お風呂場にて
少し遅いお昼寝をし、ミナギと共に起きてきたコクワは、まだコウキ達が家におり、しかも泊まっていくのだと聞いて大いに喜んだ。
散々子供達の遊び相手をさせられたミルアとハルアは、ぐったりとして夕食の席につく。
夕食中も、子供達は大いにはしゃいだ。
いつもなら食事中にうるさくすれば怒るカイリとミナギも大きな声を出すことが無かったので、なおさら子供達は喜んで笑った。
おどけて見せる子供達を見て、疲れていたミルアとハルアも結局笑顔になり、一緒に笑った。
そんな賑やかな食卓の一角で、コウキとユウヒがこんな会話を交わしているのをリンは聞いた。
「コウキ・・・あんまり良くないんじゃないか?」
「わかってる。・・・仕方ねーだろ」
「案外情に流されやすいんだな」
「・・・それもわかってる」
この時はまだ、ユウヒが何の事を指摘していたのかリンにはわからなかった。
賑やかな食事が終わり、皆で後片付けをして、その間に数人ずつ交代で子供達を入浴させた。
騒がしい水音と楽しげな子供達の声は、台所で皿洗いをしているリンとミルアの耳にも届いた。
「いつもこんなに楽しいのか?」
ミルアは洗った皿を拭きながら、手伝いをしている女の子に聞いた。
先程の料理を手伝ってくれたおしゃまな女の子は、ううんと首を振る。
「今日は特別だよ。お客さんなんて来たことないし」
「大人がいなくなってから、あんな風に遊んでくれる人なんていなかったし」
その時、ひときわ高いコクワの歓声が聞こえた。
「・・・私達はともかく、コクワはお父さんとお母さんのこと全然覚えてないから一番うれしいと思う」
しんみりと言ったミナギの頭を、ミルアは優しく撫でた。
「だから、ミナギとカイリが両親代わりをしてるんだな」
一番の年長だから、自然とそういう役割になったのだろう。
自分より年下の子が、一人前に責任を持って子育てや家事をこなしていることを、ミルアは純粋に尊敬した。
なんだかんだ言って城の中で皆に守られ、世話されてきたミルアにはとても考えられないことだった。
ミルアの言葉を聞きながら皿を戸棚にしまっていたリンは、風呂場から呼ばれる声に振り向いた。
「おーいリンっ!バスタオルーっ!」
その声にリンは顔をしかめた。
ちゃんと準備をしておいたはずだ。
「えー!?出してたので足りない!?」
台所から大声で返すと、コウキの反論の声が返ってきた。
「コクワが湯船に入れやがったんだよっ!!」
「・・・もー・・・」
しょうがないとため息をつきつつ台所を出ていったリンに、ミナギと女の子たちはくすくすと笑った。
「なんか、お父さんとお母さんがいるみたい♪」
「あんな感じだったよね♪」
くすくす笑う女の子たちにつられて、ミルアも一緒に笑ってしまった。
棚から新しいバスタオルを取り、リンは浴室に向かった。
バスタオルはちゃんときれいに洗濯されており、そんなところからもここの子供のしっかりした面を垣間見て、感心すると共に切なくなる。
本当なら、両親や家族に見守られてのびのびと遊んでいる年頃の子供ばかりだというのに。
「・・・こらっ!コクワ逃げんなっ!」
「きゃははははっ!」
「待てっこの!」
「あははは。コクワはすばしっこいな~」
「ユウヒ!ハルア!見てねーで捕まえろっ!」
「コ、コクワ~、床がびしょびしょだよ~っ」
どうやら湯船から上がったコクワが、濡れた体のまま脱衣場を逃げ回っているらしい様子が各人の声だけでわかり、思わずリンは微笑んだ。
「バスタオル置いとくわよー?」
