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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
68/119

キッチンにて

「・・・何してるの?」

「あっリン!こっちこっち!」

「すごいですよぉ・・・!」

 居間に降りたリンは、未だに賑わっている光景に目を丸くした。

 ミルアとハルアまでも、子供達に混ざってはしゃいでいる。

 近付いてきたリンに、ミルアとハルア、それに子供達まで一生懸命に話し出した。

「ユウヒ、すごいんだっ!」

「手品ですっ!手品っ!」

「あのね、お金が出たり消えたりするの!」

「ハンカチの柄も変わっちゃうの!」

「サイコロな目も当てられるの!」

「トーケーガクなんだって!」

「あと、てーおーがくとせんどーじゅつだって!」

「は、はぁ・・・」

 なんだかよくわからないが、ユウヒなら手先口先でいくらでも子供達を喜ばせることができるだろうと、リンは自分を納得させた。

 ミルアとハルアまでそれに乗せられているのはどうかと思うが。

「やぁリン、あの子達は寝た?」

 子供達の真ん中からいつもの笑顔で問い掛けられたリンは、ホッとしつつ頷いた。

 コクワを大事そうに抱っこしてきてくれたことを見ていた子供達は、警戒心もなくリンに近付く。

「ねぇお姉ちゃん!あのお兄ちゃんすごいね!なんでもできるし、カッコよくて王子様みたい♪」

 おしゃまな女の子の口調にリンは苦笑した。

 王子様みたいなユウヒは正真正銘王子様なのだから、女の子の観察眼は侮れない。

 他の女の子も話に乗ってきた。

「こっちの水色の髪のお姉ちゃんはお姫様みたい!ミナギよりおっきいのに、ペッタンコだけど」

「ぺ・・・!ペッタンコ・・・!」

 正直な子供の言葉にミルアはショックを受けてしゃがみ込んだ。

「ミ、ミルアっ・・・大丈夫っ・・・!?」

「この兄ちゃんはカッコいいけど、なんか頼りないからきっと下僕だよね」

「・・・げ、下僕・・・っ!」

 別の女の子の放った一言に、間違いなく王族の一員であるハルアは衝撃を受けてミルアの脇に両手両膝をついて沈み込んだ。

「やぁ、子供は正直だねぇ♪」

 にこにこするユウヒが隣に来たのを感じながら、リンは虚ろな笑みを浮かべた。

「あの二人、立ち直れるかしら・・・」

「下僕なんて言葉、どこで覚えてくるのかなぁ?」

「わーい!お馬さんだぁ~♪」

 四つん這いになったハルアを見つけ、コクワよりは大きい男の子二人が突進して行ってその背中に飛び乗った。

「ぐえっ・・・!」

「わっ!?ハルアっ!?大丈夫か!?」

 突然隣でつぶれたハルアに、ミルアは驚いて目を丸くする。

「あ~、つぶれたぁ~」

「なっさけねぇなぁ~」

 飛び乗った子供達にため息混じりに言われ、ハルアはなぜこんな目に遭わないといけないのかと涙する。

 その様子を見た女の子達は、短く息を吐いた。

「・・・やっぱり下僕ねぇ」

「ねぇ~。男はやっぱり強くて包容力がなきゃだめよね~」

「・・・こらっ!!お前らいたずらしてんなっ!!」

 わいわい騒いでいるところへ、怒り慣れているとわかる張りのある声が響き、子供達はぴたりと静かになった。

「・・・さっすが大将。慣れてるなぁ」

 感心したコウキと共に戻ってきたカイリが腕を組んでふんと鼻を鳴らした。

 涙はきれいに拭き取り、目も少ししか赤くなってはいなかった。

 静かになった居間に入ったコウキは、仲間の姿を見つける。

「ユウヒ、とりあえず今日はここで泊まりだ。・・・ミルアとハルアは何してんだ?」

 床にしゃがみ込んでいる姿に首を傾げられても、ミルアとハルアは答えられずに黙り込む。

 コウキの言葉にユウヒが返事を返す前に、子供達が目を輝かせて再び騒ぎだした。

「泊まるのっ?」

「ここにっ?」

「ボクたちと寝るっ?」

「お風呂も一緒っ?」

「ご飯作ってくれるっ?」

「あ、ああ・・・」

 次々と子供に迫られたコウキは、たじろぎつつもなるべくご要望にお応えしましょうと曖昧な笑みを浮かべつつ頷いた。

 子供達は歓声を上げる。

「じゃあじゃあ、ボクたちの部屋見せてあげるっ!」

