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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
マール・モーリェの旅
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想い

「・・・無駄だよ」

 キィンっ!

 金属を弾く音が室内に響いた。

「・・・優秀な護衛がついてるからね」

 変わらず微笑んでいるユウヒの前に、剣を抜いたコウキが立っていた。

「・・・俺はお前とは契約結んだ覚えはねーけどな」

 そんなセリフに、ユウヒはくすくすと笑う。

「じゃなんで出て来てくれたんだい?」

 全てわかっているようなユウヒの声に、コウキはムッとして目を細めながら剣を収めた。

「・・・お前が剣を抜けば、ややこしくなるだろ」

 仮にも敵国の王族同士が間近でやり合い、どちらかがケガでもしたら、これから戦争を無くそうとしているのに国の関係性にこれ以上ひびが入ることになる。

 それはできるだけ避けたいところだった。

「わかってるねぇ♪」

 ユウヒのお気楽な声に、リンとミルアはホッとする。

 あっさりと短剣を弾き飛ばされたハルアは、悔しげに目の前のコウキを見上げた。

「なんだお前は!?」

 にらむ年下の少年に、コウキはふんと鼻を鳴らして冷たく見下ろした。

「俺はミルアの護衛兼師匠だ」

「なんだとっ・・・!?」

「やめろハルアっ!彼らは私の仲間なんだっ!!」

 コウキとハルアの間に割って入ったミルアを、ハルアは信じられないという目で見た。

「仲間!?いったい何の仲間だって言うんだ!?」

 ミルアはきゅっと唇を引き締め、ハルアを真っ直ぐに見た。

「・・・この大戦を止めるための」

「!?」

 ミルアの口から出たとんでもない言葉に、ハルアは言葉もなく立ち尽くした。

 異様なものでも見るような目で自分を見ているハルアに、ミルアはため息をついた。

「・・・とにかく、全部話すから」

 リンの照らす明かりの中で、ミルアから今までの旅の話を聞いたハルアは呆然としていた。

「・・・ばかな・・・。守護神・・・!?月の民・・・!?」

 その当然の反応に、ミルアはハルアを静かに見た。

 しかし、ハルアはハッと気付いたようにミルアの肩を強く掴んだ。

「ミルア!!目を覚ませ!!そんな話あるわけないっ!!騙されてるんだ!!」

 肩を掴んだままミルアの体を揺さぶるハルアに、リンは眉を怒らせた。

「乱暴はやめて!!」

 無理やりミルアの前に体をねじ込んでその体を抱きしめてかばったリンに、ハルアはカッとした。

「・・・本当に月の民だとしたら、お前なんか人間じゃないっ!!どけろっ!!」

「・・・っ!」

 力尽くでミルアから引き剥がそうと、リンに向かって振り上げたハルアの手を見て、ミルアは泣きそうな顔で息を飲んだ。

「・・・いい加減にしとけよ。このくそガキ」

 リンに降り下ろされる前にその腕を掴み止めたコウキににらまれ、ハルアは悔しげに唇を噛み締めた。

 腕を組んだユウヒも、ゆっくりとハルアに近付いた。

「幼稚な言動は慎んだらどうだい?例え本当に幼稚なんだとしてもさ」

 口元は笑っているが、目は全く笑っていないユウヒの迫力に押され、ハルアはギリリと歯を鳴らした。

「・・・ハルア、信じてくれないのか・・・?」

 心細い声で悲しそうに言ったミルアにハッとして、ハルアはそちらに顔を向けた。

「・・・ミルア・・・」

 涙をいっぱいに溜めたその目を見て、少し冷静になったハルアがミルアに手を伸ばした。

「・・・もういいっ!!」

 伸ばされた手を振り払い、ミルアは部屋を飛び出した。

「待ってミルアっ・・・!」

 すぐに後を追ったリンの行動に我に返り、自分もミルアの後を追おうとしたハルアの前に、コウキとユウヒが立ちはだかる。

「・・・さて、男同士、ゆっくり話そうか?」

 ユウヒの穏やかな声に、ハルアは顔をひきつらせた。


 ミルアの後を追ったリンは、甲板の暗がりに座り込んでいるミルアを見つけた。

「ミルア・・・」

 膝を抱えてうずくまっていたミルアは、リンに名を呼ばれてぴくりと反応した。

「・・・ごめん、リン。私の従兄が、リンに酷いことを・・・」

 ミルアは血を分けた自分の従兄が、リンを差別する言葉を使ったことにショックを受けていた。

 顔を上げないミルアの隣に、リンは体をくっつけてぴたりと座る。

「仕方ないわよ。普通の人なら、きっとそう思うのよ」

 ミルアと同じように膝を抱えて座り、夜空を見上げて微笑むリンに、ミルアは涙目を向けた。

「そんなことないっ!月の民だって地上の民だって、同じ人間だ!!」

 言い切ってくれたミルアに、リンはふわりと微笑んだ。

「・・・ありがとう。私も、知ってるから」

 ミルアはリンの腕に顔を押し付けて泣いた。

「・・・ねぇミルア。もう一度、ちゃんと話してみたら?」

 しばらくそっとしてから、リンの言った言葉にミルアはハッとした。

「ミルアの従兄だもの。きっとわかってくれるわよ。それに、婚約者って・・・」

「あ、あれはっ・・・!親たちが勝手に決めただけでっ!私はっ・・・!」

「うん」

 何かを言いかけたミルアの先を促すようにニコニコと頷いたリンに、ミルアは言葉を詰まらせた。

「・・・私はっ・・・!」

 そのまま言葉の出ないミルアに、リンはニッコリと微笑む。

「わかるわよ。あの子のことは従兄としては好きだけど、ミルアの想いは、別のところにあるのよね・・・?」

 リンにそう言われ、ミルアはぎゅっとこぶしを握った。

 リンは微笑んだまま、続けた。

「・・・きっとね、コウキもミルアのこと、大事に思ってるわよ」

「・・・リン・・・?」

 何を言ってるのかと眉を寄せたミルアがリンを見つめた時、船室への扉が開いた。

「・・・落ち着いたか?お前の従兄が、この船貸してくれるってよ」

 上機嫌な顔で出てきたコウキの登場に、ミルアはびくりと震えた。

「落ち着いたわよ。・・・ほら、ミルア」

 ミルアの腕を引いて立たせたリンの口調は、いつもと変わらなかった。

「リン・・・」

「ちゃんと話してきて。・・・私はもう少し月を見てから行くから」

 ミルアの言葉を遮って言ったリンの言葉に、コウキは目を瞬いたがすぐに頷いた。

「そうか。言っとくけど、すぐそばに軍隊の船があるんだからな。早く入って来いよ?」

「ちょっ・・・リンっ・・・」

「わかってるわよ。ほら、早く行って」

「行くぞミルア!」

「ま、待てコウキっ・・・」

 文字通りミルアを引きずるように船内に入って行ったコウキを笑顔で見送り、リンは再び夜空を見上げた。

 大きくついたため息は、震えていた。



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