声と手段
泣きながらも馬を降下させたリンは、馬が地面に足を着き、先に降りたコウキに手を差しのべられてもまだ止まらない涙と戦っていた。
コウキは手を差しのべたままため息をつく。
「戦が怖かったのか?だから目つぶってろって言ったのに」
その言葉に、馬上でリンは両目を押さえたまま首を振った。
「・・・戦いも、怖かった・・・。人間同士が、あんな風に傷付け合うなんてっ・・・!」
その後に続いた言葉に、コウキは目を見開くことになる。
「・・・でも、一番ショックだったのは、あなたよっ・・・!全然知らない人みたいで、怖かっ・・・」
言葉が続かず嗚咽を上げて泣き出したリンを、コウキは呆然と見つめた。
こんな反応をされるとは思っていなかった。
なんと言っていいかわからず、コウキは必死に言葉を探す。
「・・・悪かったよ。でもあの場はああするしかなかった。とにかく、一回降りて休憩してからユウヒ達と・・・」
いつまでも馬に乗っているより降りてしっかり休んだ方がいいと握ろうとした手を、リンは思いっきり振り払った。
涙目で馬上からにらむその様子に、コウキはムッとする。
しかし、コウキににらみ返されたリンはまた涙をあふれさせた。
ケンカにならず拍子抜けしたコウキは、そう泣かれると逆に困り言葉を無くした。
ーーーー他の女にするみたいに、抱き締めればいいじゃん、コウキ。
突然どこからか聞こえてきた少年のような声に、リンは涙を止めて目を上げた。
「・・・え・・・?」
声は、再び聞こえた。
ーーーーそんな困ってんならさぁ、ぎゅっと行けばいいじゃん?
「・・・・」
「うるせぇ!!黙ってろ!!」
どこから声が聞こえてくるのかと目を動かしたリンの前で、コウキは空に向かって怒鳴った。
「・・・え・・・何・・・」
何が起きているのかと口を開こうとしたリンの声に被るように、また少年の声がした。
ーーーーいいじゃん、ずっとおとなしくしてたんだからさぁ! オレもリンとしゃべりたいよー!
「誰がおとなしくだ!さっぱりおとなしくねーよ!いいから黙ってろ!!」
ーーーー・・・ちぇ~・・・。
声が渋々引き下がり、コウキは荒い息をついた。
そして、ハタと気付いて馬上のリンを見上げると、案の定呆気に取られた顔でコウキを見詰めていた。
コウキは、ごくりとつばを飲み下した。
「・・・ど、どーだ!泣く子も黙る俺の腹話術!」
「・・・腹話術?」
苦し紛れのコウキの言葉に、リンはきょとんと目を瞬いた。
「・・・すっごい上手・・・」
呆然とした顔で言われたコウキは、心の中でガッツポーズをした。
(よっしゃ!バカで良かった!)
「・・・なんて言うわけないでしょ!あなたウソならもっとさらっとつくくせに!」
「な、なんだよ!ウソじゃねーよ!」
「それがウソ!思いっきり『バカで良かった~』って顔したじゃないっ!」
「げっ!心読むなっ!」
「読んでないわよ!!っていうか本当にそう思ってたの!?」
「うっ!」
すっかり分が悪いコウキは突破口を必死に探す。
その間にも、リンは軽くパニックになったようにまくし立てた。
「あなた本当に何者なのよ!?さっきの声、何!?何なのよ戦荒らしって!!私より怪しいじゃないっ!!何が本当なの!?もうわけわかんないっ!!」
そこまで叫んだリンは、突如目を見開いて固まった。
コウキが、ローブごとリンのスカートをビラっとめくったからだった。
太ももまであらわにされたリンはプルプルと震えてから、ものすごい勢いでスカートを奪い返し叫んだ。
「も~~~~っ!!何がしたいのよっ!!何考えてるのよっ!!本っ当わけわかんなっ・・・」
突然馬に飛び乗り、間近で向かい合うように座ったコウキの行動に驚き、リンは思わず口を閉ざした。
そのまま、驚いて凝視しているリンの頬を両手で押さえたコウキは。
「・・・っ・・・!」
コウキの唇で唇をふさがれたリンは、何が起きたのかわからず息を詰めて目を見開いた。
静かに離れたコウキの瞳と、呆然としたリンの瞳が見つめ合う。
「・・・どう・・・して・・・?」
か細い声の問いかけに、コウキはハッキリと答えた。
「いや、とりあえずこうすれば、女はおとなしくな・・・」
バッチーーーーン!!
「本っっっ当サイッテーーー!!」
馬から叩き落とされ地面でピクピクするコウキに、リンは馬ごと背を向けた。
「行きましょうお馬さん。こんな奴放っといて早くユウヒ様たちと合流しなきゃ」
「・・・こ、こら待て・・・いつの間にか乗馬うまくなってんじゃねぇよ・・・」
「ついてこないで!」




