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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
マール・モーリェの旅
51/119

侵入

「・・・いいか!一番小さい船だからなっ!」

 コウキの指示に、三人はこくりと頷いた。

 真夜中を待ち、兵士達に見つからないようこっそりと港に近付いた四人は、並んでいる船を品定めしながら移動する。

「なんだかワクワクするねぇ♪スパイみたいだ」

「・・・のんきだな、ユウヒ」

 うきうきしながら言ったユウヒの言葉にぐったりとする苦労性のコウキに、リンは苦笑した。

「なんか、どれも同じ船だな」

 むぅと唸るミルアの頭にぽんと手を乗せながら、コウキは船を見比べる。

「まぁ、軍の船だからな。でも手頃なのが一艘くらい・・・」

「あれは?」

 ユウヒが示したのは港の端の方。

 たいまつが焚かれている中心部の明かりが、わずかに届いている場所に停められている船。

 目を細めてその船を見たコウキは頷いた。

「よし、行くぞ」

 兵士達を迂回して回り込み、隙をついて船に近付く。

 軍の船ではないのか、おしゃれな造りのその船には見張りも乗組員の姿も見えなかった。

 帆も今はたたまれている。

「じゃあ行くぞ。中にいる奴は即眠ってもらう。いいな?」

「ああ・・・!」

「わかったわ」

「ワクワクするねぇ♪」

 緊張気味の女性陣二人とのんきなユウヒに不安げなため息をついてから、コウキは行動を開始した。

 船に跳び移り、まずは甲板には誰もいないことを確かめたコウキは、残る三人に合図を送る。

 コウキからの合図を受け、ミルアとユウヒは同じように身軽に船に跳び移る。

 上手に船に降り立った二人を確認し、もう一人と岸を振り返ったコウキはぎょっとした。

 リンも二人と同じように跳び移ろうとしていたからだ。

「ばっ・・・待てっ・・・!」

 止める間もなくジャンプしたリンは、案の定船まで届かずにその足は空を踏んだ。

「きゃ・・・!」

「・・・っ!」

 海に落ちかけた手をなんとか捕まえたコウキは、ホッと息を吐いてから小声で怒鳴った。

「このばかっ!こういう時こそ言霊使えっ!」

「・・・・『浮遊』・・・」

 怒られて、ふわりと浮いて船に降り立ったリンにコウキはお説教モードに入る。

「自分の出来ること考えろっ!ミルアとユウヒと同じことが出来るとでも思ったのかっ?自覚しろ自覚っ!手間かけさせんなっ!」

「・・・すみません」

 反論の余地のないリンは、ムッとしながらも謝った。

「ごめんリン。気付かなくてっ・・・」

 もっと気を付けてやれば良かったと言うミルアにリンは恥ずかしそうに首を振った。

 ユウヒはニッコリと微笑む。

「うん。まぁ、お説教はその位にして、そろそろその手、離したら?」

 ちゃんと船に足を着けたにもかかわらず、まだしっかりと握ったままだったことを言われ、自覚の無かったコウキとリンはハッとした。

「・・・さて、んじゃ船室に入るぞ」

 気を取り直して何事もなかったように内部に侵入するコウキに三人も続いた。

 暗い内部を静かに進むうちに、ミルアは首を傾げた。

「・・・あれ?この船って・・・」

「しっ!」

 小さく呟いたミルアの声をコウキが鋭く止めた。

 すぐ前の船室の扉にコウキはそっと手をかけ、静かにドアノブを回した。

「!」

 中にいた人物が声を立てる間もなく、コウキが当て身をくらわせて気絶させ、一行は急いで部屋の中へ入る。

 部屋の中にはその人物一人しかいなかったようで、しんと静まり返っていた。

 ずるりと床に横たえられたのは、まだ少年とも言える年若い身なりのいい男だった。

「・・・ちょっとだけ、明かりをくれないか?」

 固い声でミルアに願われ、リンは手のひらに光を喚んだ。

「・・・やっぱりっ・・・!」

 ほんのりとした明かりの中で見えた気絶している者に、ミルアは息を飲んだ。

「知り合いかい?」

 ここはミルアの国だ。

 どこに顔見知りがいてもおかしくはない。

 問い掛けたユウヒと、コウキ、リンをそれぞれ見てからミルアは口を開いた。

「・・・私の、従兄いとこだ」

「えっ・・・!?じゃあ王族っ・・・!?」

 驚いたリンは思わず声を上げた。

