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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
マール・モーリェの旅
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延長の延長

「・・・コウキ・・・」

「なんだお前っ邪魔するな!これは僕とミルアの問題だ!」

 ハルアの言葉に、コウキはがりがりと頭をかいて大きくため息をついた。

「あのなぁ、ミルアもその気があるなら邪魔なんかしねーよ。でも嫌がってんだろ?お前本当に自分の事しか考えてねーな?」

(ま、俺もひとの事言えねーけど)

 馬上でリンにビンタを食らった経験のあるコウキは、心の中で一人ツッコむ。

 だが幸い、その事実を知る者はこの場にはいない。

「本当にミルアが大事なら、もう少し大人になってから出直して来い。行くぞミルア」

 深く壁に突き刺さった剣を引っこ抜き、コウキはミルアを促して船室に向かう。

「・・・そ、そうだコウキっ!リンが倒れたんだっ!」

「はぁ?またかよ。ったく手のかかる奴だなぁ」

 やいやい言いながら歩いていく二人の後ろ姿を、ハルアは悔しげに見送った。

 リンの寝かせられている部屋へ入ったコウキは、中にいたユウヒに向かってミルアの背中をぽんと押した。

「ユウヒ、こいつ預かっててくれ。油断ならねぇくそガキがいるから、俺が水取ってくる」

 その言い様にユウヒはぱちりと目を瞬く。

「おやおや。何かやらかしたのかい?ヤキが足りないようだね」

 コウキと同じようなことを言ったユウヒに、ミルアは苦笑した。

(なんか、似てきた・・・?)

 ウマが合いすぎて性格まで似てきたのだろうかと心配するミルアを置いて、コウキが再びキッチンへ引き返すと先程の場所にまだハルアが立っていた。

「・・・水もらうぞ」

 そう言って前を通り過ぎようとしたコウキをにらみながら、ハルアは怒鳴った。

「僕はミルアが生まれた時から一緒にいるんだっ!!お前らなんかより・・・お前なんかよりミルアのことよくわかってるのは僕だっ!!」

 怒鳴られたコウキは、あきれた顔でため息をついた。

「・・・お前なぁ、んな事関係ねぇだろ?最初にリンも言ってただろが。ミルアがどんな思いかを考えろって」

 ミルアを抱きしめてかばい、自分をにらんで怒ったリンを思い出しハルアは忌々しげに息を吐き捨てた。

「・・・ああ、お前らも変だもんな。あんな、月から来たなんていう気持ち悪い女と一緒にいるんだから。そもそも、女かどうかも知れたものじゃ・・・」

 バギっ!

「・・・っ!」

 顔のすぐ脇を通ったコウキのこぶしが壁を突き破り、ハルアは息を飲んだ。

「・・・てめえ、調子に乗んのもいい加減にしとけよ?俺はユウヒ程優しくねぇんだよ」

 低い声で言われ、ハルアは言葉に詰まる。

 ニコニコ笑いながら痛い目に遭わされたユウヒは、心底恐ろしかった。

 そのユウヒを優しいというコウキが本気を出したらどれほど恐ろしいのかは知りたくもない。

 黙り込んだハルアに、壁から腕を引き抜いたコウキはため息をつく。

「勢いがあんのはいいけど、身の程を知れよ。今のお前じゃミルアに釣り合わねぇ」

 ミルアの名を出されて悔しそうに唇をかんだハルアに、コウキはニッと笑った。

「ま、護衛の俺を倒せるくらいなら大したもんだな♪無理だろうけど♪」

 その言葉に悔しくて真っ赤になったハルアを面白そうに見てから、コウキはリンの為にキッチンから水をもらった。

「・・・あ、そうそう。船は対岸に着くまで風に押してもらうことになってるから。ゆっくり休んどけよ」

 まるで自分の船でもあるかのように言い残し、コウキは部屋に戻っていった。

「お。起きたか?ほら、水」

「・・・ありがとう」

 まだぐったりとしているものの、起き上がっていたリンに水のコップを渡したコウキに、ミルアは遠慮がちに声をかけた。

「・・・コウキ・・・ハルアは、いたか?」

 なんだかんだで心配している様子のミルアに、コウキは優しい笑みを見せた。

「ああ、なんかまた突っかかってきたけど、心配いらねぇよ。俺やリンにお前がなついてるからヤキモチ妬いてるだけだ。放っとけ放っとけ」

 軽くコウキに言われてしまったミルアは、助けを求めるようにリンとユウヒを見た。

 ユウヒもニッコリと笑う。

「そうだね。少し放っといた方がいいんじゃないかな?少年は負けを知って成長するものだ」

「・・・ユウヒ様も負けたことがあるんですか?」

 そつなく何でもこなし、笑顔のまま抜かりなく動くイメージのあるユウヒでも、悔しい思いをしたことがあるのだろうかと問いかけたリンに、ユウヒは極上の笑顔を向けた。

「もちろんだよ。婚約者ユリカにはいつも負けっぱなしさ♪」

「そっちかよ・・・」

 ユウヒの敗北話をぜひ聞きたいと思っていたコウキは、結局のろけかと脱力した。

「・・・ユウヒは、ユリカ姫と好き同士で婚約したんだよな・・・」

 フォレスタ城を出てくる時の別れのシーンを思い出してぼそりと言ったミルアに、ユウヒは頷く。

「そうだよ。婚約を決めた直後に大戦が始まっちゃったけどね」

 その為正式な結婚はまだだが、実質すでに王城で生活を共にしている。

 ミルアはため息をついた。

「私は、生まれた時から決まってた・・・」

 身内としての親愛以上のものは無いのに、いつか夫婦にならなければならないことは半分諦めと共に受け入れていた。

 コウキに出会うまでは。

 ミルアの切ない様子に、リンは唇にきゅっと力を入れた。

「でも、ミルア。まだ結婚したわけじゃないし・・・」

「・・・うん・・・」

 婚約解消の道もあるのではないかと慰めてくれるリンに、ミルアはそっと頷いた。

 その二人の様子に、コウキはニヤリと笑う。

「ま、ミルアに近づきたきゃ俺を倒してみろって言ってきたから、しばらくは大丈夫だろ♪」

「・・・え!?そんな事言ったのかっ!?」

 驚くミルアにコウキは笑顔を向ける。

「護衛だからな。雇い主が嫌がることは阻止するのも仕事のうちだろ?」

「じゃあ、二人のことが決着つくまで、また契約延長かい?」

 ハルアからミルアを守るということは、そういうことになるとユウヒに突っ込まれ、コウキは笑顔のまま固まった。

 なんだかんだとミルアと一緒にいる期間を延ばすことになったコウキをそっと見詰めてから、リンはミルアにこっそりと耳打ちした。

「・・・良かったわね」

 その声に含まれる微妙なニュアンスに、ミルアは慌てた。

「違っ・・・きっとそういう意味じゃないぞ!?」

 コウキのことだから深く考えてなどいないのに、何か誤解をしているリンに、ミルアは必死になった。

 コウキへの想いはあるものの、ミルアはコウキとリンが一緒にいる姿が好きなのだ。

「だいたい・・・コウキはリンが好きなんだろうっ!?」

 突然大声で叫んだミルアの言葉に、全員が驚いた。

 一番に反応を表したのは、やはりコウキだった。

「何言ってんだお前っ!!」

 脈絡もなく突然にいったい何を口走っているのかと怒鳴るコウキに対し、リンは冷静だった。

「そうよミルア。そんなことあるわけないじゃない。・・・それに私、青き月(こきょう)に婚約者がいるもの!」



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