理由
「・・・あ!来たっ!良かった!リン、コウ・・・キ・・・?」
「・・・おやおや~?」
予定していた合流場所でやきもきしながら待っていたミルアとユウヒは、馬でやってきたコウキとリンの様子に首を傾げた。
器用に馬の背中にあぐらをかいて背中合わせに座るコウキを後ろに乗せたリンが、憮然とした顔で手綱を握っていた。
「上手く乗れてるじゃないか」
ユウヒはのんきにニコニコと笑った。
ミルアは近付いてくる馬に駆け寄った。
憮然としていたリンは、ミルアとユウヒを見つけて笑顔になる。
「ミルア!ユウヒ様!」
馬を止め、地面に降りようとしたリンに、先に地面に降り立ったコウキが手を貸す為に手を差し出した。
「・・・・」
「・・・・ぐぇっ!」
差し出された手をしばしジト目で見たリンは、その手を握ることはせずにコウキの体を踏み台にして馬から降り、ミルアに駆け寄った。
「ミルア!無事で良かった!」
「リン~っ!はぐれた時はどうしようかと思ったぁ~っ!」
リンとミルアが抱き合って再会を喜ぶ間に、ユウヒは地面で潰れているコウキをつつきに行く。
「やぁ。ご苦労様。見事な囮っぷりだったねぇ」
「!?」
しゃがんでコウキの肩をつんつんとつついたユウヒの言葉を聞き、全員が驚いてユウヒに顔を向けた。
ユウヒは笑顔のまま口を開く。
「僕達を先に行かせる為に、あんな派手なことをしたんだろ?」
先に馬を走らせながらも、後方の騒ぎは微かに耳に入っていた。
ユウヒには、その騒ぎはコウキが自らを囮にしてユウヒとミルアから注目を反らす為にしたことだとすぐにわかった。
「全然違う方向に飛んで行ったのも、追っ手を撒くためだろ?」
「・・・・やな奴だな」
全部お見通しだと微笑むユウヒに、コウキはため息をついてその言葉を認めた。
「・・・・」
「コウキ・・・そうだったのか」
二人の会話を聞き、リンとミルアはコウキを見つめた。
コウキはきまり悪そうに起き上がり、あぐらをかく。
「・・・まぁ、注目を集めるいいネタがあったからな・・・」
「聞きたいな♪」
あんなに騒ぎになるほどのネタとはどんなものだったのかとユウヒは尋ねた。
ユウヒの馬が全く忘れられるほど、両軍の兵士達が興奮してコウキに集中していたのだ。
非常に気になるところであるとユウヒに笑顔を向けられたコウキは、結局根負けした。
「・・・とりあえず、移動しながらな」
いつまでも同じ場所にじっとしているわけにはいかないとコウキは立ち上がった。
ここからは岩場が続くため馬を逃がしてやり、徒歩で移動しながらユウヒとミルアは戦場での出来事を聞いた。
「・・・戦荒らしの炎竜・・・」
話を聞き、ミルアは呆然と呟いた。
ユウヒもミルアも、噂だけは聞いたことがあったのだ。
優勢だった戦況が、突然何者かによって劣勢に追い込まれたと。
その者が、赤い髪で大きな炎の剣を持ち、凄まじい強さで戦場の中を駆け抜けるのだと。
ユウヒは真面目な声を出した。
「・・・どうして、戦荒らしなんてしてたんだい?」
どこの国にも属さず、ただ戦況を引っくり返す為だけに一人で戦場に出ていたコウキ。
その目的は、誰も知らない。
「・・・・」
リンとミルアにも視線を向けられ、コウキは歩きながら一つため息をついた。
「・・・くだらねーから」
「え?」
コウキは、前を向いて歩きながら続けた。
「くだらねーからだよ。どっちが勝ったって、どの国が勝ったって、何の意味も無い。何かが変わるわけでもない。そんな戦争、くだらねーと思ったからだ」
後ろから見てもムスっとしてるのだろうとわかるその声に、リンとミルアは顔を見合わせた。
「だから、荒らしてたのか?」
ユウヒの問いに、コウキは黙ったままだった。
ユウヒはため息をつき、コウキの隣に並ぶ。
「そんな理由で、うちの軍は何度も煮え湯を飲まされたわけか」
すっと冷たくなったユウヒのオーラに、リンとミルアは息を飲んだ。
(笑ってるけど・・・怒ってる!?)
