お茶目
「どこがお茶目だぁぁぁ~っ!!」
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
谷底の流れを進むハルアの船を、突然両側から落石が襲い一同はパニックになった。
「リンっ!頭上だけでも守れっ!船壊れたら終わりだ!!」
「『防御』~~~~~~っ!!」
流れの中に巨大なサメがうようよいるのは、もう確認済みだった。
「・・・ずいぶん降ってくるなぁ」
「ユウヒ様!掴まってないと危ないですっ!」
頭上は守れても、次々落ちてくる巨大な岩のせいで水面が波打ち、船は大いに揺れまくっていた。
のんきに頭上を見上げていてリンに怒られたユウヒは、ふと水面に目を向ける。
「・・・・あ」
岩が落ちてきて怒り狂ったかのように、サメ達が水から飛び上がり船を襲い出した。
「うわあぁぁぁぁっ!」
頭のすぐ上を巨大なサメが数度通りすぎ、なおパニックになる。
あんなものが船に落ちたら、一瞬で粉々だ。
コウキは剣を抜いて構えた。
「・・・くそっ!三枚におろして食ってやる!!」
だが、次に水面から顔を出したのは、サメではなかった。
ぬぅ~っと姿を現したものに、一同はぎょっとした。
「い、いいいいイカぁ~っ!!」
「・・・いやぁ、これだけ巨大だと、クラーケンじゃないかなぁ?」
悲鳴を上げたリンに、ユウヒがのんきに指摘した。
「どっちでもいいっ!!ぶった斬ってや・・・」
大きく剣を振りかぶったコウキに向かって、巨大イカはぶしゅう~っと墨を吐いた。
「うわっ!」
「きゃあ!」
とばっちりで墨を数滴浴びたリンとユウヒの前で、ものすごい水圧を体に受けてひっくり返ったコウキはむくりと起き上がる。
「てめぇこら何しやがる!!あったま来た!!スルメにしてやる!!」
言うが早いか炎の呪文を唱えたコウキは、その炎を剣に宿して巨大イカに向かって行った。
「うるぁぁっ!・・・って、あれ?」
その剣が届く前に、巨大イカはあっさり船から離れて水面下に消えてしまった。
「・・・火が怖かったのかな?」
大きくても生き物は生き物かと首を傾げたユウヒの声を聞きながら、コウキはつまらないと舌打ちした。
「なんだよ。腹一杯スルメ食ってやろうと思ったのに」
「う~ん、さすがにお腹痛くなりそうだなぁ」
のんきな二人のそばでじっと耳を澄ませていたリンが、さぁっと青ざめた。
「・・・ねぇ、何か音が聞こえない?」
リンの言葉に二人も耳を澄ませると、確かに轟くような音が聞こえてきた。
しかも、その音はどんどん近づいてくる。
「・・・これって・・・」
「・・・まさか・・・」
ごくりとのどを鳴らした三人は、船首に走った。
そこから見えたものは。
「・・・やっぱり・・・!」
「なんで上流に登ってるのに・・・!」
「滝があるんだよーーーー!?」
まるで落とし穴のように、流れの一部分だけが下に落ちるようになっていた。
どういう仕組みなのかはわからないが、滝の向こうには再び流れが続いているのが見えたが、とても渡れるような幅ではない。
「落ちる落ちる落ちるーーーっ!!」
「・・・う~ん、困ったねぇ・・・」
「ふ、『浮遊』ーーーーっ!!」
滝に落ち込む寸前で船はふわりと宙に浮いた。
「・・・重っ・・・!」
「が、頑張れっ!持ちこたえろっ!」
馬一頭浮かばせるのとは、重量が違う。
ずしりと来た負担にぷるぷる震えるリンを、コウキは必死に励ました。
なんとかヨロヨロと向こう側に着水してホッとしたのも束の間、前方の水面から、まるで巨大な竹の子ように突然岩が勢いよく生えた。
