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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
65/119

上陸

「こ・・・れは・・・」

「近くで見ると・・・なかなか・・・」

「こ、怖い~っ!!」

 コウキ、ユウヒ、ハルアが先に船から降り、その後ろをミルアに支えられたリンが続いた。

「どこにも入口が無ければ、入口を作るしかないけどな・・・」

「それは避けたいところだねぇ」

 人が通れそうな都合の良い穴やトンネルは無いが、無理にこじ開けようとすれば、氷の中の人達にも傷をつけることになる。

 この状態で生きているとは思えないが、むやみに損傷させるのはよろしくない。

 ならば、壁を越える手段は二つにひとつ。

 地面の下を通るか、空を飛ぶか。

 頷き合ったコウキとユウヒは、青い顔をしているリンを見た。

「というわけで、頼むよ?リン」

「地面掘るより飛んだ方が楽だろ?」

 二人の意図を察し、リンはなんとか頷いた。

 だが、ハルアがびくびくしながら口を挟む。

「で、でも、プカプカ浮いてるところを氷月神に攻撃されたらっ・・・」

 そう発言したハルアを、コウキとユウヒはじっと見詰めた。

「・・・な、なんですかっ・・・」

「・・・お前、いたの?」

「なんでいるのかな?ハルア君」

 二人の言葉に、ハルアはぎょっとする。

「・・・え?え?さっきからずっといましたぁ~っ!」

 慌てて存在をアピールするように両手をバタバタと動かすハルアに、コウキは冷たく目を細める。

「お前、来なくていいぞ。船で待ってろ」

「え!?」

 ユウヒも頷く。

「危ないしね」

 特段戦闘能力も無く、更に気弱になってしまったハルアでは足手まといになりかねない。

 ミルアも心配そうな顔をした。

「そうだハルア。無理することない。ここまで船を出してくれただけでも充分だ。待っててくれ」

 ミルアにまで同行を否定されたハルアは、うるんだ瞳でぷるぷると震えた。

「・・・い、嫌だっ!こんな所で一人で待ってる方が怖いよっ・・・!」

 全面全て人の壁になっているものと向き合い、いつ帰ってくるかわからない皆を一人で待ち続けるのは嫌だと泣いてすがるハルアに、ミルアは困った顔をしてコウキとユウヒを見た。

 視線を受けたコウキは、がりがりと頭をかいた。

「あのなぁ、俺らだって、お前まで守ってる余裕はねぇんだぞ?」

 その言葉にビクッとしたハルアは、涙目でコウキに振り返った。

「・・・じ、自分のことは自分でなんとかしますっ。だから置いてかないでください~っ」

 困ったように大きくため息をついたコウキに、全員の視線が集まった。

 戦力の要となるコウキに判断を任せるといように。

 しばし考えたコウキは決断した。

「足手まといになるなよ?」

「・・・は、はいっ」

 同行を許されたハルアは、ホッとして更に涙ぐんだ。

 仕方なく許可したのだと厳しい顔をしているコウキを、リンはそっと見詰めた。

 文句を言いつつも、一人残りたくないと言ったハルアを放っておけなかったのだろうとわかったからだった。

(そういうところが・・・)

 心の中で呟いたリンは、その言葉の続きを思う前にぶんぶんと首を振った。

「・・・じゃあ、皆で行きましょう」

 早速言霊を使おうとしたリンに、コウキは一つの提案をしあ。

 ただ浮遊するのではなく、全員を防御膜で包み、防御膜ごと浮遊したほうが良いと。

「・・・シャボン玉みたいに?」

「ああ、なるほど。何か攻撃されたとしても、とりあえず防げるか」

 首を傾げたミルアと、納得したように呟いたユウヒに頷いたコウキは、言葉を続ける。

「浮遊中は無防備だしな。あとは臨機応変でどうにでもなる」

 その言葉に、ハルアは覚悟してごくっとのどを鳴らした。

「・・・わかったわ。それでやってみる」

 少し緊張したリンの声が言霊を紡いだ。

「うわっ・・・」

 ふわりと浮いた球体の中から、全員が壁を見詰めた。

「・・・生きてるみたいだな」

 しばし見詰めたユウヒが呟いた。

 ミルアとリンは返事も返せずにただその光景を見ていた。

 壁に閉じ込められた人々は、皆全て、今にも動きだしそうに見えた。

(氷月神は何考えてこんなこと・・・)

 コウキも、ただ黙って氷の壁を見詰めていた。

 そのまま、球体ごと壁の上を通る。

 壁の厚さは5m程もあり、上から見ても中に人がぎっしり入っているのがわかった。

「・・・何事も、無かったわね」

 壁の反対側の地面に降り立ち、防御膜を解いたリンはホッと息をついた。

「・・・漁村だな、

 周囲を見渡したコウキはそう呟いた。

 港に面していて漁を生業としていた村だろうが、今は丸っきり海とは遮断されている。

 もっとも、人間が全て氷に閉じ込められているのなら、もはや関係ないことだろう。

 その時、ミルアが声をあげた。

「あの家!煙突から煙が上がってる!」

 その時声に驚いて全員がそちらを向くと、確かに集落の中の一軒から煙が上がっていた。

「・・・行ってみるしかないな」

 誰か生き残ってる人がいるなら、何か話が聞けるかもしれないとコウキは歩き出した。

 さすが北国だけあって雪は積もっていたが、『壁』のおかげで海からの風が入って来ず、意外にも覚悟していたほど凍えるような寒さはなかった。

「足跡、いっぱいあるなぁ」

 歩きながら言ったユウヒの言葉に、コウキは黙って頷く。

「無事でいる人結構いるってことかっ?」

 明るい声で言ったミルアに、しかしコウキは厳しい声を出した。

「・・・だと良いけどな」

 その声を聞きながら、リンはポツリと呟いた。

「・・・・・小さい?」

「え?」

 リンの呟きを聞いたミルアは、再び下を見てあっと気付いた。

「子供の足跡ばっかりか!?」

「ほ、本当だ・・・小さいね」

 ハルアも頷き、ミルアは緊張した顔で前方の家を見詰めた。

 複数の気配を感じながらも、コウキはその家の敷地に入った。

「・・・・・父ちゃんっ!!」

 ばたんと突然その家の玄関が開き、中から4~5歳ほどの赤毛の子供が飛び出してきて、一同はぎょっとした。

 男の子らしきその子供は、顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら、まっすぐに一行に向かって走ってきた。

「こらっコクワっ!!」

 家の中から、少し大きい子供の怒った声が聞こえたが、コクワと呼ばれた子供は振り返らず、走ったままの勢いでコウキに向かって飛び付いた。

「父ちゃんっ!!父ちゃんだぁっ!!」

「・・・・・はぁっ!?」

『と、父ちゃんっ!?』

 あまりに突然のことで驚き過ぎて固まったコウキを、全員が目を真ん丸にして見た。

「・・・な、なんだお前っ!?」

 足にしがみついた子供を離そうとコウキは足をぶんぶんと振ったが、子供はぎゅっと腕を絡ませ離れようとはしなかった。

「父ちゃんっ!オレの父ちゃんだよっ!おんなじ髪だよっ!」

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