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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
フォレスタの旅
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夜明け

 いつの間にか眠ってしまったリンは、翌朝すっきりした気分で目覚めた。

 そっと起き上がってみると、隣のベッドにミルアが眠っているのを見つけてほっとする。

 あの時、コウキの号令でとっさに癒風光を使い、豊樹神に戦う意志がなくなったことを感じて気を抜いたところで記憶が途切れている。

 昨夜少し目覚めた時のコウキとユウヒの様子では、その後は事態も落ち着いているようだったが、休めと言われただけで状況は何も教えてもらっていない。

 いったい何がどうなっているのか。

 ちょろちょろ起きてくるなと言われたが、体の方はぐっすり眠れて充分回復したように感じた。

 倒れたりはしないはずと、リンはそっとベッドを降り部屋を出た。

 階段を見つけたリンは上へ登ってみる。

 王のもとへ連行されたコウキとユウヒを追ってこの砦まで来たリンとミルアは、リンの『浮遊』の言霊で外から最上階まで上がり、タイミングを見計らっていた。

 外から見ただけの砦だが、当てずっぽうで王の間へ向かったリンが、天井が無くなりすっかり屋上になってしまった王の間に足を踏み入れると、そこには先客がいた。

 王の間の中央に立ち、夜が明けたばかりの空を見上げていたのは、フォレスタ王だった。

「・・・王様・・・」

 リンの小さな呟きを聞き取り、フォレスタ王は振り返った。

 そこにリンがいるのを見つけ、向き直る。

 優しげな瞳が、ユウヒによく似ていた。

 癒しは行っていないのに、不思議と静かな顔をしているフォレスタ王に、リンはゆっくりと近付いた。

「・・・寒くないですか?」

 控えめに尋ねたリンに、フォレスタ王はそっと微笑む。

 とても、疲れた微笑みだった。

 フォレスタ王は何も言わずに外に視線を向ける。

 リンも一緒に外に広がる大地を見つめた。

 緑の国フォレスタは、その名の通り緑あふれる国。

 これまでの旅でも多くの森を通ってきた。

「・・・美しい自慢の国だった・・・」

 王はぽつりと語り始めた。

「美しい緑と、心優しい民たちが何よりの誇りでな。この国を守る立場に生まれたことも、わしの誇りだった・・・。なのに・・・」

 その続きは、言葉にならなかった。

 だが、王の目線を追えばわかる。

 緑にあふれていた国土はあちこち焼け焦げ、木は切り倒されて無惨な姿をさらしている。

 正気に戻った王の心は痛め付けられていることだろう。

「・・・私は・・・単なる代理でこの地に来たんです」

 遠くを見る王の隣で、リンは控えめに口を開いた。

「力ある長老だった祖母の代わりで・・・。・・・ここに来るまでは、嫌で仕方ありませんでした。戦争なんてしてるところ、怖いって・・・。でも・・・」

 リンはまっすぐに地平線を見つめた。

「・・・私、ここに来るまでは他人事だと思ってたんです。でも、ここでいろんな人に出会って、みんな一生懸命生きてるってわかって、自分と何も変わらないって思いました」

 いつの間にかリンは熱く語りだしていた。

「ミルアは女の子なのに、たった一人で旅をしてきて民の為に動いて。ユウヒ様は広い心に大きな勇気を持っていて、とても強い人で。・・・コウキは・・・あの人はよくわからないけど、でも、困ってる人を放っておけない人で・・・」

 最後にリンの口から出た名前に、フォレスタ王は口許をゆるめた。

 気を失ったリンの為に、兵士長すら引き下がらせるだけの迫力を見せたことを当のリンへ伝えるべきか迷い、結局フォレスタ王は違う言葉を口にした。

「コウキか・・・確かに掴み所のない青年だが・・・そこらへんの若者とは違うものを持っている。ユウヒやミルア姫が気に入るのもわかる気がする」

 王や王子、兵士長の集まる軍事会議の場でも臆さずズバズバと遠慮のない発言をしていたコウキを思いだし、フォレスタ王は微笑む。

 豊樹神との戦いの際も、ユウヒ達を引っ張ってよくまとめていた。

 コウキの指揮があったからこそ、リンの力も効率よく発動されたのだとフォレスタ王は見ていた。

「・・・彼は力強い存在となるだろう。この旅の」

 フォレスタ王の声を聞き、リンはうつ向いた。

 無意識にこぶしをぎゅっと握っていた。

「・・・でも、王様。あの人は、ミルアをここまで連れてくるだけの契約なんです。これ以上、一緒に旅する理由はありません・・・」

 消え入りそうなその声にリンの正直な気持ちが表れていて、フォレスタ王は苦笑した。

「理由なんてものは、後から付いてくるものだ。心配せずとも、ここで別れるようなことにはなるまいよ」

「し、心配なんてっ・・・」

 意味深な言葉にうろたえるリンに、王は優しい笑みを浮かべ階下へ降りるよう促した。

「・・・朝の空気はまだ冷たい。戻るとしよう」

 赤くなったほほを両手で押さえながらも素直に従ったリンに、フォレスタ王はぽつりと呟いた。

「・・・おぬしの癒しは確かに効いたのかもしれん。・・・こんな風に、人と話すことができるのだから・・・」


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