ハルア(真)と、ファイナル延長
「・・・・・」
「よっ。起きたな」
うっすらと開けた瞳にコウキの顔が映り、リンはぼんやりとそのにこやかな顔を見詰めた。
「・・・みんなは・・・?」
いつものその質問に苦笑しつつ、コウキはリンにあの後のことを教える。
「前と同じく慈澪神は消えちまったよ。一晩経って、王も王妃も少し落ち着いたようだ。今はミルアとハルア、ユウヒも入ってこれからのこと話してる」
「・・・そう・・・」
役に立てたのか、立てなかったのかよくわからず、リンはそっとため息をついてから、ハッとした。
自分のついたため息が、やたら直接素肌に感じたからだ。
恐る恐る、掛けられたシーツの中を確認して、リンは悲鳴を上げた。
「・・・な、なんでハダカなのよー!?」
突然の大声に、わざとらしく耳をふさいだコウキは呆れた声を出す。
「なんでって、お前、服濡れてただろ、ビショビショに。言っとくけど脱がしたのは俺じゃないからな」
「当たり前よ!早くあっち向いて!あっち行って!出てって!」
シーツが掛けられていたとはいえ、一糸まとわぬ素肌のままで寝ているところを見られていたリンは真っ赤になって叫んだが、矢継ぎ早に拒絶の言葉を浴びたコウキはムッとしてこめかみをひきつらせた。
「そうはいかねーよ。ミルアから『しっかりリンを見てろ』って言われたからな。雇い主の命令には逆らえねーよ。しっかり見ねーとな」
「それ、そういう意味じゃないわよ!!」
都合の良い言い回しをするコウキに、シーツをしっかりと体に巻き付けながらリンは怒鳴った。
「・・・そういえば、気付いたか?」
怒っていたところへ突然真顔で真面目な声を出され、リンは勢いを削がれて何の事かと眉を寄せた。
「今回気付いたんだけど・・・」
だんだん小声になり、耳を貸せと合図されたリンは、何か重要なことだろうかと素直に耳を寄せた。
その耳に、内緒話をするように手を添えたコウキが唇を近付ける。
「・・・んきゃあっ!?」
突然耳をペロリと舐められたリンは悲鳴を上げて身をすくませた。
真っ赤になって耳を押さえ、信じられないと言葉を失うリンの前で、当のコウキは腕組みをして一人うんうんと頷いた。
「お前って、耳も弱点だよなぁ」
牢屋の中での出来事を思い出し、リンは更に赤くなってぷるぷると震えた。
コウキはなおも、もっともらしく続ける。
「そんな簡単に弱点ばっか晒してどーすんだよ?」
その言葉に、リンはとうとうプチっとキレた。
「あなたが勝手に見つけてるだけでしょっ!?それに、こんなの弱点のうちに入んないわよっ!!」
その言葉に、コウキはニヤリと笑った。
「ほ~ぉ。弱点じゃない、と?」
「弱点じゃないっ!」
予想通り負けん気の強いリンの反応に内心ほくそ笑みながら、コウキは身を乗り出してベッドに手を付いた。
「・・・じゃ、試してみるか?」
「・・・・・え!?」
意地の悪い笑みを浮かべて近付いてきたコウキにぎょっとして身を引いたリンは、体に巻き付けていたシーツに絡まり後ろに倒れ込む。
「弱点じゃないなら、平気だよなぁ?」
「うっ・・・や・・・ちょっ・・・!」
とても楽しそうに身を沈ませてきたコウキに驚いて慌て、その顔を離そうとして額と頬に置いた両手はあっさりと捕らえられ、コウキの片手で一括りに掴まれてしまった。
「・・・弱点だって認めるか?」
「・・・弱点じゃないってばっ・・・」
手を取り返そうと奮闘しながら返ってきたそのセリフに、余裕の笑みを浮かべたコウキは更に身を沈めた。
「素直じゃねぇな~」
「・・・んやっ・・・ちょ・・・やめっ・・・!」
「弱点だろ?」
「ちがっ・・・!んっ・・・あっ・・・!」
弱いところをしつこく責められ、ぞくぞくする感覚に耐えきれずに動かされたリンの足がシーツを乱していった。
「・・・おやおや、すっかり元気みたいだねぇ」
戸口から突然聞こえたユウヒの声に、二人は固まった。
