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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
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 氷の国、アイズベルグ。

 大陸最北のこの国は、名前の通り雪と氷に覆われた北国だ。

 守護神・氷月神ひょうげつしんが守護するこの国は、大戦が始まった時から、他の国と趣を違えていた。

 どんどんと前線に兵士を送り込む他国に対し、アイズベルグは一切前線での戦いを行わなかった。

 というより、誰一人、国民が国の外へ出ることがなかった。

 当然アイズベルグの侵略を狙って他国の軍隊が国境へ向かったが、そこで軍隊の兵士たちが見たものは、とても恐ろしいものだった。

「・・・それは、一目見たものは誰でも逃げ出したくなる、とても恐ろしい『壁』だったんだってさ」

「・・・・・アレより?」

 淡々と話したユウヒに、ミルアは虚ろな表情で、キッチンに立つコウキとリンを指差した。

 正確には、コウキとリンの間のまな板に突き刺してある出刃包丁を指差した。

 それはまさに、それ以上近付いたらただでは済まないという無言の脅迫を表す『壁』であった。

 しばしそちらを眺めたユウヒは、疲れたため息をついて視線を戻す。

「・・・うん、まぁ、アレと同じ位恐いんじゃないかな」

「そ、そんなに恐いの、い、嫌だよぅ~・・・!」

 ミルアにしがみつきながら、ハルアは泣きそうな声を上げた。

 そうして三人は、無言で調理しているコウキとリンの後ろ姿をそっと見詰めた。

 この間コウキがリンに話をしに行ってから、ずっとあの調子でリンがコウキを拒否し続けていた。

 何があったのかはどちらも何も話さないが、この拒否っぷりは今までに無いことだった。

「もうすぐアイズベルグに着くっていうのに、困ったものだねぇ」

 全然困ってなさそうなのほほんとした口調で言ったユウヒの言葉に、ミルアは頷いた。

「どっちも頑固だからな・・・」

 犬も食わないようなものなのだろうが、あからさまにリンに拒否されているコウキがピリピリしていて、船内は険悪ムードになっている。

 巻き込まれているミルアたちはたまったものではない。

「まぁ、そのイライラをコウキがモンスターにぶつけてるから、僕らは楽だけどねぇ?」

「確かにな・・・」

 ここのところ、モンスターとの戦闘もコウキの一人勝ちだった。

 コウキ以外はほとんどすることもなく、ただ立っているだけで戦闘が終わるというのは、楽と言えば楽だがパーティーとしては大いに問題があるのではとミルアはうなる。

「戦闘でコウキがケガしても、ちゃんとリンが治してるしね。・・・それ以外に口をきかないだけで」

 そのユウヒの言葉に、ミルアはもうひとつうなったのだった。

 そのまま重い空気の中で食事を摂り、その空気に耐えられず甲板に出ていたハルアから、じきにアイズベルグの首都に近い港に着くと報告が入った。

 四人は用意された防寒具などを着込んで準備し、甲板に出る。

「・・・慈澪神の言ってたように、僕らが守護神と戦って回ってること、氷月神も知ってると思ってた方がいいな」

 ユウヒの言葉に、全員がそれぞれ頷いた。

 慈澪神は海に現れたときに『豊樹ほうじゅを追い詰めた者たち』ときに四人に呼び掛けていたのだ。

 今度は『豊樹と慈澪を追い詰めた者たち』として知られていてもおかしくはない。

 アイズベルグの領域に入った今、いつ氷月神が働きかけてくるかわからない。

 それぞれ緊張し、あるいは気を引き締めて港のある方を見たとき、ふとリンが声を上げた。

「今、何か光った?」

 水平線に微かに見え始めた陸地全体が、太陽の光を反射してキラキラと光っているように見えた。

「本当だっ光ってる!」

 ハッキリと見えたミルアも声を上げた。

 最初のリンの声を聞き、もしや大砲でも向けられているのではと警戒したコウキは、しかしそういう光り方ではないと気付き眉をひそめた。

 しいて言えば、鏡やガラスが光に反射している、そんな光り方だ。

 氷月神は氷を象徴する神。

 まさかと視線を投げたコウキに、ユウヒは黙って頷いた。

 徐々に港が近付くにつれ、その光の正体が視認できるようになり、一同は顔を強ばらせた。

 ミルアは息を詰め、リンは青ざめて手で口を押さえる。

「・・・っ!」

「やだ・・・あれっ・・・!」

「ひっひっひひひ人ぉ~~~~~っ!!」

 ハルアの絶叫が甲板に響いた。

 陸と海の境に出来たどこまでも続く氷の壁。

 侵入することを拒絶したその氷の壁の中には、何百人、何千人という人間がびっしりと閉じ込められていた。

「これが『壁』か・・・」

「ああ、これじゃ、兵士たちも上陸する気にならないな・・・」

 壁は沿岸にどこまでも続いているようだった。

 ユウヒが聞いた話では、陸地の国境沿いも同じ状態らしい。

(やだっ・・・怖いっ・・・!)

 目の前の光景が信じられず、リンはガクガク震えながら思わず後退る。

 だが、行きたくないと言うわけにもいかず、口を押さえたままぎゅっと目をつぶったリンは、力強い腕に肩を抱かれて無意識にその胸にすがった。

 そのまま服をぎゅっと掴んでいると呼吸が落ち着き、怖さが和らぐのがわかった。

「・・・こらっハルア!泣いてねぇで船着けられる所、探せ!!」

「は、はい~っ!」

 頭のすぐ上で響いたその声に、リンはパチリと目を開けた。

「・・・・・」

「ユウヒ!なんか情報ないのか?」

「う~ん、何せ引きこもりの王子だったからねぇ」

「・・・・・」

 視線を感じたコウキは、腕の中でびっくりした顔をしているリンを見た。

「なんだよ?目閉じてていいぞ?」

 当たり前のように言われたリンは、真っ赤になってぷるぷると震えた。

「・・・い、嫌ぁーーーー!!」

 思い切りコウキの腕を振り払ったリンは、甲板の隅っこまで走って逃げ、そこで背を向けたまましゃがみこんでしまった。

 あっという間に逃げられ、呆然とするコウキにユウヒは苦笑を送る。

「コウキ、『嫌』だってさ、『嫌』」

「・・・何回も言うなっ・・・!」

 しゃがみこんだまま動かないリンに、ミルアがそっと近づいた。

「大丈夫か?リン」

「・・・・・ダメかも・・・」

(なんでなんでなんでーーー!?)

 無意識にコウキを求めてしまったことが、恥ずかしくて認めたくなくて、顔を上げられない。

 意識しないよう、せっかく距離を置いていたのに。

(どうせ私が思ってる程、あっちは気になんかしてないのにっ・・・!)

 ちょっとでも弱気になった自分が悪いのだと、すくっと立ち上がったリンは氷の壁を直視する。

「・・・・・っ!」

「うわぁぁっリン危ないっ!」

 めまいを起こして倒れそうになったリンをミルアが慌てて支えた。

「・・・何やってんだか」

 その様子にあきれ声を出したコウキに、ユウヒはくすくす笑う。

「でも心配なくせにね」

「うるせ!」

「・・・み、みんなぁ~、桟橋があったよぉ~!」


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