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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
マール・モーリェの旅
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慈澪神・精神体

「・・・遅いな・・・」

「声も何も聞こえないわね・・・」

 甲板の入口で気を揉みながらリンとミルアは呟いた。

 厳しい表情のユウヒも、内心穏やかではなかった。

 霧は一向に晴れる気配が無いのだ。

 その時。

「・・・おーいユウヒ!ちょっと手伝ってくれ!」

 コウキの声が聞こえて三人はハッとした。

 ハルアか執事が倒れているのを運ぶ手伝いでも必要なのかと、リンとミルアに頷いたユウヒはすぐに移動した。

「・・・コウキ!どこだ?」

 自分の伸ばした手の先も見えないような霧に包まれ、ユウヒは慎重に進んだ。

 少し進むと前方に人影が見えた為ホッとしたユウヒは、次の瞬間目を丸くした。

 可憐で華やかなドレス姿の婚約者・ユリカが目の前に現れたからだ。

「・・・ユウヒ様!」

「ユリカ・・・?どうして・・・」

 真っ直ぐに胸に飛び込んできたユリカを受け止めたユウヒは、戸惑いの声を上げた。

 ユリカは涙ぐみながらも再会の嬉しさで笑顔を浮かべながらユウヒを見上げた。

「どうしてもこうしてもありませんわっ!淋しくて我慢できずに会いに来てしまいました!会いたかった・・・!」

「ユリカ・・・」

 全身で想いを込めて抱き着くユリカの肩に手を置いたユウヒは、そっとその体を引き離した。

「・・・ユウヒ様?」

 呆気なく離されて戸惑うユリカに、ユウヒはいつもの笑顔でニッコリと笑った。

「勉強不足だね。ユリカなら、最初に抱きついてくるのと同時にキスが付いてくるよ」

 偽物と見抜かれたユリカは、さっと身を引いた。

 それと同時に船を包んでいた霧も、前方に向かって一斉に引いていく。

「・・・あっ・・・!」

「みんなっ・・・!」

 緊張しながらじっと待っていたリンとミルアは、突然霧が晴れたことで、すぐ近くに立つユウヒの背中とさほど離れていない場所にそれぞれ倒れているコウキ、ハルア、執事の姿を見つけることができた。

 明るい日射しが戻りそう、ユウヒはホッと息をつく。

「・・・やっぱり罠だったみたいだね」

「ユウヒ様!大丈夫ですか!?」

 駆け寄ってきたリンとミルアにニッコリ笑ったユウヒは、まだ倒れたままのコウキ達を示した。

「うん僕はね。それよりあっちが心配だ」

 その言葉にハッとし、リンはコウキへ、ミルアはハルアへと駆け寄った。

 ユウヒが近付いた執事も同様、三人は気を失ってうなされていた。

「ちょっと!大丈夫!?起きてっ!」

「起きろハルア!!」

 大声で呼び掛けられたコウキとハルアへと夢の底から突然呼び戻され、びくんと体を震わせた。

「・・・大丈夫っ?」

 うっすらと開けた瞳に、自分をのぞき込んでいるリンの顔が映り、コウキはゆっくりと目を瞬いた。

「・・・・」

「大丈夫!?何があったの!?」

 心配するリンの顔をまじまじと見ながら、コウキはおもむろに片手を上げてリンの胸に触った。

 バチーーーン!!

「いきなり何するのよっ!!」

 強烈な衝撃を頬に受けたコウキは、ホッとしてしまった。

「・・・本物だな、間違いなく・・・」

「・・・はぁ・・・?」

 何なのかと眉を寄せたリンの耳に、ミルアの悲鳴と何かを殴る打撃音が聞こえた。

 振り返ってそちらを見たときには、ハルアが甲板の端までぶっ飛んでいた。

 その二人の様子を見たユウヒは苦笑する。

 霧の中で何が起きていたのか、だいたい理解できた。

「まだまだ経験がたりないなぁ、二人共」

 苦笑するユウヒの足元で執事が飛び起きた。

「・・・ややっ!?肌もあらわな踊り子たちはどこに!?」

「・・・じいやさんが一番幸せな夢だったねぇ」

 なんとか気を取り直して立ち上がったコウキは、船の前方を見た。

「・・・さて、そろそろお出ましか?」

 船の前方の海上で霧が凝り固まっていくのが見えた。

「・・・セイレーン・・・?」

 霧の中にぼんやりと浮かび始めたそのシルエットを見たリンがぽつりと呟いた。

 優雅な曲線を持つその大きな影は、海に浮かぶ岩に座るセイレーンのように見えた。

「・・・慈澪神じれいしんは、人魚なんだ・・・」

 緊張した声でリンに教えたミルアの言葉に、ユウヒが頷いた。

「男ばっかり狙って術に嵌められたのも、納得するね」

 並んで立つ四人の後ろで、ハルアと執事は蒼ざめてその展開を見た。

「な、何なんだよ・・・!?」

 なんとか声を絞り出したハルアに、コウキは振り向かずに答えた。

「てめぇんとこの守護神様だよ。ご乱心中のな」

 コウキの言葉に、ハルアはごくりとつばを飲み込んだ。

 ーーーー乱心中とは、言ってくれるではないか・・・。良い夢は見れたか?

