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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
マール・モーリェの旅
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マール・モーリェ王

後半、イチャイチャ・・・。

「・・・ハルアが、ミルアを見つけて帰ってきた?」

「はいっ!・・・それが、ミルア様お一人ではなく・・・」

 従者にそっと耳打ちされたマール・モーリェ王は、カッと目を見開いた。

「通せ!!」

「はっ!」

 王の命令と共に、謁見室の扉が開かれた。

 扉の向こうから、ハルアとミルアが並んで入ってくる。

 ハルアが一歩前に出て、堂々と口を開いた。

「ただいま戻りました、おじ上!無事ミルアを見つけることができました!そして・・・」

 ハルアは握っていた鎖をじゃらりと引いた。

「緑の国フォレスタの王子ユウヒ!戦場で噂の『戦荒らしの炎竜』!そして、月から来たと言う、怪しい術を使う女を捕らえて参りました!・・・さぁ来い!王の御前だ!」

 一本の鎖に並んで手首を縛られている三人を、ハルアは思いきり乱暴に引いて膝まずかせた。

(あ~っ!気分いいっ!)

 至福の顔しているハルアを、鎖で繋がれた三人は恨めしそうに見上げた。

(すっごい楽しそうね・・・)

(こんなことでも無ければ、絶対できないからねぇ)

(てめぇ、後で覚えとけよっ!)

 ヘタな設定を付けてこっそり忍び込むよりも、本当の正体が一番インパクトがあると言ったユウヒの提案は間違っていなかった。

 即、王との対面を果たしたことは、予想以上の効き目だった。

「この、何考えてるかわからないような顔しているのが、ユウヒ!こっちのふてぶてしいのか『炎竜』!」

 頭をぐいぐい押さえながら説明するハルアに、ユウヒとコウキの顔がひきつる。

(いい度胸だなぁ)

(調子乗んのもいい加減にしとけよ!?)

