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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
フォレスタの旅
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戦場

戦場の中で、避けられない残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。

 コウキの掛け声と共に、二騎は戦いの真っ只中へ向かって走り出した。

 そのスピードに圧倒されたリンは、本当にコウキの体に掴まっているだけで精一杯で、兵士達のぶつかり合う様など見る余裕もなかった。

 本当の戦いを目の当たりにするのは、これからだった。

 兵士達の雄叫びの声がどんどんと近くなり、剣のぶつかり合う音や、人の倒れる音、悲鳴に近い声などが次々に迫ってきた。

「・・・しっかり掴まってろよ」

 コウキの声がからだを伝って聞こえた次の瞬間、その体が大きく動いたのがわかった。

 コウキが剣を抜いたのだ。

 そうわかった時には、間近で剣のぶつかる音がし、マール・モーリェ兵が倒れるのがフードの陰から見えた。

 そして、すぐに次が来る。

「・・・きゃ・・・!」

 突如来る振動に、思わず出そうになる声をなんとか抑え、リンは必死でコウキの体に掴まり続けた。

 守りの戦いに徹し、必要以上に敵兵を傷付けない戦いをしているフォレスタ兵は押され始めていた。

「うわあぁぁっ!」

 コウキの馬のすぐそばで、フォレスタ兵が血を吹き出して倒れた。

 舌打ちしたコウキは、馬上から剣を振るい、倒れた兵が止めを刺されるのを防ぐ。

 だが、フォレスタの兵士達は、自国の王子であるユウヒ達四人を先へ行かせる為に戦っているのだ。

 立ち止まることは許されない。

 先を行くユウヒの後方を守りながら馬を走らせるコウキに必死でしがみつきながら、リンは周りを見た。

 見ておかなければと思った。

「・・・・っ!」

 壮絶な光景だった。

 血しぶきがあちこちで上がっている。

 すでに負傷し、武器を無くしたフォレスタ兵を、マール・モーリェ兵が数名で追い詰めて数本の剣で一気に刺し貫いていた。

 地に倒れ、もはや戦意を無くした兵の頭を踏みつけ、心臓を一突きにする兵もいた。

 モンスターには感じたことのない恐怖を感じ、リンは体が震えるのを感じた。

 他者を寄せ付けない勢いで進んでいく二騎に気付いたのか、マール・モーリェの兵士達が集まってきた。

 邪魔はさせまいと、フォレスタの兵士達がその動きを抑えようと奮闘している。

 ミルアは、歯を食い縛ったまま、ぎゅっとユウヒの服を掴みその背中に顔を押し付けて耐えていた。

「・・・そのまま、我慢だよ?」

 ユウヒの優しい声が聞こえ、ミルアは顔を押し付けたまま頷いた。

 こんな所に、王女が敵国の者と一緒にいるとなれば、もっと大変な騒ぎになる。

 どんなに辛くとも、姿をさらして存在をバラすことは絶対にできない。

 この戦場を、早く抜け出したかった。

 先を行くユウヒの馬を逃した槍兵が、続くコウキの馬に狙いを定めた。

 馬を狙って繰り出された槍の前にフォレスタ兵が飛び出した。

 我が身を盾にして。

 大きな槍に串刺しにされたフォレスタ兵を、リンはハッキリと見てしまった。

「くそっ・・・!」

 コウキは舌打ちし、手綱を操って馬頭の向きを変え、盾になった兵士を避けて通る。

 大きく迂回したところを、今度は反対側からマール・モーリェ兵が襲った。

「・・・!」

 目を見張ったリンの目の前で、またもやフォレスタ兵が二人の乗った馬を守ろうと飛び出してきた。

「やっ・・・!」

 この後の展開を想像して悲鳴を上げそうになったリンの前でコウキが怒鳴った。

「どけっ!!邪魔だ!!」

 自らの体を盾にしようとしたフォレスタ兵を馬上から蹴り倒したコウキは、自らの剣で襲ってきたマール・モーリェ兵に斬りつける。

 そして、周りにいるフォレスタ兵達に向かって怒鳴りつけた。

「お前らっ!!俺の前に出んじゃねぇっ!!」

 自分で対処できる敵に、わざわざフォレスタ兵が身を投げ出して盾になる必要はないと怒鳴ったコウキの声は、戦闘の騒ぎの中でもよく響いた。

 だが、そのよく通る声は、マール・モーリェ兵の注意も引いてしまった。

 兵士に対して指示を飛ばした騎上の人物は、階級の高い騎士でもあるかのように見えた。

 そしてその人物は、後ろに明らかに小柄な姿を隠した者を乗せている。

 まるで、身分の高い貴族の姫を亡命させようとでもしているかのようにマール・モーリェ兵達の目には映った。

 コウキ達の馬が遅れたことに気付いたユウヒが、剣を振るいながら一瞬だけ振り返った。

「・・・行けっ!!」

 コウキの一言が聞こえ、ユウヒは腹を決める。

 スピードを上げ、迷わず前進したユウヒの服を、ミルアの手が不安げに握った。

 振り返りたいのを必死に我慢しているのを感じ、ユウヒはミルアにだけ聞こえるように言った。

「あの二人なら、二人が一緒なら、大丈夫だ」

 ミルアは様々な思いと葛藤しながら、なんとか頷いた。

 今は、祈るしかなかった。



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