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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
アイズベルグの旅
63/119

ケダモノ

今回は恋愛ちっくメインです~。

 マール・モーリェ城の客間のテラスで、リンは面白くない思いでむすっと外を眺めていた。

 リンの意見など聞く気もないコウキがとんとんと話を進めてしまったからだ。

(「どう思う?」なんて聞いといて、全然聞く気ないんだから・・・!私の気持ちなんて・・・!)

 ムカムカする思いを持て余し、リンはなおも頬を膨らませた。

(本っ当自分勝手っ!頑固っ!わからず屋っ!)

 思い付く限りの悪口を心の中で叫んでいると、テラスの扉がカチャリと開いた。

「・・・リン?」

 振り返った先に、ミルアがちょこんと扉から顔を出しているのを見つけ、リンは肩の力を抜いて微笑んだ。

「ミルア・・・ 」

 ふと安らいだ表情になったリンにホッとして、ミルアはテラスに出てリンの隣に並んだ。

「・・・戦争が始まる前は、城から見える夜景が素晴らしかったんだ。夜漁の船の明かりも、たくさん見えて・・・」

 ミルアの言葉に、リンは城下を見下ろした。

 今は海に明かりどころか、街にさえぽつりぽつりとしか明かりはない。

「・・・ここから見える景色が、ずっと大好きだった。夜更かしして、よく乳母に怒られてたけど」

 ちょっと拗ねたようなその言い方に、リンはくすりと笑った。

「なんか、目に浮かぶわね。ミルアのおてんばには、お城の人も手を焼いたでしょ?」

 からかって言ったリンの言葉に、ミルアは得意気に胸を張った。

「ああ、私はじっとしてるのが嫌いだったからな!よく騒ぎを起こしては、いったいどっちに似たんだって父上と母上がケンカになってた!・・・そうか」

「え?」

 ミルアの言い方がおかしくて笑っていたリンは、突然ミルアが真顔になったのを見て笑いを止めた。

「その時の父上と母上に似てたんだ・・・」

「・・・誰が?」

 ぽつりと呟いた言葉に首を傾げたリンを、ミルアはじっと見詰めた。

 出会った頃のコウキとリンの会話のテンポや一緒にいる雰囲気が、まだ戦争の気配もなく穏やかな時間が流れていた時の父と母のようだった。

 そこに仲間に入り、まるで失われた時間が取り戻されたような錯覚を起こしていたのだ。

(・・・だから、好きなんだ・・・)

 父に見守られ、母に優しく包まれる感覚。

 ミルアは、唇に笑みを浮かべてひとつため息をついた。

「・・・ミルア?」

 急に黙り込んでどうしたのかと顔を覗き込んだリンに、ミルアはニコッと笑った。

「私は、リンが大好きだ!・・・コウキのことも大好きだ!だから、リンにひとつ言っておかなくちゃいけないことがある」

「・・・・・」

 ミルアの口から出た名前にどきりとしたリンは、黙って続きを待った。

 ミルアは、こほんと咳払いをした。

「リンは、勘違いしてるっ!」

「・・・え?」

 全く予想外の言葉をもらい、リンは困惑した。

 戸惑うリンに、ミルアは説明した。

「確かに私はコウキが好きだけど、リンが思ってるような、そういう(・・・・)好きじゃないんだ!慈澪神は、好きなら奪えって言ってたが、そういうのは違うんだ。そういうことを望んでいるんじゃなくて、私はただ、笑っててもらいたいだけなんだ。コウキと、リンに」

 一生懸命に話すミルアに、リンは戸惑ったまま目を瞬いた。

「・・・で、でも、コウキだってミルアのこと・・・」

「そぉ~れも、リンの勘違い!」

 びしっと指を突き付けられ、リンはぐっと言葉に詰まった。

「どうしてリンがそう思ったのかの方が謎だっ!」

「・・・だって、私より信用されてるし・・・」

 要所要所で『あいつは大丈夫だ』と言われるミルアに対し、『手間かかる』『ちゃんと考えろ』『世話がやける』だのと散々言われているリンはしゅんとなる。

 リンのその言葉に、さすがのミルアもぐったりとしてため息をついた。

(コウキがあれっだけ態度に出してるのに・・・)

