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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
マール・モーリェの旅
53/119

出港

 猫の子のように襟首を掴まれて引きずられていくミルアは抵抗した。

「こらっコウキ!だめだ戻れっ!」

「はぁ?」

 変な顔をするコウキに、ミルアは必死に訴えた。

「すぐリンの所に戻れっ!リン、変なんだ!」

「そんなんいつもだろ。ほら、着いたぞ」

 とりつく島もなく先程の部屋まで連れて来られたミルアは、中を見て呆気にとられた。

 優雅に椅子に腰かけたユウヒは足を組んで微笑み、対するハルアはユウヒの前の床に正座していた。

「・・・な、何かしたのか・・・?」

 戸口から聞こえたミルアの声に、ユウヒは顔を向けた。

「やぁ、おかえり。いや、男同士でじっくり話し合ってみたら、なかなか物わかりのいい少年だったよ。この船も気持ちよく提供してくれるってさ。ねぇ、ハルア君?」

「は、はいっ!」

 先程とか180°違うハルアの態度の変わりようを見て、ミルアは虚ろに笑った。

 ハルアの怯えようから見るに、何かあったことは絶対に間違いない。

(・・・二人掛かりで、ヤキ入れたな)

 虚ろな笑みを浮かべながら、ミルアは結論に達した。

 ハルアの目に余る言動に、コウキもユウヒも頭にきていたのは確かだ。

 ここで根性を叩き直してもらうのも、悪くはない。

「・・・ありがとう、ハルア」

 近付いて礼を言われたハルアはミルアと目を合わせずそっぽを向いた。

「協力するつもりはない。僕はただ、ミルアを城につれて帰るだけだ」

 どしっ

 おもむろに足を組み替えたユウヒの足が、ハルアの頭に乗せられた。

「だめだなぁ、ハルア君。人間素直が一番だよ?」

 口元だけ笑みを浮かべて優しい声を出したユウヒに、ハルアはだらだらと汗をかいた。

「・・・喜んで、協力させて頂きます・・・」

 小さかったが、ちゃんと聞こえたハルアの声にユウヒは満足げに微笑んだ。

「・・・・何してるの?」

 船室に戻ってきたリンは、その光景を見て首を傾げた。

 険悪ではないが和気あいあいでもないその雰囲気は、なんとも言えないぎこちなさで溢れていたからだ。

「男同士で腹を割って話してただけさ」

 ニッコリ笑ったユウヒの様子をしばし見て、リンもミルアと同じように虚ろな笑みを浮かべた。

 具体的なことはわからないが、何かしたのだろう事はわかった。

「・・・あら?あなた、唇が切れてるじゃない・・・っ」

 ハルアの唇の端からわずかに血が出ているのを見つけたリンは、思わず近付いて手を伸ばした。

「・・・さわるなっ!!」

 反射的に手を振り払われ、リンはびくりとして目を見開いた。

 その途端に、コウキとユウヒからわざとらしい咳払いが飛んでくる。

 その音にびくんとなったハルアは蒼白な顔でおとなしくなった。

「・・・ごめんなさい。すぐ済むから・・・」

 そっと手を伸ばしたリンは、ハルアの顔に手をかざした。

「『治癒』」

 リンの言霊に反応して、薄青の柔らかな光がハルアを包んだ。

「!」

 その温かで柔らかみのある感覚にハルアは目を見開く。

 唇の傷も、実は衣服に隠れて見えない腹部や背中、肩にあった痛みも引いていくのがわかった。

「・・・こんなにあちこち。この人たちにやられたんでしょう?ごめんなさいね」

 素知らぬ顔をしているコウキとユウヒをにらんでから謝ったリンを、ハルアは呆然と見詰めた。

「こんな奴に余計な力使ってやることなかったんだ」

 冷たい目をしているコウキを、リンは視線で責めた。

「でもこんなに痛いの、かわいそうでしょ?」

「全然」

「・・・とにかく、やり過ぎなダメです。ユウヒ様も」

 すねたようにリンににらまれたユウヒは苦笑する。

「ちょっと丁寧に撫でただけだよ。ねぇ、コウキ?」

「そうだな。撫でてやっただけだ」

 息ぴったりに頷き合う二人に、リンはため息をついた。

 これでは、剣を抜かなくても関係にひびが入ってしまう。

 そんなやりとりの間に、ミルアはハルアにそっと言葉をかけた。

「・・・どうだ?リンの力は温かいだろう?」

「・・・・」

「リンは、温かいんだ」

 穏やかな声で話すミルアに、ハルアは顔を向けた。

「リンは、確かに異邦人かもしれない。でも、そんな彼女が地上の為に力を尽くしてくれてるんだ。本当は、争いのない月に帰ってもいいのに、危険を承知で残ってくれた。・・・私たちを、信じてくれてるんだ。私も、リンを信じてる」

