講義
「・・・だから、その感覚が大事なんだよ。わかったか?」
「う~ん・・・」
無事にモンスター群も殲滅し、夜になって夜営地を決めた四人は食事を摂った後のひとときを過ごしていた。
ミルアは、やっとコウキからの魔法講義を受けていた。
剣の手入れをするユウヒと、食事の後片付けをするリンに見守られながらミルアはうなる。
「・・・精霊に呼び掛ける、感覚・・・?」
いまいちわからない様子のミルアに、コウキはため息をつく。
「だから、この焚き火の中にも、川の流れにも、地面にも、風にも、雷にも、全部に精霊が宿ってるんだ。魔法ってのはその精霊たちを呼び集めて力を借りるってことだ。だからまずは精霊たちと仲良くなる必要があるんだよ」
「仲良く・・・」
「そのためには、いつも心を開いておいて、精霊の存在を疑わないこと!必ず力を貸してくれるって信じること!」
一歩離れてコウキの話を聞いていたユウヒは、洗った食器を片付ける為に近くに来たリンにこっそり耳打ちする。
「・・・意外にまともに講義してるけどさ、コウキの口から仲良くとか信じるなんて言葉が出るとは思わなかったねぇ」
「・・・確かに」
イメージに合わないと頷き合った二人を、コウキはじろりとにらんだ。
「そこ!聞こえてるぞ・・・」
低い声で言われたリンとユウヒは、そそくさとそれぞれの作業に戻る。
気を取り直して、コウキは講義を続けた。
「まぁ、好みもあるけど、だいたい人それぞれ相性のいい精霊ってのがいるもんだ。まずはそれを見つけることだな」
ミルアは納得して頷く。
「なるほど、相性か。どうやって見つけたらいいんだ?」
「直感が一番だけどな。お前の場合は海の国出身だし、水と相性がいいかもな」
「そういうものか?」
首を傾げるミルアに、コウキは腕組みしながらスラスラと答える。
「そればっかりじゃねぇよ。もちろん個人の性格にもよるし。精霊にも個性はあるから、ウマが合えばより力を貸してくれるし、嫌われれば魔法が発動しないことだってある」
「そうなのか・・・」
嫌われることもあるのだと聞かされたミルアは、少し緊張した面持ちでコウキを見つめた。
その顔を見てコウキは軽く笑う。
「よっぽど怒らせるようなことでもしなきゃ嫌ったりしねーよ。精霊は人間と違って心が広いからな」
「・・・君はどの精霊と相性がいいんだ?」
熱心に頷くミルアの後ろの方から、剣の手入れを終えたユウヒが参加した。
質問を受けたコウキはそちらに目を向ける。
「俺はどれでも使える。雷とか炎をよく使うのは、単に好みだな」
「ハデ好きだねぇ。じゃ僕は緑の国生まれだから、木とか地面とかかな?」
苦笑してから真面目な顔になったユウヒを、コウキはまじまじと眺めた。
「・・・まぁ、一見風っぽいけど、実はどっしり腹据わってるからな。合うんじゃねぇか?」
まるで占い師のようなことを言ったコウキに、リンも目を輝かせて身を乗り出した。
「私は?」
何と言われるのかと期待に満ちた顔で見詰められたコウキは、しばし考え込んだ。
「・・・お前は、わかんねーな」
「はぁ!?」
抗議の声を出したリンに、コウキは冷たくい言い放つ。
「頑固なとこは地っぽいし、雷や火みたいに激しい時もあるし、風みたいにフラフラどっか行きそうなとこもあるし・・・。とにかくいろんな要素持ってて、わかんね」
ミルアはきょとんと目を瞬いた。
「それって、コウキと同じく全部の精霊と相性いいってことか?」
「・・・相性いいかもしれないし、全部と悪いのかもしれない」
悪いと言われ、リンは愕然としてしまった。
その顔をちらりと見たコウキは続ける。
「まぁ、やってみなきゃわかんねーけどな」
希望のある言葉をもらったリンは再び目を輝かせた。
そのころころ変わる表情に小さく吹き出してから、コウキは真顔でリンを見る。
「・・・でも、お前は魔法なんて覚えなくていいからな。お前には言霊がある。これ以上余計な力をつかう必要ないからな」
そのコウキの言葉にミルアとユウヒはおやと目を瞬いたが、リンはムッとした、
「なんであなたにそんなこと言われなくちゃいけないの?」
ミルアには魔法を教えているくせに、そんなことを偉そうに言われる筋合いはないと顔をふくらませたリンに、コウキは厳しい顔を見せた。
「ただでさえ言霊なんつーややこしい術を使ってるんだ。その上魔法理論叩き込んで使おうと思ったら、頭パンクするぞ」
バカにするのではなく本気の言葉だったが、それゆえになおさらリンはムッとした。
「そりゃ、ちゃんと勉強できるかはわからないけど、そんな、人をバカみたいに、言わなくても・・・」
「リン」
ふくれて拗ねるリンに、ミルアが静かにその名を呼んだ。
リンの手をそっと取ったミルアは、まっすぐにその瞳を見つめた。
「リン、私もコウキと同じだ。リンには魔法まで覚えてほしくない」
「・・・ミルアまで?」
味方になってくれるかと思ったミルアにまで反対されたリンは悲しげに眉を寄せた。
その困惑した瞳をしっかりと見つめ、ミルアは口を開いた。
「リンの住んでいた月には、争いなんてなかっただろう?」
「・・・え、ええ」
とまどいながらもリンが頷くのを見て、ミルアは控え目に微笑む。
「だから、本当はこんな戦争にリンを巻き込みたくない。人間が傷付け合う所なんて本当は見せなくないんだ。戦いなんて、リンには似合わないから・・・」
果敢に戦ってきてはいるものの、どこかおっとりとしているリンは、戦場で戦う戦士には程遠い。
「ミルア・・・」
切ない瞳になったリンの手を、ミルアは強く握った。
「だから、リンはこれ以上戦う力なんて持たなくていい。そんな力無くてもいいんだ。リンのことは、私が守るから」
「ミルア・・・!」
ミルアの思いの込もったあたたかい言葉を受けて感極まったリンは、その小柄な体を抱き締めた。
ミルアもリンの体をしっかりと抱き締め返す。
「ミルア・・・私も守る・・・!私に出来る力で・・・!」
「リン・・・!」
熱い場面にうんうんと頷きながら、ユウヒはコウキに笑顔を向けた。
「・・・ってコウキも言いたかったんだよねぇ?ミルアの方が上手に言えたね」
「・・・余計な解説はいらねぇよ・・・」