(ユウヒ様・・・怖いっ・・・!)
「・・・・」
何といわれようとも、ユウヒの言った通りであるコウキは黙って前を向いている。
一触即発の雰囲気に、リンとミルアは手を握りあってごくりと唾を飲み込んだ。
「・・・君が『炎竜』だったんなら、僕も戦に出れば良かったなぁ。戦ってみたかったよ、噂の『戦荒らし』と」
「・・・俺は、嫌だ」
一度本気で戦ってみたかったと爽やかに言い放ったユウヒの言葉を聞き、コウキは横を向いて顔を合わせないようにした。
荒れまくった戦場で、ニコニコしながら剣を向けるユウヒなど、想像するだけで怖い。
ユウヒはニッコリと微笑んだ。
「つまり、頑張ってこの大戦を終わらせれば『炎竜』が戦荒らしをする必要はなくなるってわけだね」
「・・・・そうだな」
やっと目線を合わせたコウキを、ユウヒは満足げに見た。
「・・・で、リンと何があったんだい?」
突然変わった話の矛先に驚き、コウキは思わず岩場の上で派手に転び、岩から転げ落ちていった。
「あはははは。おもしろい転び方するなぁ。体張ってるよねぇ」
心底楽しそうに笑うユウヒを、リンとミルアは蒼白な顔で見つめた。
一番柔和なイメージのユウヒが、一番怖いのかもしれないと思った。
「・・・リン?」
落ちていったコウキに見切りをつけ、くるりと笑顔で振り返られたリンは、ぶんぶんと首を振った。
「別に全然全くさっぱり何にもないですっ!」
「でも馬に乗って来たとき、雰囲気おかしかったよね?」
「おかしくないですっ!普通ですっ!」
「う~ん・・・」
納得いかない様子でユウヒが唸っていると、コウキが岩場を這い上がってきた。
「・・・いい加減にしろよユウヒ!こんなかわいくない奴となんかあるわけねーだろ!」
ぴしっとリンの顔がひきつった。
「・・・そうです!こんなデリカシーなくて失礼な人、なんにもありませんっ!」
大声で言われたコウキも、ぴくっと眉を怒らせた。
「・・・そうだな!あんなもん事故だ、事故!」
「そうね!ホンットに些細な事故だわ!」
「頭突きかましたみたいなもんだ!」
「痛くもかゆくもないけどね!」
散々言い合って、ぐぬぬぬぬとにらみ合う二人に、ユウヒはぽつりと呟いた。
「・・・なんかあったって、言ってるようなものだよねぇ」
ふむと一人納得するユウヒの袖を、蒼い顔のミルアがつんつんと引っ張った。
「ん?なんだい?」
「ユウヒ・・・あれ・・・」
ミルアの震える手が、控え目に前方を指差した。 ユウヒはその光景を見て目を瞬く。
「おやおや・・・」
ミルアはまだにらみ合っているコウキとリンに怒鳴った。
「二人が大声だすからモンスターが集まってきたじゃないかぁ~っ!」
「ん?」
「え?」
ミルアの声を聞き、コウキとリンは前方を見た。
そこに見えたのは、何十体ものモンスターが、こちらに向かって来ている光景。
「・・・お前がぎゃあぎゃあ騒ぐからだろ!?」
「誰のせいよっ!!」
「・・・それより、戦うか、逃げるか、考えようか?」
「ユウヒ~っ!のんきに考えてる間に、もう来てる!」
「だぁっ!もう全部ぶっ倒す!!お前ら、戦闘準備っ!!」