 話すうちにほんわりと笑顔になったミルアを、ハルアはじっと見た。

「・・・あの、護衛もか?」

「え・・・?」

 コウキのことを聞かれ、ミルアは一瞬戸惑った。

「・・・コウキは、まだよくわからないけど。でも、いい奴だ。口悪いし態度もでかいけど、困ってる人を放っとけないんだ。私も、助けてもらった。何度も」

 はにかんだように話すミルアの声を、ハルアはムッとした顔で聞いていた。


 まだ暗い未明。

 ハルアの船の帆が張られた。

「行くぞ。全員掴まってろよ」

 兵士たちに見つけられる前にと、コウキは船尾に立ち帆に向けて手をかざした。

「ミルア、お手本だ。よく見てろよ」

 そう言ったコウキは、一息で呪文を唱えた。

「我が身我が魂に集いし風の精霊 我が手を依代にその力を現せ!」

 全員に緊張が走った、その瞬間。

「・・・きゃあああああっ!」

「うわあぁぁぁっ!」

 ビュオオオオと音を立てた風が、コウキの手から船の帆に向かって鋭い威力を持って吹き付けた。

 すなわち。

 がくんと揺れたと思った瞬間、船はあり得ないスピードで沖へ走り出した。

 それぞれ船の一部に掴まっていた者たちは、吹き飛ばされそうな体を必死で支えていた。

「・・・ん?」

 船尾で風を出し続けていたコウキは、遠くなった港で警笛がなったことに気付いた。

 急いで軍船が動き出し、大砲が向けられた。

 予想通りと頷いた時、ドンっと音がした為コウキは甲板にいるリンに呼び掛ける。

「お~い、リン。防御~」

「ぼ、『防御』~~~~~っ!」

 微かに聞こえたコウキの指示に、リンは悲鳴のように言霊を叫んだ。

 船の後方を覆うように張られたリンの防御膜は、集中力が低い為かいつもより張りがなく、まるで布のようにびよよんと大砲の弾を受け止めた。

「・・・わかめみたいだなぁ」

 感想を述べたコウキが見る前で、弾みをつけた弾がゆるい防御膜に跳ね返され、軍船の方へ帰って行った。

 だが、その時にはもう港が見えない程、一行の船は進んでいた。

 普通に船で入江を横断すれば二日はかかる行程を、魔法を使ってスピードアップすることで半日で済ます計画だった。

 だが、それがいったいどのようなことになるのだろうと好奇心で甲板に出ていたことを、リン達は激しく後悔した。

「・・・息っ・・・息できなっ・・・」

「リ、リンっ・・・だめだっ・・・気絶したら、死ぬぞっ・・・!」

「強烈だねぇ・・・」

「な、なんで僕までこんな目にっ・・・!」

「ハ、ハルア様・・・っ!お助けを~っ!」

「・・・お前ら、うるせぇから中に入ってろよ・・・」

 なんとか船室に入ったリンは、そのまま目を回して倒れた。

 コウキはまだ手が離せない為、ユウヒと二人でリンを備え付けのソファーに寝かせたミルアは、濡れたタオルをリンの額に乗せてやろうと船内のキッチンへ向かった。

 ものすごいスピードで移動しているにもかかわらず、船内はほとんど揺れもなく快適だった。

 キッチンへ急ぐ廊下で、ミルアはふと足を止めた。

 前方に、ハルアが壁に寄りかかるようにして立っていたからだ。

「・・・ハルア」

 怖い顔で立っているハルアを、ミルアはじっと見詰めた。

 生まれた時から一緒に育ち、ミルアにとっては兄妹のような存在。

 フォレスタを目指して城を出た時も、国のことはハルアに任せたつもりだった。

 婚約者とは思えないが、大切な存在には変わりない。

「・・・あの女、気絶したのか?」

「・・・ああ、だから水をもらおうと思って・・・」

 目を反らしてハルアの前を通ろうとしたミルアは、突然腕を掴まれて強く抱きしめられて目を見開いた。

「ミルア!どうしてわかってくれないんだ!?僕は君を守りたいだけなのに!」

 強引にあごを掴まれて上を向かせられたミルアは驚いて必死に抵抗した。

「ハルアっ!?やめっ・・・!」

「どうしてだよ!?婚約者だろ!?」

「違っ・・・!私はっ・・・」

 ダンっ!

 間近にまで迫っていた二人の顔色の間を通り、突然大きな剣が壁に突き刺さってミルアとハルアは動きを止めて固まった。

「・・・おいおい、まだヤキ入れ足りねぇか?」

 甲板から船内に降りてきたコウキが、剣を投げた格好のまま冷たい瞳で見下ろしていた。

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