「・・・そして、この女が月から来たと言う者です。伝承通り言霊を使われるとやっかいなので、口を封じております」

 ご丁寧に猿ぐつわを噛まされたリンは、そっと王を見た。

「・・・?」

 ほんの少し見ることのできたマール・モーリェ王は、フォレスタ王を初めて見たときと違う感じがしてリンは眉を寄せた。

 マール・モーリェ王がおもむろに立ち上がり、ミルアとハルアに近付く。

「・・・このばか娘がぁっ!!」

「おじ上っ!!」

 マール・モーリェ王は思いきりミルアの横面を張った。

 吹き飛ぶように倒れたミルアに驚いて、ハルアが慌てて王を押さえる。

 王はまだ興奮が収まらない様子でハルアの手を振り払った。

 見る間に腫れた頬を押さえながら起き上がったミルアの服を掴んだ王は更に怒鳴る。

「どういうつもりだ!!国を捨てる気だったのかっ!!」

「・・・っ!」

 もう一度振り上げられた王の手を見てリンは思わず立ち上がりそうになったが、一緒に繋がれているコウキに鎖を引かれて止められた。

「!?」

 なぜ止められるのかと驚いているうちに、強く皮膚を叩く音が響いてリンは慌てて王とミルアを見た。

「・・・ハルアっ!」

 驚いたミルアの声が聞こえた。

 ハルアがミルアを抱き締めて庇い、殴られた勢いのまま二人で床に倒れ込んでいた。

 今まで自分に逆らったことのないハルアの行動に驚いたマール・モーリェ王は、動きを止めて娘と甥を見詰めた。

「・・・おじ上、ミルアの話もお聞きください。怒るのはその後でも良いでしょう」

「・・・・」

 ハルアの言葉に驚いた王は、目を細めて腕を下ろした。

 黙ったまま王座にもどる王の背中を見てホッとしたハルアは、ミルアに笑みを向ける。

 ミルアはハルアの自分と同じく腫れた頬に手を伸ばした。

「ごめん、ハルアっ・・・私が避けなかったから・・・」

「ちょっとは格が上がったかな?」

 痛々しい笑顔を向けられたミルアは、なんとも言えず泣きそうな顔でハルアを見詰めた。

 そんな二人の様子を見ながら、マール・モーリェ王は口を開く。

「・・・話を聞く。その者達は連れ出せ!」

「!」

 娘の話を聞く為に腰を据え、敵国の王子の存在すら後回しにした王に、ミルアとハルアはぎょっとした。

 動かない二人を、王はぎろりとにらむ。

「何をしている!?早くせんかっ!!王子は鍵の付いている部屋に入れ見張りを立てよ!残りの二人は牢にでも入れておけ!」

 この状況で各人がバラバラになるのはどうだろうと心配して、ミルアとハルアは三人を見た。

 リンは多少緊張した顔をしていたが、コウキとユウヒが涼しい顔をしていた為、ハルアは王に向き直った。

「・・・わかりました。そのように致します。・・・来い!」

 三人の鎖を引いていくハルアを心配そうに見送ったミルアを見た王は立ち上がった。

「まずは身形を整えよ。ミオも・・・お前の母も心配しておる!」

 仲間と離ればなれになり一人きりになったミルアは、きゅっと唇を噛みしめた。


「・・・ハルア様・・・よろしいのですか・・・?」

「うるさい!これは僕が捕らえた囚人だ!」

 ユウヒを閉じ込めた部屋の見張りを命じられた兵士におずおずと言われたハルアは、有無を言わさず怒鳴り付けた。

 牢に入れるよう王に命じられた二人を、まるで案内でもするように城の中を連れ回し、ユウヒが入れられた部屋までご丁寧に見せているのだから、そう言われても仕方ないのだがハルアは堂々としていた。

(なんでお前だけ特別なんだよ・・・)

(王子だからね♪)

 兵士にきこえないよう小声で話したコウキとユウヒの余裕に舌打ちし、ハルアはユウヒを部屋に入れて鍵を掛けた。

「・・・次!お前達だ!」

 再び鎖を引いたハルアは、城の地下へ向かう。

 所々に兵士がいるため努めて黙々と歩くハルアの後ろを歩きながら、コウキは周りを見渡した。

「・・・こりゃ、ミルアが城を飛び出したのもわかるな」

 ため息まじりに呟いたコウキに、リンとハルアは目を向けた。

 コウキはハルアをじっと見る。

「城内がずいぶん手薄だな。子供ばっかりじゃねぇか」

 要所要所に立っている兵士も、先ほどユウヒが見張りに付いた兵士も、皆14~17歳といったところだった。

 つまり大人の兵士達は皆戦場に駆り出され、城には残っていないということだ。

 このまま戦争が続けば、ここの少年兵たちも戦場に出されることだろう。

 それを思えばこそ、ミルアは城でじっとしていることは出来なかったのだ。

 ハルアはムッとして前を見たまま答えた。

「だからこそ、前線が重要なんだ。城に敵が踏み込むことなどあってはならない。・・・それをお前が・・・」

 コウキが『戦荒らしの炎竜』だと聞き、じぶんでも受け止めきれない感情を抱いたハルアは顔だけ振り返った。

「それをお前が台無しにしたんだ!何度も!戦荒らしだかなんだか知らないが、好き勝手におもしろ半分で、いったいどれだけの兵士達を殺したんだ!?そんな汚れた者がミルアの師匠だなんてよく言えっ・・・」

 興奮して大声になったハルアの背中に、リンがどんっと体当たりをした。

 手を縛られ、口を塞がれたリンができる唯一の抵抗。

 涙目でにらむリンを見下ろしたハルアは、鼻で笑った。

「何が言いたい?」

 リンは、コウキがミルアに対して一生懸命に魔法を教えようとしているのを知っている。

 出会ったときから、ミルアのその真っ直ぐな性質を気に入り、さりげなく守っているのを知っている。

 ミルアの、コウキに対する想いも、知っている。

 そして何より、コウキが一人で戦場を荒らしていたのは、ただ腕試しがしたかったからとか、おもしろかったからではなく、その裏にある悲しみや無力感を映した顔を知っている。

 だからハルアの言葉に我慢ができずに訴え掛けたが、ハルアには伝わらなかった。

「・・・気味悪い者同士、お似合いだ」

 吐き捨てるようにコウキとリンに向かって言ったハルアは、止めてしまった足を再び動かし、地下牢へと二人を引いた。

 仲間になれたと思ったハルアがまた遠くなってしまい、リンはぎゅっと目を閉じた。

 ずっと黙ってハルアに言われるままになっていたコウキは、リンを追い越す瞬間、一言だけ呟いた。

「・・・ありがとな」

 その、今までに聞いたことのないような声音に、リンは胸が締め付けられる気がした。

「・・・ハルア様!ここでございます!」

 連絡を受けていた兵士が、牢の一つを開けて待機していた。

「・・・入れ」

 前面が鉄格子になっている牢には、地下のためもちろん窓などもなく、僅かな通気孔があるだけで薄暗かった。

 鎖の先端を牢の中の突起物にくくりつけたハルアは、コウキとリンに向き直った。

(あ・・・)

