルアはふふんと鼻を鳴らして得意気に腕を組んで見下ろした。

「見たとこ、流れの傭兵ってとこだろう。こう見えても金は持ってる。旅の資金も私が出そう。悪い話じゃないだろう?」

「・・・・」

 あまりに高飛車な態度に呆気にとられリンを見たが、リンは目を反らしたままコウキの方を見ようとしなかった。

 そのことにちょっとムッとしたコウキは、ミルアに向き直る。

「いくら出す?」

 交渉を仕掛けてきたコウキに、ミルアはニッと笑った。

「手付けで300。成功報酬で1000でどうだ?」

 その金額に、コウキは目を瞬いた。

「・・・・銅で?」

「金だ!!」

 あまりに多い枚数だったので思わず確認すると、予想を遥かに上回る答えが迷いなく返ってきた。

 さすがに、リンも目を丸くしている。

「・・・お前、何者だよ・・・」

「何者でもいいだろう。受けるのか?受けないのか?」

 だめ押しで目の前に出された小袋をそぅっと開けてみると、確かに金貨がずっしりと入っていた。

(なるほど・・・どうりで重いはずだ)

 木の上から落ちてきた時の衝撃が思った以上だった理由がわかり、コウキは納得した。

 こんなに金貨を持っていれば、重いに決まっている。

 ミルアは更に口を開く。

「モンスターと戦ってるところを見た。実力はわかってる。私とリンを、無事に首都まで送り届けてくれっ!」

「・・・・」

 コウキは再度リンを見たが、やはり目を合わせることはなかった。

「・・・よし!その話乗った!」

 すっくと立ち上がったコウキに、ミルアは最上級の笑顔を向けた。

「決まりだな!」

 そう言って差し出された白く華奢な手をコウキはしっかりと握った。

「リンもよろしくなっ!」

 コウキと握手しているのと反対の手をミルアに差し出され、リンは同じく立ち上がってその手をそっと握った。

「・・・ええ、よろしく」

 控えめに微笑んだリンを満足げに見たミルアは、荷物の中から地図を取り出した。



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