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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
マール・モーリェの旅
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海の国

「・・・海の香りがするっ!」

「・・・この、生臭いみたいな香り?」

 海の国マール・モーリェに入って三日目の朝。

 出発して少しした頃、ミルアは歓声を上げた。

 つられて鼻を動かしたリンに、ミルアは頷く。

「ああ。潮の香りだ。月に海は無いのか?」

「ええ。大きな湖はあるけど、こういう香りはしなかったわ」

 リンの言葉にミルアはニコっと笑った。

「なら、海を見るの初めてだな!」

 ミルアに微笑み返したリンは、フォレスタの砦で見せてもらった世界地図を思い出す。

「海の国って、最初は海の中にあるんだと思ったわ」

 初めてリンが世界地図を見たときのことを思い出してミルアはくすくす笑った。

「大きな三日月形の入り江が国の真ん中を通ってるんだ。国土のほとんどがその入り江の海に面してるから、海の国」

 改めて説明してくれるミルアに、リンはうんうんと頷く。

「本当にくっきりきれいな三日月形だものね~」

 その三日月の円の内側、大陸側から見れば対岸の中心部に王城があるのだとミルアに教えてもらった。

「ああ、本当にバナナそっくりの形だよな~」

「バナナ言うなっ!」

 突然会話に入ってきて入り江の形を茶化すコウキにミルアは怒鳴った。

 地図を見せてリンに説明した時から、何度も入り江をバナナと言われてその度に怒っているミルアに、コウキは笑いながらその頭に手を置いた。

「ほら、せっかく海が近くなってきたんだから、精霊に呼び掛けてみろよ」

 あっさり話題を変えられムッとしたミルアだったが、魔法習得のためにもコウキの提案に従った。

 少し離れたところでコウキのサポートを受けながら意識を集中する様子を見て、ユウヒはニコニコと笑う。

「いい先生ぶりじゃないか。ミルアも頑張ってるね」

 ついでに少し休憩を取ろうと、皆のカップを用意しながらリンは微笑んだ。

「はい。真っ直ぐなミルアですから、精霊にも好かれやすいってコウキも言ってましたよ」

「ふ~ん。なるほどね」

 二人が見守る先で、ミルアは両手を広げて精霊に祈りを捧げていた。

(お願いだ・・・!私は、こんな荒れた世界を変えたい!少しでも仲間の力になれるようになりたい!力を貸してくれ・・・!)