「・・・でもリン、コウキがあんな風にちょっかい出すの、リンだけだぞ・・・?」

「あれはただからかって面白がってるだけよっ!それにっ・・・!」

 最終ヒントのつもりで言ったミルアの言葉を真っ赤になって否定したリンは、すぐにうつ向いた。

「・・・それに?」

 先を促され、リンは自分でもわからない涙が溢れそうになるのを懸命に堪えながら口を開いた。

「・・・全部が終わったら、私は青き月に帰るもの・・・」

 消え入りそうなその声に、ミルアはハッとした。

「リン・・・」

「私は、この戦いの為だけに来た者だもの・・・」

 いつかは、ミルアやユウヒとだって別れる時がやってくる。

「・・・おばあさんや、家族や、友達がリンを待ってるのか・・・?」

 ミルアの静かな問いかけに、リンは目を伏せた。

「だから私は、こっちで好きな人なんかできちゃいけないのよっ・・・!」

 それなのに、出会ってからどんどんと心の中に入ってくる存在がいた。

 それが、辛い。

 とうとう涙がこぼれてしまったリンを、ミルアは背伸びをしてぎゅっと抱きしめ、切ない声で一言呟いた。

「・・・でもリン、その涙が、きっと全部の答えだ・・・」


「ミルアーっ!!またやりやがったなっ!?」

「うわっ!ご、ごめんっ!」

 氷の国アイズベルグへ向かうハルアの船の中で、コウキの怒鳴り声が響いた。

 食事中に、船の前方にモンスター群が現れたとの知らせでひと戦闘を終えたところだったのだが。

「だから、魔法使う時は範囲ってものを頭に入れろって何っ回も言っただろ!?」

「・・・いや、やっぱりとっさの事で・・・」

「とっさじゃねぇよっ!お前の呪文に呼ばれて、スープまで空っからになっただろーがっ!」

「・・・ミ、ミルアぁ~・・・水瓶の中も空っぽだよぉ~・・・」

「あはははは。ってことはさっきのモンスター達は、リンが作った魚介のスープにやられたってことか~」

「のんきに笑ってんなユウヒ!」

 ほとんど食べていない状態で戦闘に出て、さぁやっと腹ごしらえができると戻ってみれば皿が空っぽになっていたなんて、笑えない。

「制御ってもんを覚えろ!!」

「私の信条は『いつでも全力投球』だっ!」

「威張るなっ!」

「・・・す、すごいな~ミルア・・・炎竜さんとケンカしてる・・・」

「まぁまぁコウキ。具は残ってるんだから食べられるじゃないか」

「その具のダシが出たスープがうまいんだよっ!」

 トンットンットンッ

 ざぁ~っ

 ぐつぐつぐつぐつ・・・

 一同がぎゃんぎゃんと吠えている間に、リンは水瓶の中に新しい水を喚び、大きな鍋に新しい魚介のスープを作った。

「・・・もう少し煮たら食べられるから・・・」

 そう言ってふわ~っと食堂から出て行ったリンを、一同は静かに見送る。

「・・・なんかあいつ幽霊みたいになってないか?」

「コウキ・・・」

「やっと気付いたのかい?」

 ミルアに呆れたジト目をもらい、ユウヒにはバカにしたような言い方をされてコウキはムッとした。

「気付いてたよ!城出る時からなんっか変だったろ!妙に俺を避けるし!」

 負け惜しみに聞こえないこともなかったが、とりあえず良しとしてミルアとユウヒは顔を見合わせた。

 城でミルアに語ったリンの言葉と涙を、後からミルアに伝えられていたユウヒはニッコリとコウキに笑いかける。

「何か、怒らせたんじゃないのかな?」

 ユウヒにそう言われ、心当たりの有りすぎるコウキは言葉に詰まった。

 事情を知らないハルアは、一生懸命に考える。

「・・・な、何か嫌がるコト、ム、ムリヤリしたとかっ・・・」

「てめぇには言われたくねーよ!!」

「ひ~ん、ごめんなさぁ~いっ!」

 噛みつくように怒鳴られたハルアはミルアの背中に隠れ、ぷるぷる震えて小さくなった。

 ミルアとユウヒにじーーーーっと見つめられたコウキは、こめかみをひきつらせながら扉の方へと体を向けた。

「・・・わかったよ!!行ってくる!!俺の分のスープ取っとけよ!!」

 そう言い残してバタンと勢いよく扉を閉めて行ったコウキに手を振り、ユウヒは苦笑する。

「今すぐ行ってこいなんて、誰も言ってないけどねぇ」

「気になってしょうがなかったんだろう」

 腕を組んだミルアは、ふんと大人びたため息をついた。

 リンは、船尾の端っこの手すりに掴まり、波立つ水面をぼ~っと眺めていた。

(船首じゃなくて、船尾に来るあたり、我ながら後ろ向き・・・)

 城でミルアと話してから、極力コウキと顔を合わせないようにしていた。

 避けることは逃げているだけだと自分でわかっていたが、どうしようもなかった。

(気にすることも、ないのかもしれないけど・・・)

 確かにスキンシップ的なちょっかいは掛けられたことはあるが、周りが盛り上がっている程、そんなことはないのかもしれない。

 なにしろ、コウキの口から恋愛めいた言葉を言われたことなど一度もないのだ。

 ただただ振り回されているようなだけな気がして、リンは大きなため息をついた。

(そもそも、旅の途中でこんな事で悩んでる場合じゃ・・・)

「・・・こら、風邪ひくぞ」

 突然背後から聞こえた声に、リンはビクッとした。

 振り返らなくとも、誰だかわかる。

(元凶・・・!)

