無意識
もう少し星を見ながら一人で考えたいと言ったミルアは先ほどと違い吹っ切れた顔をしていた為、コウキは体が冷えないよう程々にと言い残して階下に降りた。
王子の連れとして、リンはきちんとした一室を与えられて眠っていた。
同じく王子の仲間として砦内を自由に歩くことを許されたコウキは、リンの様子を見に行く。
朝に倒れて眠りっぱなしのリンだったが、以前に村全体に結界と癒しを行った時に丸2日意識を失っていたことを考えると、神の力を直接相手にした今回は回復にそれ以上の時間がかかってもおかしくはなかった。
近くに誰もいないことを確認したコウキは、リンの部屋へ入った。
まだ青白い顔のまま、ピクリともせずに眠っている姿を見たコウキはため息をつく。
リンが目覚めるのを待ってからの出発となると、いつになるかわからない。
「・・・ったく、手のかかる奴だな」
ぶつぶつ言ったコウキは、もう一言二言呟いてから部屋を出た。
扉を閉めた瞬間。
「やぁ、夜這いかい?」
背後からユウヒに声を掛けられ、コウキはがくりとうなだれた。
「・・・様子見に来ただけだ。ミルアも浮上したみたいだしな。お前こそ何してんだよ?」
「通りがかっただけだよ。それより、リンは起きたのかい?話し声がしたようだったけど・・・」
あんな事があったにも関わらず、変わらずのんきな笑みを浮かべるユウヒに、コウキは不安と安心の雑ざった複雑な思いでため息をついた。
「まだ起きねーよ。声は気のせいじゃないか?」
話してなどいないと言ったコウキに首を傾げつつもユウヒは話題を変えた。
「コウキ、また会議に参加してくれないか?君の意見は参考になる」
「・・・俺なんかの意見でいいのか?」
面倒くさそうにがりがりと頭をかいたコウキに、ユウヒは笑った。
「君の意見はなかなか的確だよ。国に偏ってないしね。それに、戦場に出た経験があるだけに鋭いところを突いてくる。ぜひ頼むよ」
「・・・へいへい」
どうせ他にやることもなく、ヒマをもて余すしかないコウキは渋々頷いた。
そんなコウキをながめ、ユウヒはそういえばとおもむろに口を開いた。
「森でさ、僕がリンとミルアどっちがタイプだって聞いただろ?あの時なんて答えようとしたんだ?」
それは決まっていると言いかけたコウキの言葉の続きに、ユウヒは大いに興味を持っていたのだ。
忘れていたことを蒸し返され、コウキは嫌な顔をした。
だが、ニコニコと答えを待つユウヒに、これは答えなければ何度もしつこく聞かれそうだと悟ったコウキは、半ばやけくそになって答えた。
「そりゃあ決まってんだろ。あんな面倒くさい奴ら、どっちもごめんだ!」
バタン!
ユウヒに向かってキッパリと言い捨てたコウキの背後の扉、つまりリンの寝かされている部屋の扉が勢い良く開かれた。
ユウヒはぱちりと目を瞬き、コウキは恐る恐る振り返った。
「・・・面倒くさくて、悪かったわね!」
憮然とした顔のリンが、思いっきり手を振り上げた。
ビンタが来ると覚悟したコウキだったが、しかしリンは手を振り上げたところでめまいを起こし、崩れ落ちるように座り込んでしまった。
完全に床に倒れる前に支えたコウキは、あきれた声を出す。
「ほら見ろ。無理して起きてくるからだ」
頭の中がぐるぐる回り、ぎゅっと目を閉じたリンは、それでも声を絞り出した。
「・・・あなたの声が聞こえた気がして、目が覚めたのよ・・・」
「そりゃうるさくて悪かったな」
まだ目を開けられない様子のリンに、コウキは有無を言わさずその体を抱き上げ、ベッドに運んだ。
急に体が浮いて驚き、思わずコウキの肩にしがみつくリンに、ユウヒはくすくすと笑う。
「もう夜だし、僕らも休むから、リンもしっかり休みなさい。いいね?」
コウキも頷いた。
「無理してちょろちょろ起きてくんなよ?何度も運ぶの迷惑だからな」
「・・・・」
いろんな意味で恥ずかしくて、リンは黙ったままおとなしくベッドに降ろされた。
「ほい。回復回復」
そのままご丁寧に毛布を掛けられ、子供にするように襟元をポンポンとたたかれたリンは、どんな反応をして良いのかわからず、毛布を引っ張って顔を隠して怒鳴った。
「わかったわよ!迷惑かけないように、ちゃんと寝てます!」
子供扱いされて怒ったかと、コウキは笑って立ち上がった。
そして、何か言おうと口を開いた瞬間、扉の方からユウヒの声が飛んだ。
「いい子だね。添い寝が必要な時は言うんだよ?」
「必要ないです!」
「お前が言うな!」
リンとコウキが同時に反応を返したのを見て、ユウヒは面白そうに笑った。
「自分が言いたかったんだな、コウキ。でも、言ったもの勝ちだよ。ついでに言うなら、今朝リンが倒れた時コウキが・・・」
「だぁっ!もういいっ!出るぞっ!」
ユウヒの言葉を思いっきり遮ったコウキは、ものすごいスピードで扉まで行き、ユウヒを押し出すように部屋を出てバタンと扉を閉めた。
はぁはぁと息を切らせたコウキににらまれ、ユウヒは苦笑した。
「照れなくてもいいじゃないか。すごい迫力だったよ?兵士長もびっくりしてたじゃないか」
「うるせー・・・」
豊樹神が去り、光が収まったと同時に近くでバッタリと倒れたリンに驚いて駆け寄り、助け起こそうとしたリーダー兵士は、まだ肩で息をしひざまずいたままだったコウキに怒鳴られたのだ。
「『触るな!!』って言われて、兵士長も思わず『はいっ!!』って返事してたじゃないか」
なおもくすくす笑うユウヒに、コウキはムッとする。
「うるせ。ほら、会議するんだろーが。行くぞ」
からかわれようが、茶化されようが、無意識にあの時怒鳴っていたコウキは何の言い訳もできず、ずんずんと歩いて行ったのだった。
部屋に残されたリンは誰もいなくなったことに心細さを感じたが、それを断ち切るようにぎゅっと目をつぶった。
だが、瞳を閉じたことで今度はさっき抱き上げられた時のコウキの体温を思い出してしまい、リンはベッドの中で一人うろたえる。
ーーーー回復回復。
コウキは言霊を使えるわけではないのに、そう言ってポンポンとたたかれた所からじんわりと温かい熱が身体中に広がっていくようだった。