 その声が聞こえたのか、バタバタとした足音が近付いてくる。

 舌打ちしたコウキがドアの前に立ったが、ミルアはその腕を押さえて自分が前に出た。

「・・・ハルア様っ!!」

 バタンと勢いよくドアを開けて入ってきたのは、これまた良い身なりをした初老の男だった。

「何者っ・・・!?」

 複数の人影を見つけ驚く男の前にずいっとミルアが出た。

 それに合わせて、リンが明かりを強める。

「!?・・・ミルア姫っ!?」

「じい・・・やっぱり・・・」

 ミルアを認識した男は驚きのあまり目を丸くして口をパクパクさせた。

「・・・な、なぜ・・・ミルア姫・・・いったい・・・」

 まともに言葉も出ない程驚いている男に、ミルアはため息をついた。

「私のことより・・・どうしてハルアはこんな所にいるんだ。戦争に出るわけでもなさそうだし・・・」

 戦争に出るにはあまりに小さな船と、装備も何もない服装。

 どう見ても、戦いに行く様子ではない。

 混乱しながらも初老の男は口を開いた。

「・・・ハルア様は、あなたを捜す為に船を出されたのです・・・」

「・・・!」

 男の言葉にミルアは絶句した。

 ぎゅっと手を握りしめたミルアはコウキに振り返る。

「コウキ、ハルアを起こせるか?」

 まだ横にのびたままのハルアを見たコウキは少し考えて答える。

「・・・まぁ、このままならもうしばらくは起きねぇだろうけど、冷たい水でもぶっかければ起きるんじゃないか?」

 コウキに視線を向けられたリンはビクッとする。

「えっ!?私がするの!?」

 王族の人に対して失礼ではないかとためらうリンをコウキはジト目でにらむ。

「俺にはやっただろうが」

「それは・・・」

 あれとこれでは、相手も状況も違う。

「リン、頼む。早くハルアと話したいんだ」

「・・・ミルア・・・」

 ミルアの真剣な瞳に、結局リンは負けた。

 おそるおそるハルアのそばに立ったリンは言霊を口にした。

「『冷水』」

「・・・ぶわっ!?冷たいっ・・・!!」

 すっかり気絶していたところへコップ一杯程の氷のように冷たい水を顔面に浴びせられたミルアの従兄、ハルアは驚いて飛び起きた。

 何事が起きたのかと周りを見渡したその視界に、遠慮がちに佇むミルアが映った。

「・・・ミルアっ!?」

「きゃっ・・・」

 勢いよく飛び起きたハルアに突き飛ばされ後ろに転びそうになったリンの肩を支えたコウキの目の前で、ハルアはミルアに抱きついた。

「ミルアっ!酷いじゃないかっ!勝手にいなくなるなんて!!」

「ハルア・・・」

 ミルアは困った顔で、抱き締められるままになっていた。

 動かないミルアの髪を撫でながら、ハルアは更にまくし立てる。

「君が消えて僕がどんな気持ちでいたかっ!!無茶はしないでくれっ!!君はおとなしく城の中にいればそれでいいんだよ!!」

 その言い方にカチンときたリンは思わず前に出ていた。

「なにそれ!?あなた、ミルアがどんな思いでお城を出たか、考えたことあるの!?」

 一人ではるばる敵国へ危険を冒して旅をし、世界のために立ち上がったミルアに対してあまりの言葉に我慢できず、声を荒らげたリンにハルアは振り向いた。

「・・・なんだお前は?僕はミルアの婚約者だ。他人にとやかく言われる筋合いは無い!」

「ハルア・・・!」

 ハルアの言葉をミルアが慌てて制したが、その言葉は三人の耳にハッキリと聞こえていた。

「こ、婚約者・・・?」

 従兄と言っていたのにと驚くリンに、ミルアは目を伏せて小さな声で言った。

「両親の意向だ」

 ぼそりと呟かれた言葉に、ユウヒはうんうんと頷く。

「あ~・・・あるよね、親族婚。血を薄めない為にとか言ってさ。バカらしくて古い考えだ」

 ニコニコしながら言い放ったユウヒをムッとしてにらんだハルアは、その顔を見てハッとした。

「お前・・・!まさか緑の国(フォレスタ)の・・・!?」

「あれ?よく僕の顔知ってたねぇ?エライエライ」

「貴様っ・・・!敵国の者がっ・・・!」

 子供扱いされバカにされたと感じたハルアは屈辱で顔を赤くし、ミルアを離して短剣を抜きユウヒに向かって突進した。

「やめろハルアっ!」

「ユウヒ様・・・!」

 ミルアとリンが悲鳴に近い声を上げたが、ユウヒは動じずにニッコリと笑った。

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