「・・・生憎あいにくと俺は怖い夢だったよ」

 不敵に笑ったコウキの隣で、ユウヒもニッコリと笑う。

「僕も、本物にしか興味はないな」

 夢は所詮夢だと言い切ったユウヒの言葉に、ハルアはどきりとした。

 慈澪神は二人の言葉を聞き、鼻で笑ったようだった。

 ーーーー強がりを・・・。夢の中では楽しんだ者もいたはずだ。

 慈澪神の言葉にコウキは顔をしかめた。

「覗いてたのか?シュミ悪いな・・・」

 そのやりとりを聞いていたリンとミルアは眉を寄せる。

「・・・ねぇ、何の話?」

「聞くな」

 一言で切られた二人はムッとした。

 慈澪神はくすくすと笑った。

 ーーーー夢の中にいれば苦しまずに済んだものを・・・。

 その言葉に四人は緊張した。

 何か仕掛けてくるかと構えたその様子を、面白そうに見た慈澪神はその妖艶な唇を開く。

 ーーーー豊樹ほうじゅを追い詰めた者達がどのような者か、見たかっただけだ。なかなか威勢が良いな・・・。ここで殺すのは惜しい。城で待っているぞ・・・。

「ま、待ってくれ、慈澪神っ!」

「ミルアっ・・・!?」

 思わず前へ出たミルアに驚いて、ハルアはぎょっとした。

「慈澪神っ!私の父上と母上は!?」

 じっと見詰めてミルアの正体に気付いた慈澪神は、唇を引いてにぃっと笑った。

 ーーーー城で待つ。たどり着ければわかるであろう・・・。

「・・・待ってくれっ・・・!」

 ミルアの呼び掛けにも答えず、慈澪神は空気に溶けるようにすぅっと消えて行った。

 同時に霧も晴れ、青い空と海が広がった。

「・・・本体は、来てなかったかもな」

 コウキの硬い声を聞き、リンは難しい表情になる。

「精神体だけで、あれだけ力があるの・・・?」

 視界を奪うほどの霧と、人を夢の虜にする術のことではなく、二人が感じていたのは途方もない威圧感。

 ユウヒはゆっくりとハルアに振り向いた。

「・・・信じる気になったかな?」

 守護神を実際に見て気持ちが変わったかと問うユウヒの隣に並んで、ミルアもじっとハルアを見詰めた。

「ハルア・・・フォレスタで戦った豊樹神は、本当に強かった。きっと、慈澪神も・・・。でも、私は戦う!守護神たちに元に戻ってもらって、世界の争いを無くしたい!・・・手を貸してくれないか・・・?」

 いつの間にか、コウキとリンもハルアを見詰めていた。

 ハルアは、こぶしを強く握る。

「・・・バカの集まりか?あんなものを相手にするなんて・・・」

 そう言われても、ミルアは忍耐強く待った。

「・・・バカの集まりの中に、一人くらい僕みたいな冷静な者がいなければ、しょうがないだろうな」

「!」

 目を輝かせたミルアを、ハルアは真っ直ぐに見詰めた。

「・・・さっきの夢の中みたいに、本物のミルアに濃厚なむぐっ!」

 何か言い掛けたハルアの口を、慌てたコウキがふさいだ。

「このばかっまた殴られるぞ!俺までとばっちり食うだろがっ!」

 ハルアの見た夢が暴露されたら、コウキが見た夢も詮索されかねない。

 そんなことになったら、たまったものではない。

 不審そうな顔をするリンとミルアに愛想笑いをしたコウキとハルアは頷き合い、絶対に二人には話さないと同盟を結んだ。

「あはははは、なんだか仲良くなっちゃったねぇ」

 笑うユウヒの声を聞き流しながら、リンは眉を寄せた。

「・・・ねぇ?慈澪神は『城にたどり着ければ』って言ったわよね?それって、また何か罠を仕掛けてくるってこと?」

 リンの言葉に、コウキとユウヒは顔を見合わせる。

 あり得ないことではないと厳しい顔で頷き合う二人に、ミルアが控えめに手を挙げて発言の許可を求めた。

「・・・あ~、それもあるかもしれないけど、実はマール・モーリェ城に行くには最大の難関があるんだ」

『難関?』

 何か、海の潮の流れの関係で渦を巻いてるとか、そういう難所を通らなければならないのかと声を揃えたコウキ、リン、ユウヒの三人を、ミルアは気まずそうに上目遣いで見た。

 ハルアも、そばで気まずそうな顔している。

 三人に目で問われたミルアは、なんとか説明した。

 城へは海から続く流れに沿って真っ直ぐに行くのが最短距離だが、そこに問題がある。

 マール・モーリェ王、つまりミルアの父がまだ正気の頃、お茶目で造った侵入者防止用のトラップがいくつもあるのだ。

 だが、陸を通って行くとなると陸側には兵士も大勢配備されている。

 トラップがある流れは、トラップがあるがゆえにノーマークなのだと。

 その話を聞き、コウキたちは目を瞬いた。

 無用な戦いを避けるなら、兵士がいない所を行く方が良いに決まっている。

「・・・お茶目で造ったようなものなんだろ?」

 たいしたことではないのかとコウキに問いかけられ、ミルアとハルアは目を合わせられずによそを向いた。

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