「・・・我が身我が魂に集いし水の精霊 我が呼び掛けに応えその姿を現せ!」

「・・・・」

 コウキの教え通り、願いを込めながら一息に呪文を唱えたミルアだったが、手応えは無かった。

 そのまましばらく待ってみてもなんの反応もなく、ミルアは落ち込んだ顔で長いため息をついた。

「・・・精霊は集まってきてるんだけどなぁ・・・」

 少し位反応があっても良いのにと、コウキは顎に手を当てる。

「・・・集まってるのか・・・?」

 暗い声で疑わしそうに聞くミルアにコウキは苦笑する。

「興味ありまくりって感じで来てるぞ。お前、素質あるって」

 そう言われてミルアはなお落ち込む。

「・・・なら、なんで姿を見せてくれないんだ・・・」

 条件は揃っているのにこれだけ成果が無い方が逆に不思議なコウキは、う~んと唸る。

「お前、なんか怖がってないか?」

「えっ!?」

 全く思ってもないことを言われたミルアは驚いて顔を上げた。

 コウキは難しい顔をしている。

「精霊は協力的だ。お前に好意を持ってる。とすれば、あとはお前の問題だと思うんだよなぁ」

「・・・・」

 思い詰めた顔で動かなくなってしまったミルアの様子に、これはあまり調子が良くないようだと察したユウヒがカップを持った手を挙げて二人に声をかけた。

「ミルア、コウキ。少し休んだらまた進もうか」

 ゆっくりできる旅ではないことは全員が自覚している。

 コウキはミルアの頭にぽんと手を乗せ、リンとユウヒの所へ行こうと促した。

「ま、焦っても仕方ないさ。あとはきっかけ一つだ」

 充分に魔法を使う要素は持っているのだから、心配することはないと慰めてくれたコウキの言葉に、ミルアはぎこちなく頷いた。

 言霊で飲み頃に準備したミルアの好みのお茶をリンに手渡され、ミルアはホッと息を吐いた。

 少し疲れた様子のミルアにリンは微笑む。

「ミルア、大丈夫よ。すぐ出来るようになるわ。素質あるって言われたんでしょ?」

「・・・うん。精霊も集まってきてはいるって・・・」

 ミルアの言葉にリンは目を輝かせた。

「すごいじゃないっ!やっぱりミルアは精霊に好かれてるのね!」

「・・・でも、まだ姿も見れないんだ・・・」

 しょぼんとうつ向いたミルアの手を、リンはカップごと握った。

「ミルア!言葉には力があるんだから、弱気なこと言っちゃだめよ!大丈夫!絶対出来るようになるから!」

「リン・・・」

 心から励ましてくれるリンに、カップを脇に置いたミルアは甘えるようにぎゅっと抱きついた。

 その体を、リンも優しく抱き締める。

 ミルアはそっと目をつぶった。

(あ~。やっぱりリンは落ち着くなぁ・・・。大好きだ・・・)

「俺が教えてるんだから出来るに決まってるだろ?それより俺のお茶は?」

「そこにあるから、飲んだら?」

 せっかくミルアを励ましているのに偉そうに言ったコウキの言葉に、リンはムッとした。

 冷たく言われたコウキは、ミルアとの扱いの差にこちらもムッとする。

 その様子を、ユウヒは心底楽しそうに眺めていた。

「なんだかすっかり熟年夫婦みたいな会話だねぇ」

 娘の教育には熱心な妻が、夫の扱いには雑な家庭の一場面のようだと言われ、コウキは思いっきりむせたのだった。

 幸いにもユウヒの言葉はリンとミルアには聞こえておらず、一行は王城を目指して進んだ。

「・・・やっぱりモンスターも海っぽくなるなぁ」

 モンスターの群を倒した後のコウキのセリフに、リンは首を傾げた。

「モンスターって、人の負の思念から生まれたものでしょ?そういうものでも、住み着く場所を選んだりしてるのかしら?なんか不思議・・・」

「確かに、海が好きとか寒いのが嫌いとか、そう感じる機能があるのか不思議だね」

 リンとユウヒが首を傾げている隣で、ミルアは声を上げた。

「・・・あっ!!」

 ミルアが指差す方向を見た三人も、目を見張った。

「・・・海が見えたっ!!」

「・・・見えた、けど・・・」

「軍隊がいるじゃねぇかっ!」

 四人は岩の陰からそっと海の方を窺った。

「ここは大陸側で一番大きな港だからな」

 ミルアの言葉にコウキはあきれる。

「なんでそんなとこ目指してくんだよ。お前本っ当直球だな」

「だって、海を渡るには船がいるだろ・・・」

 すねたようなミルアの声に、リンとユウヒは顔を見合わせる。

「・・・それってつまり・・・」

「船を強奪するってことかい?」

 二人が出した結論にミルアは沈黙をもって答え、コウキは盛大なため息をついた。

「・・・作戦はあるのか?逃げ切れないぞ?」

 たかだか四人で船を動かし、軍隊から逃げ切れるわけがないと言ったコウキに、ミルアは顔を真っ直ぐに上げた。

「そこをなんとか!」

「できるかっ!本っっっ当直球な!!」

「・・・でも確かに泳いでいくわけにもいかないし、大陸をぐるっと回って行ったらひと月もかかっちゃうよねぇ」

 ユウヒの言葉に渋い顔をしたコウキは、眉を寄せた。

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