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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
始まりの旅
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ミルア

 甲高い女の子の声が聞こえ、二人は上を仰ぎ見た。

 てっぺんが見えない程の大木の上から、女の子が一人、二人に向かって落ちてきていた。

「・・・っ!」

「どぅわっ!?」

「きゃっ・・・!?」

 狙ったように、その少女はクッションにでもするかのようにコウキの上に落ちた。

 あまりに突然の出来事に、リンは思わず悲鳴を上げて目をつぶる。

 にぶい衝撃音がおさまり、リンはそぅっと目を開けた。

 足元に、潰れたコウキを下敷きにして、美しい水色の髪をした小柄な少女が倒れていた。

「・・・・・・だ、大丈夫!?」

 しばし呆気にとられて絶句してしまったリンは、我に返って急いで倒れている二人のそばにしゃがみこんだ。

 当然と言えば当然だが、コウキとその上に倒れている少女は今の衝撃で気絶していた。

 あの高さから落ちたのだ。お互いにあちこちを酷くぶつけているだろう。

 下手に動かさない方が良いと判断し、リンは二人に向かって両手をかざした。

「『治癒』!」

 リンの言葉に反応するように、その体から薄青色の柔らかな光がじんわりと生まれ、両手の平から気絶している二人に向かって注がれた。

 そのまましばらく術を続け、二人の頬に赤みが戻ったことを確認し、リンはホッと息をついた。

 術を解いた直後に、二人は同時に身動きをした。

「・・・ってぇなぁっ・・・!」

「はっ!私は助かったのかっ!?」

 勢いよく体を起こした少女は視線を巡らせ、心配するようにそばに座り込んでいるリンを見つけ、ニコッと笑った。

「ありがとう!助けてくれたんだな!」

「い、いえ、私というより・・・」

「・・・いつまで乗ってんだよ・・・早く降りろ!」

 ぐいっと体を起こしたコウキの背に乗ったままだった少女は、勢いのまま落ちてコロンと地面に転がった。

 立ち上がってぱんぱんと服についた泥を落とすコウキをムッとしてにらんだ少女は、その顔を見てハッとした。

「お前、知ってるぞ!おとといの夜、ここでモンスターと戦ってただろう!すごい勢いで!木の上から見たぞ!」

「あ?ああ・・・」

 可憐で清楚な外見の美少女が顔に似合わぬきびきびとした男言葉でしゃべるのに気圧されながら、コウキは思わず頷いた。

 リンは、少女の言った言葉の一部が引っ掛かり、おそるおそる口を開く。

「・・・あなた、もしかしておとといの夜からずっと木の上にいたの?」

 まさかという顔で尋ねられた少女は、きまりが悪そうに目を反らした。

「いや、森で野宿するつもりが、予想外にモンスターが集まってきたから、木に登ってやり過ごそうと思ったんだ。・・・でも、そこで問題が、起きた・・・」

「問題・・・?」

 美少女顔が暗く沈むと必要以上に深刻なように思えて、コウキとリンは眉を寄せて顔を見合わせた。

 何が起きたのかと二人に見つめられ、少女は重い口を開いた。

「実は・・・私は・・・その・・・今まで木に登ったことって経験が無くてだな・・・」

 目を泳がせながら、少女は続けた。

「・・・あんなに高い所に登ったこともなく・・・つまり・・・」

「降りられなくなったってか?」

 言いにくい言葉をコウキにズバリ言われ、少女は赤くなってむくれながら頷いた。

「う・・・まぁ・・・そうだ・・・」

「それで俺をクッション代わりにしたと?」

 ジト目でにらまれ、少女は小さくなる。

「・・・いや、どう降りればいいのかわからなくて・・・でも一人で飛び降りたら絶対ケガすると思って・・・運良く人が通ったから、今しかないと・・・」

 ボソボソと言い訳する少女に、コウキは大きくため息をついた。

 半分あきれたように苦笑しているリンと目を合わせたコウキは、まだうなだれている少女の頭にポンと手を置いた。

「わかった。もういい。お前、一人なのか?」

 許された少女は、ぱあっと明るい笑顔を上げた。

 それだけで辺りまで明るくなったようで、コウキとリンはつられて微笑んだ。

「私はミルアだ!訳あって一人旅をしている!木の上からお前を見かけた後も、下を見たら頭がくらくらしてずっと目をつぶってた!でも戦う音は聞こえてたし、もうどうしていいかわからなくて、頭はくらくらするし、目の奥はピカピカで・・・!」

 自分の大変だった境遇を一気にまくし立てるミルアの言葉に、コウキはひとつ考えた。

「途中から、こっちのリンも一緒に戦ってたんだが、それは見てないのか?」

 ミルアは首をかしげた。

「・・・いや、お前を見た後はずっと目をつぶってたから・・・」

 情けないことだと、小声でボソボソと言ったミルアに、コウキは頷いた。

 ミルアは、リンが光と共に降りてきたことを知らない。

 目の奥がピカピカしていたというのは、おそらくリンの光が降りてきた時のことだろう。

 そのまま移動しながら戦っていたので、リンの声は聞こえなかったか、もしくは恥ずかしくて口に出さないが、ミルアが怖がって耳を塞いでいた可能性もある。

 一人で納得したコウキは、ミルアに笑顔を向けた。

「俺はコウキだ。腹減ってないか?」

「減ってる!!」

 コウキの言葉を聞いて、目に見えて輝いたミルアの瞳に、リンはクスクスと笑った。

「じゃ、ちょっと移動しましょう?」

 いくらなんでもモンスターの死体を見ながら食事はないだろうとリンは二人を誘った。

 異議などあるはずもなくコウキとミルアは頷き、移動した三人はやがて小川のせせらぎを見つけた。


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