見ると、いつも通りニコニコと笑顔を浮かべるユウヒと、リンと同じく赤くなって固まっているミルア、そしてそのミルアに隠れるようにビクビクと小さくなっているハルアが立っていた。
「・・・?」
そのハルアの様子に違和感を感じたリンは、体を起こしてから眉を寄せて首を傾げた。
リンにじっと見つめられたハルアは、ビクッとして蒼くなり、更にミルアの背中に隠れてしまう。
我に返ったミルアは、体をずらしてハルアをたしなめた。
「こらハルア!失礼だろ?」
だが、ハルアから返ってきた言葉に、リンは絶句することとなる。
ハルアは、泣きそうな声を出した。
「だ、だだだってミルア!月から来た女の人なんて、怖いよっ・・・!」
聞いたこともない気弱な声を出したハルアに、リンは目を丸くした。
その横に立っていたコウキは、これ見よがしにため息をついた。
たったそれだけのコウキの行動に、ハルアはなおびくついてぷるぷると震えた。
「え・・・炎竜さんも・・・こ、怖いよぉ~・・・!」
まるで竜ににらまれた小動物のようにぷるぷると震える様に呆気に取られていたリンは、唐突に気付いた。
「・・・もしかして・・・ハルアも影響を受けてたの・・・!?」
視線を向けられたミルアは、なんとも言えず情けない顔で頷いた。
開いた口がふさがらず、再度リンに見つめられたハルアは、今にも泣き出しそうだった。
「・・・なんか、前みたいにあからさまな悪口言われるのもアレだけど・・・こう怖がられるのも、なんかアレね・・・」
虚ろな笑みを浮かべて感想を述べたリンに、コウキも同感だと頷いた。
「こいつだけは、守護神の影響受けたままの方が良かったかもな」
ミルアが今まで、ハルアを異性として見れなかったのも納得がいった。
「・・・なんだかんだ憎まれ口たたいてたくせに、ちゃんとわっかりやすい所に俺の剣置いててくれたり・・・気の利く奴だったけどな」
牢屋に入れられる時に当然取り上げられていた剣をちゃんと取り戻してミルアの所へ行く事ができたのも、今は亡き好戦的なハルアのおかげだったとうなるコウキに、ユウヒは仕方ないと笑う。
「いなくなった人のことを言っても始まらないよ」
まるっきり別人扱いの二人に、これでいいのだろうかとリンは虚ろな笑顔のまましばし自問自答してしまった。
もとのハルアに戻り、少なからずホッとしたミルアは複雑な思いのまま、なんとかフォローの言葉を探す。
「・・・これはこれで、良いところもあるんだ・・・!ほら、ハルア、お手!」
苦肉の策で出したミルアの手のひらに、おずおずと手を乗せたハルアを見て、全員ががくりと肩を落とした。
(・・・ミルア・・・完っ全にペット扱いだわ・・・)
(それでいーのか?ハルア・・・)
(ハルア君・・・報われないねぇ・・・)
これでは、ミルアに近付く為にコウキを倒すなどと言ったことなど、例え覚えていても実行しようとすら思うことはないだろう。
その後、ちゃんと乾かしてミルアが持ってきてくれた自分の服に着替えたリンと共に、コウキはマール・モーリェ王と王妃に対面した。
今後のこともあらかた話終えた王と王妃は、疲れきったというよりも、やつれた顔をしていた。
「まずは、フォレスタに使者を送って同盟を結ぶことにしたよ」
ユウヒが口火を切って話を始めた。
守護神の影響が無くなった王妃は、王とミルア、ユウヒ、ハルアの前で泣きながら話をした。
いつからか、愛する王を他の誰よりも名高い王として世界に君臨する王にしてあげたいという思いに心が支配されていったこと。
そして、それしか考えられなくなり、心の中に聞こえる声に従い、どんどん戦争を加熱させるような言動を取っていったこと。
王は、王妃の言動が変わっていくのは、自分がふがいないせいだと思い、もっと期待に応えようと王妃の言うままになっていた。
どちらも愛する相手を想ってのことだったが、結局それは慈澪神の操作であり、本当に愛から来る行動ではなかった。
話を黙って聞いていたコウキの隣で、ミルアがぽつりと呟く。