「ペッタンコの姉ちゃんと下僕の兄ちゃん、行こっ!」

「ぶふっ!」

 子供達からすんなり出た言葉に、コウキは思わず吹き出していた。

 誰のことを言っているのか、すぐにわかったからだ。

「コウキ!笑うなっ!」

「ううう・・・」

 真っ赤になって怒るミルアと、涙するハルアが子供達の部屋へ引っ張られていくのを手を振って見送ったコウキは、リンに向き直る。

「さて、俺達は台所だ」

「じゃあ僕は・・・」

「お前、ここの片付け」

 台所を手伝おうかと名乗りをあげそうになったユウヒを、コウキはジト目で見た。

 床に散らばったままのカードやサイコロを、そのままにはしておけない。

「・・・はいはい」

 肩をすくめて返事をしたユウヒを残し、コウキとリンはカイリに案内されてキッチンへと向かった。

 床下の氷室に保存してある野菜などを取り出し、カイリはいつも料理を手伝っている女の子達を呼んでくると言って上階へ上がって行った。

 その隙に、コウキは先程のカイリの話をリンに伝える。

「・・・それが氷月神の力なら、なんとかしないと・・・!」

 自分も氷の壁に取り込まれるのをじわじわと待っている子供達の心を思い、リンは唇を噛み締めた。

「・・・他の守護神と違うよな。人間を滅ぼすのが目的で凍らせたんだとしたら、なんで子供だけ残すような真似・・・」

 他国では、戦争に送り出し人間同士の殺し合いというやり方で人間を滅ぼそうとしているのに対し、この国ではじわりじわりと静かに人間が減っていく。

 コウキの言葉をしばし考えたが、リンはすぐに顔を上げた。

「考えても仕方ないわ。早く氷月神を見つけなきゃ。・・・きっと、お城よね・・・?」

「今までのパターンだと、王か王妃に乗り移ってるだろうけどな・・・」

 ただ、表立って戦争にも参加せず、殻に閉じこもっているこの国の王族がどうしているのか、さっぱり見当がつかなかった。

 慈澪神のように向こうから働きかけてくれれば楽だが、そうでなければ一度王様に会ってみるしかないだろう。

「・・・二人とも!連れてきた!」

 カイリが10歳前後の女の子三人を連れてきた為、話はそこで中断となった。

 そのままカイリは居間の片付けを手伝いに行き、コウキとリンは女の子三人を助手に、大人数分の夕食を作る為に奮闘した。

「・・・ほらね、こうすると味が染み込みやすくなるの」

「わぁ♪本当だ♪」

 青き月にいる祖母に教わった料理のコツを伝授するリンの傍では、コウキが材料を次々と切っていた。

「うわぁ、お兄ちゃん、切るの早~い!上手!」

「・・・本当は包丁じゃなく剣で切った方が早いんだけどなぁ・・・」

「・・・やめてよ?」

 女の子の称賛を受けて呟いたコウキの言葉に、リンは顔をしかめた。

 室内で剣を振り回すことはもちろん、モンスターなどを斬っている剣で食材を切るなど、もってのほかだ。

 物騒以前に不衛生である。

「・・・でもぉ、料理上手な男って、モテないよね~?」

 一人の女の子がそんなことを言い出し、包丁を握っていたコウキは固まった。

 別の女の子が反論する。

「そう?料理してもらえるなら、結婚しても楽できるじゃない?」

 そうそうと頷くもう一人の女の子にも視線を向けた女の子は、最初に言い出した女の子を見た。

 言い出しっぺの子は、腰に手を当てて残りの二人を見返す。

「でも、自分より料理上手だったら嫌じゃない?切り方とか味付けとかいちいち文句言いそうで」

「あ~」

「確かに嫌かもぉ~」

「でしょ?俺の方が上手に切れるとか自慢げに言われてもムカつくよねぇ?」

 うんうんと頷いた三人の女の子に視線を向けられ、コウキはムキになる。

「なんだよ!?俺はんなこと言わねーよっ!!」

「・・・大人げないわよ」

 まるでモテないと言われているようで大声で反論したコウキに、リンは鍋をかき混ぜながらため息をついた。

「お姉ちゃんはどう思う?」

 質問を向けられたリンは、しばし上を向いて考えた。

「う~ん・・・上手下手は抜きにして、手伝ってくれる気持ちは嬉しいし、一人で台所に立つより一緒の方が楽しいんじゃない?」

 にこっと笑って行ったリンの言葉に、女の子たちは納得したようだった。

「・・・今朝まで間に包丁突き刺さってたけど、楽しかったか?」