戸の前で声を掛け、バスタオルを床に置こうとしたリンの前で脱衣場の戸が勢いよく開き、笑顔全開のコクワが飛び出していた。
「わーいっ母ちゃん母ちゃんっ!」
「わっ!?」
急に出てきたコクワの体をリンは慌ててバスタオルを開いてその中に包んだ。
「・・・もうっちゃんと体を拭いてから出てこないとダメよ、コク・・・ワ・・・」
コクワの体を拭いてやりながら、なんともなしに脱衣場に視線を向けたリンは固まった。
そこに、コクワを捕まえようとしていたコウキ、ユウヒ、ハルアが立っていたからだ。
子供と一緒に入浴していた三人は、もちろん全裸だった。
(・・・お風呂場、広いな~。そういえばカイリが、以前は村人たちに解放してたって言ってた。やっぱり広いわけよね・・・・・・)
「・・・きゃーーーー!!いやぁーーー!!」
コクワを抱き上げてダッシュで逃げていったリンを見送りながら、コウキはぼそりと呟いた。
「見られたのはコッチなのに、なんで男はいつも加害者なんだ・・・?」
「そりゃあ、びっくりして悲鳴上げるのが女の子だからじゃないかな」
どちらにしても、男が泣きながら逃げるようなことはないだろうと言ったユウヒの言葉に、コウキはなるほどと納得してしまった。
「・・・リン?どうした?」
「なんでもないっ!」
悲鳴を聞き付けて台所から頭を出したミルアに真っ赤な顔で答えたリンは、コクワを暖かい居間へ運び、そこで夜着を着せてやった。
きちんと前のボタンを留めてもらったコクワは、にこっと笑う。
「えへへ♪」
笑って胸に抱き着いてきたコクワを、リンは受け止めてその頭を撫でてやった。
リンの柔らかい胸の中で、コクワはうっとりと目を閉じる。
「・・・気持ちいいな、母ちゃん・・・」
ぽそりと聞こえたコクワの幼い声に、リンは切なくて目を潤ませた。
だが、コクワに涙を見せるわけにはいかないと明るい声を出す。
「さぁ、いっぱい遊んで疲れたでしょ?そろそろ寝る時間よ?」
リンの胸から離れず、リンの服をきゅっと握ったまま顔を上げた。
「・・・父ちゃんと母ちゃんと一緒に寝たい。『かわのじ』で。・・・だめ?」
「え・・・?」
じっと見つめるコクワの視線に困り、リンは居間の暖炉の火を調整していたカイリを見た。
会話を聞いていたカイリは頷く。
「迷惑じゃなきゃそうしてやってくれ。・・・コクワには、そういう思い出無いから」
「・・・・・」
カイリの言葉に、リンは返事に詰まってしまった。
「・・・あ、父ちゃん!」
「コクワ~っ!お前さっさと逃げて行きやがって・・・」
ちゃんと服を着て、残りの子供たちの体も拭いてやったコウキ達が戻ってきてコクワは目を輝かせた。
「父ちゃん父ちゃん!一緒に寝よ!」
怒っているのもものともせずに飛び付いていたコクワを抱き上げたコウキは、目を瞬いた。
初めから子供たちと一緒に寝ようと思っていたため、コクワの提案には何の異論もない。
「ああ、ユウヒ達とも言ってたけど、ベッドくっつけて皆で寝ようって・・・」
男の子達とも浴室でそういう話になっていたと言ったコウキの言葉に、コクワはそれは楽しそうだとニッコリ笑った後、こう付け加えた。
「うん!でもオレは父ちゃんと母ちゃんの真ん中ね!」
「え・・・?」
男は男同士と頭から決めていたコウキは、珍しく戸惑った声を出した。
カイリが助け船を出す。
「父ちゃんと母ちゃんの間に挟まれて、川の字で寝たいんだってさ」
「・・・川の字?」
カイリに言われ視線を向けたコウキと、固まっているリンに、コクワはキラキラした瞳を真っ直ぐに向けた。
コウキとリンはお互いを気まずく見たが、結局はコクワの瞳に敗北した。