 まさに悩みの元凶、コウキだ。

「風、寒いだろ?これから寒くなるばっかりだぞ」

 氷の国アイズベルグはその名の通り、氷に覆われた北国だ。

 海上をぐるりと北上して、あと5日程の行程だった。

 返事の無いリンにため息をつき、コウキはその背中に近付いた。

「聞こえてんのか?」

 風からかばうように背後にぴったりと立ち、手すりを掴む手のすぐ外側を掴んだコウキの手に、リンは息を詰めた。

 確かに風が遮られ、コウキの体温が間近に感じられて暖かくはなったが。

(・・・ち、近いーーー!!)

 胸に包まれるような体勢になってしまい、ドキドキしてしまったリンは、同時にムッとした。

 こんな調子で、コウキはリンの気持ちを無視して強引に心の中に入ってくるのだ。

 女心など、ちっともわかっていない。

 ぎゅっと唇を噛み締めたリンは勢いよく振り返った。

「・・・もう、お願いだからこれ以上入ってこないでっ!!」

 急に涙目でにらまれながら怒鳴られてビックリしたコウキは、すぐに我に返った。

「いきなり何言ってんだよ!?まだ何も入れてねーだろ!?」

「何の話してんのよっ!!」

「お前がだろ!?」

「わからず屋っ!!」

「こらっ船の端っこで暴れんなっ!危ねっ・・・!」

 案の定、ぐらりと風に煽られてバランスを崩した体を支えられたリンは、なおもムキになった。

「・・・だから、こういう事するのやめてよっ!」

「さっきから何言ってんだお前っ・・・!」

「んっ・・・!」

 わけのわからないことを叫ぶリンの態度に腹を立てたコウキは、力尽くでリンの体を抱き寄せ、その唇を唇でふさいだ。

 驚いたリンは、必死で顔を背ける。

「・・・またっこれでおとなしくしようなんてっ・・・!」

 前にも馬上で同じことをしたコウキに怒るリンの体を腕に閉じ込め、顎を掴んだコウキは無言で再び口付けた。

「・・・んっ・・・や・・・!」

 嫌がるリンの抵抗を許さず、どんどん深くなる口付けにリンは喘いだ。

「や・・・だっ・・・!ん・・・!」

 何度も逃げようとするのを追い詰められ、腕も離されないままに侵入してきた舌に、リンはびくりと震えた。

 熱い舌に口の中をまさぐられ、舌を絡ませられるうちにいつしか体の力が抜け、リンは無意識のうちに夢中でコウキの深い口付けに応えていた。

 かくんと膝の力が抜け、リンは我に返った。

 目の前で、体の力が抜けたリンの腰を抱いたコウキが満足げな笑みを浮かべていた。

 ずいぶん、長い時間が経ってしまったように感じ、リンはうるんだ瞳でコウキを見詰めた。

「・・・どうして、こんなことするの・・・?」

 問われたコウキは、間近でリンを見つめ返した。

「したかったから」

「・・・・・・・・は?」

 簡潔に返ってきた返事に、リンはぴくりとこめかみをひきつらせた。

「・・・今、なんて・・・?」

 聞き間違いかと、一応笑みを浮かべて再度聞いたリンに、コウキはキッパリと答える。

「だから、急にしたくなったから」

 バチーーーーン!!

「このケダモノっ!!」

 火事場の馬鹿力でコウキを甲板に張り倒したリンは、ずんずんと足音荒く船室に向かって歩いて行った。

(甘い言葉のひとつも期待した方がバカだったわっ!)

 あれでは、相手は誰でもいいように聞こえた。

 甲板に取り残され、ピクピクと痙攣したコウキは心の中で思う。

(・・・誰にでもってわけじゃ、ねーっつうのに・・・)

 ケダモノと言われる程のことではないと、不条理を感じた。

「・・・あ、リンおかえり。食事はどう・・・す・・・」

 ミルアは途中で言葉を切った。

 ムスッとした顔のリンが、黙って魚介スープを皿に盛り、がつがつと食べ始めたからだ。

「食欲出たようだね?」

 ここしばらく食が細くて心配していたユウヒはニッコリと笑った。

「おかわり!」

「あ、ああ・・・」

 リンの望み通りに皿におかわりを盛ってやったミルアは、その怒った様子に目を瞬く。

「リン、まだ鍋に残ってるけど・・・」

「全部食べる!」

 キッパリ言ったリンの口調に、ミルアはたじろいだ。

「い、いや、コウキまだ食べてないから、残して・・・」

「全っ部食べる!」

 聞く耳持たず完食宣言をするリンに、ミルアとユウヒは虚ろな笑みを浮かべた。

(これは、何かやらかしたな?)

(バカだな、コウキ・・・)

「・・・リ、リンさん、怖いよぉ~・・・」

 ひたすら食べまくるリンを、ハルアは水瓶の陰からビクビクと眺めていた。



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