作戦
パタンと扉の閉まる音がして、ミルアは目を覚ました。
「・・・リン?どこかに行ってたのか・・・?」
部屋に入ってきたのがリンだとわかり、ミルアはまだ寝ぼけているような声を出した。
リンはそっとミルアのベッドに近づく。
「起こしてごめんね。ちょっと、王様とお話してきたの」
「・・・体は?大丈夫か?」
ぽやぽやとした瞳で尋ねられ、その可愛らしさにリンはくすりと笑う。
「大丈夫よ。また心配かけてごめんね」
ミルアはベッドの中で首を振った。
「リンはすごく頑張った。・・・私も、もっと役に立てるように頑張るから」
ミルアの言葉を聞き、リンは目を瞬いてから優しく微笑んだ。
「何言ってるの?ミルアには私、どれだけ救われたか。あなたがいてくれて、とても心強いのよ?」
ミルアのはつらつとした存在感と凛とした姿勢は、いつもリンの心を引き立ててくれるのだ。
そう言われ、ミルアは拗ねるような顔をした。
「・・・リンも、コウキと同じようなことを言うんだな」
なんだか、甘やかされているようで複雑だとミルアは唇をとがらせる。
リンは苦笑した。
「契約とかなんとか言ってるけど、きっとコウキもミルアのこと、大事に思ってるのよ」
「・・・・リン?」
リンの微妙な声音にミルアが眉を寄せた時、部屋の扉がノックされた。
「・・・二人とも、起きてるか?」
扉の向こうから聞こえたコウキの声に、リンとミルアは顔を見合わせた。
ミルアが起き上がって答える。
「ああ。リンも起きてる」
「ならすぐに来てくれ。ユウヒが呼んでる」
ユウヒの呼び出しと聞き、二人はすぐに身支度をしていた部屋を出た。
廊下で待っていたコウキと共に会議室へ向かう途中で、三人は手短に言葉を交わした。
「ユウヒ王子は、なんて?」
「マール・モーリェに向かう為の作戦案を話したいとさ。早い方がいいだろ?」
「・・・そうだな・・・」
二人の会話を、後ろをついて歩きながら聞いていたリンに、コウキは振り返った。
「・・・顔色良くなったな」
「・・・ええ、ありがとう」
なんとなくぎこちなく、目を反らしてリンは答えた。
「ユウヒ!連れて来たぞ!」
会議室に入ると、ユウヒは王や兵士長たちと共に、テーブルに地図を広げていた。
「やぁ、おはよう。よく眠れたかい?」
いつもの笑顔にホッとしたのも束の間、ユウヒの口から、海の国マール・モーリェへ入るための作戦として出た言葉は驚くものだった。
「なるべく時間はかけたくない。フォレスタとマール・モーリェの兵がぶつかってる戦場の中を突っ切って行こうと思うんだ」
「!?」
平然と言い切ったユウヒの言葉に、リンとミルアは唖然とした。
先に話を聞かされていた王と兵士長も、不安を顔に表している。
ユウヒは卓上の地図を示した。
「今いるのが、ここ。マール・モーリェの王城は、ここだ。国境沿いはどこも警備兵が見張ってるし、戦場を避けるなら、ミルアが一人で来た時みたいに辺境をぐるっと廻らなければならない。それじゃ時間がかかり過ぎる」
そしてユウヒは、それぞれの意思を確認するようにリンとミルアを見た。
「・・・・」
「戦場・・・」
急な展開に付いていけず、黙ってしまった二人に、ユウヒは続けた。
「作戦としては、両国の兵がぶつかり合ったどさくさで、僕ら四人が馬二頭で突っ切る。・・・まぁ、作戦っていう程の作戦じゃないね」
自らの言った言葉に苦笑するユウヒに、兵士長はぼそりと呟いた。
「せめて、戦場を抜けるまで充分な兵士を付けさせて頂ければ・・・」
「それじゃ余計に目立つ。重要人物だって看板背負ってることになるぞ」
控えめに言った言葉をぴしゃりとコウキに退けられ、兵士長はムッとしながらも引き下がった。
全くコウキの言うとおりだったが、それでも大事な王子を心配する気持ちを無くすことはできない。
言い足りなそうな顔をしている兵士長に、ユウヒはくすりと笑う。
「コウキの言うとおりだよ。なるべく少人数の方がいい。僕らだけの方が小回りも効くし、臨機応変に動けるよ。それに、コウキは戦場経験者だ。ちょっとやそっとじゃ驚かないさ」
ユウヒにそう言われ、会議の場でのコウキの発言からも頼りにできるだけのものを感じていた兵士長は、それ以上何も言わなかった。
「・・・あとは君たちだ。女の子には、酷な道かもしれない」
「・・・・」
優しい声でユウヒに意向を尋ねられ、リンとミルアは顔を見合わせる。
確かに、戦いの最中を突っ切るのは、怖い。
だが、ユウヒ達が話し合い、出た結果なのだとしたらそれが最善だと思えた。
二人が頷くのを見て、それまで黙っていたフォレスタ王が口を開いた。
「我が兵はこれからは守る戦いを行う。・・・むやみに相手国の兵の命を奪わぬよう、各地へも伝令を送った」
不安げなミルアの為に口にした言葉だった。
こんなに良くしてくれているユウヒの国の兵と、自分の国の兵が戦うところを見なくてはいけないのかと覚悟していたミルアは、王の言葉に少しホッとした。
出発は、正午と決めた。
それまで兵士達が出陣の準備を整える間に、四人も慌ただしく準備を済ませた。
準備が整い、数十名程の兵を率いて国境へ出発する前に、フォレスタ王が四人に言葉を掛けた。
「・・・正直、ユウヒがこれほど成長しているとは思っていなかった。きっと良い王になるだろう。・・・おぬし達に出会えたことに感謝する。・・・きっと成し遂げると信じておるぞ」
神妙な顔で言った父王に、ユウヒはいつもの笑顔を見せた。
「いつまでもただのだだっ子だと思っていたんでしょう?父上だけじゃなく、国民も皆そう思ってる。でも、僕だってそろそろ頑張り時です。一人では無理でも、この仲間と一緒ならなんだって出来そうだと思えるんです」
ユウヒのその言葉を聞いて、リンはハタと気付いた。
「・・・そう言えば、あなたはここまでの契約じゃなかった?」
すっかり一緒に行くことになっているコウキを見上げたリンに、ミルアはあっと声を上げ、当のコウキは渋い顔をした。
「リンっばたばたしてて言ってなかったけどっ・・・」
慌てて声を出したミルアの言葉を、コウキが引き継いだ。
「諸事情により、契約延長だ」
ムスッとしていかにも不本意だとでもいうようなコウキの声に、リンは何があったのかと眉を寄せて首を傾げた。
ユウヒはくすくすと笑いながらリンに説明してやった。
「ミルアがコウキに魔法を教えてもらうんだってさ。だから、魔法修得まで延期だそうだ」
「そう・・・」
ムスッとしたままのコウキをぼんやり見つめるリンを、フォレスタ王は優しく見守った。
リンは、一緒に旅する理由など後から付いてくると言った王の言葉を思い出していた。
「さあ!出発だ!」
ユウヒの号令がかかり、一同は海の国マール・モーリェとの国境に向けて出発した。




