炎竜
周囲の注目を集めてしまったコウキは、ユウヒとミルアが無事に前へ進んでいることを確認しながら口の中で呪文を唱えた。
「我が身我が魂に集いし炎雷の精霊 我が剣を依代にその力を現せ!!」
コウキの呪文に反応し、即座にその手に持つ剣から炎と雷が吹き出した。
凄まじいエネルギーを放つ剣を頭上に掲げたその姿に、両国の兵士達がざわつき始める。
「・・・おい・・・あれ・・・」
「あれ・・・まさか・・・」
ざわつく兵士達の様子に、何がなんだかわからずリンはコウキにしがみつく。
「あの炎の剣・・・赤い髪・・・」
「まさか・・・あいつ・・・」
「『戦荒らしの炎竜』!?」
明らかに動揺している兵士達の放った言葉に、コウキはうんざりとため息をついた。
「・・・ったく、センスねー呼び名付けんなよなー・・・」
「・・・ちょっと!何のことっ!?」
すっかり落ち着いているコウキにだけ聞こえるように、リンは問い詰めた。
兵士達のコウキを見る目がすっかり変わっている。
どちらの兵士たちも、怯えが混ざった目でこちらを見ているのだ。
確かに魔法をまとった剣は強大な力を持っているようだが、呼ばれた字は、なんだか尋常ではない。
問い詰められたコウキは、気まずそうに視線をさ迷わせた。
「・・・あ~・・・まぁ、つまり・・・」
言いにくそうな様子でしどろもどろするコウキの代わりに、周りの兵士達が勝手に説明し出した。
「『戦荒らしの炎竜』って、あの!?」
「いきなり現れては負けてる方の味方をして・・・」
「凄まじい強さで勝ってる方を圧倒して、たった一人で戦況を覆すっていう!?」
「引っ掻き回すだけ引っ掻きまわして突然消える迷惑者!?」
「それが『戦荒らしの炎竜』!!」
興奮気味にまくし立てられる兵士達の言葉に、コウキは顔をひきつらせる。
「・・・お~、言いたい放題言ってくれるじゃねぇか・・・」
リンは別の意味で顔をひきつらせた。
「・・・ちょ、ちょっと・・・本当にあなたのことなの・・・!?」
「・・・・」
この場合、沈黙は肯定を意味した。
あっけに取られて呆然としているうちに、マール・モーリェの兵士達がとんでもないことを言い出した。
「おいっ後ろに乗ってるの、炎竜の女じゃないのか!?」
「引きずり下ろせ!!人質にしてやる!!」
「炎竜の首を取れば大手柄だ!!」
「全員でかかれっ!女は生け捕りだ!」
そんな声が周りから聞こえ始めた。
フォレスタ兵は、どう動いたらいいかわからなくなっている。
『戦荒らしの炎竜』には、フォレスタも痛い目を見せられたことが何度かあるからだ。
まだフードを外していないものの、ほとんど女とバレている状況でどうしたらいいかと緊張するリンの前で、すぅっとコウキのまとう空気が変わった。
「・・・おもしれぇ。死にたい奴だけかかってこい!!」
不敵な笑みを浮かべエネルギー渦巻く剣をさばいたコウキの姿に、マール・モーリェ兵は一瞬たじろいだがすぐに我を取り戻して一斉に斬りかかってきた。
「・・・甘いんだよ!!」
たくみに馬を操り、剣の一閃で周囲の兵士をなぎ倒したコウキの後ろで、倒された兵士達の叫び声を聞いたリンは身をすくませた。
「や・・・!」
「うらぁっ!!」
次の一閃でまた5~6人のマール・モーリェ兵を倒したコウキは、ふんと鼻を鳴らして、残っている兵士を冷たく見下ろした。
「どうしたぁ?俺の首取るんだろ?来いよ」
コウキの強さに圧倒され、動揺が見えるマール・モーリェ兵に、ここぞとばかりにフォレスタ兵たちが斬りかかった。コウキに気を取られていたマール・モーリェ兵は、不意をつかれて次々に倒れていく。
目を見開いたリンの唇が震えた。
「や・・・『やめて』ぇーーー!!」
耐えきれずに叫んだリンの声が、そのまま言霊となり、戦場にいた兵士達の体が、金縛りにあったように一瞬ぴたりと動かなくなった。
「・・・行くぞ!」
「きゃっ・・・」
そのまま一瞬で馬を走らせられ、驚いたリンは反射的にコウキにしがみつく。
ユウヒの馬がもう見えないところまで行ったのを確認したコウキは、首だけリンに振り返った。
「馬ごと飛べ!できるだろ?」
「えっ・・・!?」
「いいから早く!」
突然の指示に納得できないまま、真剣な声で言われたリンは疑問を持ちながらも言霊を口にした。
「『浮遊』!」
次の瞬間、馬の足がふわりと宙を踏んだ。
まるで見えない階段を昇るかのように空へ駆け上がっていく馬を、兵士達は呆然と見上げた。
「このまま南の方に向かえ」
そうコウキに言われ、リンはぎょっとした。
「えっ!?でもユウヒ様たちとの合流場所は西・・・」
「いいから!」
強く言われムッとしたリンは、それでも早く戦場から離れたい気持ちから、コウキの指示に従った。
方向を変え、すーーーーっと飛び始めたことに気を良くしたコウキは、いきなり飛んでも暴れなかった馬の首を撫でてやる。
「よぉ~し、いい子だな♪ちゃんと言うこと聞いたな♪」
「・・・それってどっちに言ってるのよ・・・」
馬に言ったようにも、リンに言ったようにも、どっちにも取れる言葉にリンはぐったりとため息をついた。
「どっちにもさ♪」
悪びれずにニッと笑って振り返ったコウキがいつもの様子に戻っていることに、リンはホッとした。
「・・・どうした?」
馬と同じ扱いかと怒ると思っていたリンが、安堵の表情を浮かべ何も反論してこないのを不思議に思い、コウキはもう一度振り返った。
そして、リンの目が潤んでいるのを見、ぎょっとする。
「何泣いて・・・」
「・・・なんでっ!?」
今まで我慢していた感情が吹き出すように、リンは叫んだ。
「何がだよ!?」
「全部っ!!」
とにかく涙が止まらず背中に顔を押し付けて泣くリンに、ボリボリと困ったように頭をかいたコウキは、少し行った丘の向こう側に降りるよう指示した。