「・・・私は、相手がどんな男でも、自分の中で一番ならそれでいい・・・」
その声を聞いたコウキは、ニッと笑ってミルアの頭をいつものようにぐしゃぐしゃと撫でた。
「だからお前は慈澪神にも影響されなかったんだろ!」
強い心を持っていると誉められたミルアは、撫でられながら、はふっとため息をついた。
(・・・これは、戦いの最中の言葉、聞いてなかったな・・・)
あんなにハッキリと「コウキが好きだ!」と言ってしまったことを少なからず気にしていたミルアの複雑なため息に、コウキは首を傾げる。
「・・・で、なんでお前はまた前の服着てんだ?」
王女のドレスでなく旅装束のミルアは、ムッとして顔を上げる。
「あんなドレスで、旅はできないからだ!」
「・・・旅?どこに?」
「次の国の守護神を治める旅だ!」
「・・・はぁ・・・。んじゃ、頑張れよ。魔法使えたし、俺は、ここまでだ」
意気込むミルアにため息をつき、ここでさよならと言ったコウキに、ミルアとユウヒはにんまりと笑った。
その笑顔に、コウキは警戒して身を引く。
「・・・なんだよ、その顔・・・」
「ミルアに聞いたよ?もう一つ、ミルアと約束をしたね?」
「は!?」
顔をしかめて何の事だと問うコウキに、ミルアはニッコリと笑う。
「覚えてるだろう?一度リンと離れ離れになったとき。私が『必ず目的を果たしてみせる』って言ったとき、お前は『見届けてやるよ』って言ったよな?」
「・・・・・・・・・・言ったかもな。でもお前の目的はもう果たしただろ?」
あの頃言ってたようにフォレスタ王に面会を果たし、マール・モーリェにまで来たのだから目的以上のことは見届けたと言うコウキに、ミルアとユウヒは笑みを深めて迫った。
「それがねぇ、ミルアの目的はそんなもんじゃないんだよね?」
「ああ!私の目的は、全部の守護神を鎮めて世界を救うことだ!」
「・・・・・・・・・・は?」
だいそれたことを言い出したミルアに、コウキは目を点にした。
「・・・なにそれ。つまり、世界各国全部回って、全部の守護神と戦えって?」
「そういうこと!」
声を揃えたミルアとユウヒに、コウキは思いっきり伸び上がって上から怒鳴った。
「ふざっけんなっ!!んなことやってられっか!!そんなん金1000で受けられねーよっ!!」
大声で怒鳴るその声に従い、ハルアはビクビクと震えた。
「こ、怖いよぉ~・・・!」
「成功報酬は、望むものを与える」
キッパリと言ったミルアに、コウキは目を見開いて息を止めた。
「・・・・・まじで?・・・なんでも?」
「まじで。なんでも」
今回の戦いにもなし崩しに参加してしまい、ハッキリ言って死ぬ思いをしたわけだが、これからも共に旅をするということはまた何度も危ない目に遭うということだ。
それを、望むものはなんでもという報酬と天秤にかけても良いものか、コウキは腕を組んで唸った。
「・・・どう思う?」
「・・・え!?」
なぜかじっと息を詰めて話の成り行きを見守っていたリンは、突然コウキに振り返られ、ビクッとした。
「ど、どうって・・・」
意見を求められたリンは緊張した。
色々な考えが頭を巡るが、言葉が出てこない。
この戦いに巻き込みたくないと思って、一度はキッパリ離れた相手であるのに、今更になってなぜこんなに葛藤しなければならないのか、わからなかった。
だが、慈澪神との戦いで血まみれになったコウキの姿を思い出し、リンは覚悟を決めてスカートをぎゅっと握った。
「あ・・・」
「・・・ミルア!報酬は今決めなくてもいいんだろ?」
何か言い掛けたリンの声を遮ったコウキに、ミルアは目を瞬いた。
「ああ、それはじっくり考えてくれてかまわない」
「ちょっ・・・」
「じゃ、決まりな!」
ミルアの返答に満足げに頷いたコウキは、またもやリンの声を遮って笑顔で契約更新を宣言した。
ユウヒも頷き、ニッコリと笑った。
「じゃ、これからのこと、詳しく話し合おうか」