 コウキのからかうような口調に、リンはムッとしながら口を開いた。

「楽しいわけないでしょ?ずっとドキドキしてたも・・・の・・・」

 つるりと自分の口から出た言葉に、リンは目を見開いた。

「どきどき?」

「どきどき?」

「どきどき?」

 三人の女の子に三回も繰り返され、真っ赤になったリンは反射的にコウキを見た。

 リンの言葉に驚いたコウキも、同じく目を丸くしてリンを見詰めていた。

「あっ・・・ちがっ・・・今のはっ・・・!」

「今のは?」

 コウキに先を促され、リンは言葉に詰まった。

 ずっとリンが怒っていたと思っていたコウキは、もっと別の期待を胸に抱いてリンを見詰めた。

 二人の様子を交互に見た女の子三人は、顔を見合わせてにんまりと笑う。

「あ♪いっけない♪」

「お風呂の準備もしなきゃ♪」

「あとよろしく~♪」

「あっちょっと!待って・・・!」

 あっという間にキッチンから駆け出して行った三人にリンは慌てる。

「・・・わ、私もお風呂の手伝いに・・・!」

 そのままキッチンから出て行こうと背を向けたリンの手を、コウキは後ろから掴んで引き寄せた。

 引っ張られて間近に立たされ、リンはうつ向いて唇を噛む。

 手は、まだ離されずにコウキの胸の前で握られていた。

「・・・離して」

「なんで離す必要がある?」

 その言葉に、またもやリンはムッとした。

「なんで離さないでいる必要があるのっ?」

 強気で言い返したリンの瞳を、コウキは真っ直ぐに見た。

「そんなの、離したくないからに決まってるだろ」

「・・・っずるい言い方っ・・・!」

 リンは唇を噛んで涙目でコウキをにらんだ。

「そんなんじゃわかんないっ!もう私に構うのやめてよっ!・・・もう、どうしたらいいのかわかんないっ!!」

 泣きながら叫んだリンの顎を、目を細めたコウキが無言で掴み、その唇に口付けた。

「・・・っ嫌っ!!」

 思いきり顔を背け、キスの途中で拒絶したリンは、コウキに向かって叫ぶ。

「私はっ全部終わったら月に帰るの!!・・・お願いだから、こういう事しないでっ・・・これ以上、私の心に入ってこないで・・・っ」

 忘れられなくなってしまうと、堪えきれずに両目から溢れる涙を押さえながら泣くリンの肩を、コウキは静かに抱いた。

「・・・もう、遅い。少なくとも俺はな。後は、お前次第だ」

 まだ離されていなかった左手を持ち上げられ、リンはハッとして顔を上げた。

 見開かれたリンの瞳を真っ直ぐに見詰めながら、コウキはリンの左手に口付けた。

「要は、お前が故郷より俺を選べばいいだけの話だろ?」

 手に口付けたまま、さもそうなって当然のように言ってのけたコウキの言葉に、リンは恥ずかしいのを通り越して呆然とした。

「そんな自信、どこから来るの・・・?」

「ん?それは、そう思うから」

 唇を離して不敵に笑うコウキを、リンはあきれて見詰めた。

 言葉もなく見詰めるリンにニッと笑ったコウキは、そのほほに手を添える。

「・・・んじゃ、続き。いいよな?」

 そう言ってコウキがリンに顔を近付けた時、キッチンの戸口からわざとらしい咳払いが聞こえた。

「あ~ごほんごほん。その前に、お鍋を見てくれないかなあ?」

「・・・っユウヒ!」

「きゃ~!焦げる焦げるっ!!」

 大鍋で煮ていた煮物の煮汁が今にも無くなりそうになっているのを発見したリンは、大慌てで鍋を火から下ろした。

「・・・いつからいたんだよ?」

 恨めしそうににらまれたユウヒはくすくすと笑った。

「僕の気配に君が気付かないなんて、よっぽどだね。まぁ、途中から、とだけ言っておくよ」

「お前な~・・・」

 一生の不覚だと額を押さえるコウキに、ユウヒは更に笑みを深める。

「しっかし、遠回りな告白だったねぇ」

「放っとけ!!」

 ユウヒにからかわれてコウキが怒鳴る間に、リンは煮詰め過ぎてしょっぱくなってしまった煮物に水を足して煮直す。

「あ~あ、失敗・・・」

 落ち込むリンに、ユウヒは明るく声を掛けた。

「大丈夫。それはコウキのせいだからね」

「はいはい。悪うございました」

 もう何を言われても同じだと、コウキは投げ遣りに答えたのだった。

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