 その時リンは、ハルアの頬がマール・モーリェ王に殴られたまま、まだ赤く腫れていることに気づいた。

 同じように殴られたミルアを思い出して放っておけなくなったリンは、言霊で治療しようかとなんとか身振りでハルアに伝えた。

 だが、ハルアは眉を寄せただけで、すぐに目を反らした。

「必要ない」

 あっさりと断られそのまま牢に鍵を掛けて行ってしまったハルアに、リンは肩を落とした。

(・・・なんだか、拒否されてばっかり・・・)

 ハルアもだが、マール・モーリェに入ってすぐの岩場で、コウキにも癒しの光はいらないと言われたことを思い出したリンはしゅんとする。

(私の力って、必要ないものなの・・・?)

 良かれと思ってやろうとしたことを拒絶されたことがショックだった。

 フォレスタ王に癒しの光を拒否された時にも感じたことだ。

(人を癒すって、難しい・・・)

 うつ向いて落ち込みながら考えていたリンの顔に、ぬっとコウキが顔を近付けた。

「!?」

 突然普通以上に接近されたリンは驚いて条件反射で後ずさったが、なおも追いかけ顔を近付けてくるコウキに追い詰められ、壁に背中をぶつけた。

 コウキがあきれた声を出す。

「口の、ほどいてやるからじっとしてろって」

 その言葉に、過剰に意識してしまった自分に気づいたリンは赤くなって固まった。

 再びコウキの顔が近づき、リンはぎゅっと瞳を閉じる。

(・・・ち、近いっ・・・!)

 コウキが口を使ってリンが噛まされている布を取り除こうと動くたびに、その唇が頬や髪に触れ、動く体や喉元から間近に体温を感じてしまい、リンはどうしようもなくドキドキした。

「・・・外れねーな」

「・・・っ!」

 一言呟いて顔の反対側に動いたコウキの唇が偶然耳に触れ、リンはびくりとした。

 そのまま何度も耳の辺りを行ったり来たりする唇に耐え切れず、じゃらりと鎖の音を鳴らして動かしたリンの手は、同じく鎖の音と共に動いたコウキの手にあっさりと押さえられてしまう。

(・・・え・・・?)

 その時、リンは気付いた。

「・・・ん!ん~ん!んんん~っ!」

(手!手使えるなら!手でほどいてよっ!)

 掴んでいた手でぶんぶんと抵抗され、布と全く関係ないリンの首筋の辺りで遊んでいたコウキは舌打ちする。

「・・・ちっ、気付いたか・・・」

「~~~~~~っ!」

 体の前で手首を縛られているだけで、指先はなんとか動かせるのだ。

 真っ赤になって怒っているリンの様子に、コウキは渋々体を離して、後ろを向いたリンの後頭部で結わえられていた布を外してやった。

「・・・っあなたねっ・・・!」

「しーっ!大声出すなっ!」

 近くに兵士がいるはずだと小声でたしなめられたリンは、都合のいいコウキをジト目でにらみ、ぼそりと呟いた。

「・・・『風刃』・・・」

「うわっ・・・!?・・・あ・・・」

 突然の風の刃に驚いたコウキは、リンが鎖を断ち切ってくれたことに気付く。

 慌てて、大きな音が出ないようそっと鎖を床に置いたコウキは、そろっとリンをうかがい見た。

 まだ怒っている様子でにらんでいるリンに、うっと息を飲む。

「・・・なぁ、気付いたか?慈澪神が取り付いてるのは、王じゃない・・・」

 いきなり出された重要な話にリンはハッとした。

 確かにマール・モーリェ王を直接見た時、フォレスタ王に見えた影のようなものが全く見えなかったのだ。

 リンは少し考えてから口を開く。

「・・・慈澪神は、女神。もし取り付いて操るなら・・・」

 目を合わせ、同じ結論に至ったと確信した二人はすぐに行動を開始した。

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