「ば、爆破しろ!!」
ぎょっとしたコウキに怒鳴るように言われ、リンはありったけの力を込めて叫んだ。
「『爆破』ーっ!!」
「・・・っ!」
見事粉々に吹き飛んだ岩の向こうに、また岩が生えていた。
急いで舵を握ったコウキは船を旋回させる。
その岩の向こうにも、その向こうにも、若干左右に位置をずらしながら次々に岩が生えていくのが見えた。
全て言霊で破壊させていては、またリンが倒れてしまうほどの数だった。
「どうしても避けられねぇのだけ爆破だ!!わかったな!?」
「は、はいっ!」
「掴まってろよ!?」
大きく左右に揺れる船首に、リンはユウヒに支えられながらいつでも言霊を使えるように身構えた。
「・・・コウキ、なかなか上手いじゃないか」
上手に岩を右に左に避けるのをユウヒは褒めたが、必死に舵を握っているコウキの耳には全く届かなかった。
ミルアとハルアは。
この仕掛けを造った張本人である人物の直系の血筋であるミルアとハルアは、皆に会わせる顔など無く、ただひたすらに船室のすみっこで小さく縮こまっていた。
「・・・これがお茶目なんて、俺は絶対認めねぇからなぁーーー!!」
コウキの絶叫が、甲板に響き渡った。
「・・・・考えてみれば、俺、船乗ったの初めてだった・・・」
「・・・・私も・・・」
「二人揃って初体験かぁ。おめでとう♪」
甲板にばったりと倒れたコウキとリンは、ユウヒののんきなセリフにぐったりした。
「・・・・ご、ごめん、みんな・・・」
甲板に出てきたミルアはおずおずと謝った。
「いやぁなかなか貴重な体験だったよ」
ニコッと笑ったユウヒに、ハルアはホッとする。
「そう言ってもらえれば・・・」
そのまま和みムードになりそうだった為、コウキはガバッと起き上がって抗議した。
「そう思ってんのはユウヒだけだっ!言っとくけど、リンの言霊が無かったら最初の落石で死んでるからなっ!?」
「う・・・」
正当な抗議を受け、ハルアは返す言葉も無く押し黙った。
「・・・ごめん、リン。また無茶な力を使わせて・・・」
沈んだ顔と声でミルアに謝られたリンは、よいしょと体を起こして微笑んで見せた。
「平気よあれくらい。それに、兵士の人達と戦わなくて済んで良かった」
「・・・平気じゃねぇよ・・・。まだ軍隊の中を突っ切ってきた方が楽だった・・・」
ぐったりとして言ったコウキに、リンは強い瞳を向けた。
「それは、ダメよ」
「え?」
「あなたはこれ以上、人間と戦っちゃだめ」
強い瞳でハッキリと言い切られたコウキは絶句した。
リンの瞳になぜかたじろいでしまい、そっぽを向いたコウキはガリガリと頭をかく。
「・・・ま、無事に着いたから、いーけど」
コウキの言葉に、一同は船の前方を見た。
壮麗な造りのマール・モーリェ城が、真っ直ぐ目の前に見えていた。
「・・・こちら側にも一応見張りはいるはずだ。僕の船だとわかるだろう」
「お出迎えが来るんじゃないのかい?」
王族の帰城となれば、知らんふりはしないだろう。
ユウヒの言葉にハルアは頷く。
「もともとミルアを探すと言って出てきたんだ。僕とミルアだけなら難なく城に入れるが・・・」
「俺達を、どう設定するかだな」
一緒に城内へ入る為の作戦が必要だった。
確実に全員で、王の御前まで出られるような作戦が。
「・・・こういうのはどうかな?」
ユウヒの提案に、全員が身を乗り出した。
ユウヒはニッコリと笑う。
「マール・モーリェ王が直接会ってみたいと思う位、興味を持ってくれそうなもの」
一同は、ごくりとのどを鳴らした。




