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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
フォレスタの旅
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契約延長

 豊樹神に崩され、星天井となった砦の最上階で、ミルアは膝を抱えて座り、夜空を眺めていた。

 リンが放った光から逃げるように豊樹神が消えてしまったのは、今朝のこと。

 昨夜から明け方まで術を使い続け、その直後に豊樹神と戦って力を使い果たしたリンはそのまま倒れ、まだ目を覚まさない。

 ずっと豊樹神に取りつかれ操られていたフォレスタ王は精神的にだいぶ参っていたが、それでも砦の兵士たちへの事情説明を自ら行い、その後に倒れた。

 豊樹神が去ったことで調子を取り戻したコウキも、ユウヒの指示でミルアと共に今後についての話し合いに混ざり、昼過ぎには全員が一旦仮眠を取った。

 暗くなってから目覚めたミルアは、すでに起きていたコウキとユウヒにまだ休んでいて良いと言われ、だからといってベッドに戻る気にもなれずにこの場所に来ていた。

 一人でぼーっと星をしばらく眺めていると、瓦礫を踏みながら近付いてくる足音が聞こえた。

 誰が来たのかすぐわかったが、そのまま知らんぷりをしていると、足音の主は少し離れた所から名を呼んだ。

「・・・ミルア?」

 少し心配げな声が切なかったが、その優しさも知っているミルアは薄く微笑んだ。

「・・・リンは起きたか?」

 先手を打ってそう問いかけたミルアに、足音と声の主であるコウキは近付きながら答えた。

「まだ起きねぇよ。それより、お前の方が様子変だっただろ」

 言いながら、コウキはミルアの隣にどかっと座った。

 そして、ミルアと同じように星を見上げながら口を開く。

「今日ずっと無口だったもんな。・・・どうした?」

 いつもはやかましい位おしゃべりなミルアの口数が少ないことにちゃんと気付いていたコウキは、優しく尋ねた。

 やはりバレていたかとミルアは軽くため息をつく。

 束の間星を眺めてから、ミルアはゆっくりと口を開いた。

「・・・ずっと、考えてた。・・・いろんなこと」

「ああ」

 そうだろうと頷いたコウキは辛抱強く続きを待った。

 もっと話して構わないのだと沈黙をもって許されたミルアは、震えそうになるこぶしをぎゅっと握った。

「・・・私・・・は・・・怖いんだ」

「・・・・」

 じっと耳を傾けてくれるコウキの存在を感じながら、ミルアは言葉を紡いだ。

「・・・・フォレスタ王の態度は、立派だと思った・・・でも、私の・・・父はどんな風になるんだろう・・・とか・・・本当に守護神が出て来て・・・驚いたし・・・何よりも・・・私は・・・私は、全然・・・みんなの役に・・・立てなくてっ・・・」

 震えそうになる声を必死に抑える為に、ミルアは唇を噛んだ。

 大きく息を吸って、なんとか呼吸を整える。

「私は・・・みんなみたいに・・・リンみたいな特別な力もないし・・・コウキみたいに強くもないし・・・ユウヒ王子みたいな勇気もない・・・みんなに頼ってばかりの役立たずだっ・・・!」

 ミルアにとって一番ショックだったことは、苦しむコウキを前にして、一人オロオロするしか出来なかった自分。

 何もできないままにもしも誰かに何かあったらと考えたら、怖くて震えが止まらなくなった。

「・・・もっとっ・・・強くなりたいっ・・・!」

 抱えた膝に顔を埋めたミルアの頭を、コウキはポンポンと軽くたたいた。

「お前、充分戦力になってただろ。俺なんか後半何もしてなかったぞ?」

 胸の圧迫感に苦しんでひざまずいていただけのコウキは苦笑した。

 だが、ミルアは顔を伏せたまま首を振る。

「・・・でも、みんなをまとめて、指揮を取ってたのはコウキだっ・・・!」

 動けずとも指示を出し、みんなを救ったことには間違いないと言ったミルアに、コウキはため息をついた。

「・・・その俺を守ってたのは、お前じゃねぇか」

 あきれたように言われたその言葉に、ミルアは思わず顔を上げた。

「・・・え?」

 やっと自分の方を見たミルアに、コウキはニッと笑ってみせる。

「ほら、ずっとぎゅーーーーってしてただろ?あれは結構心強かったぞ?」

 突然にあの時のことを思い出したミルアは真っ赤になった。

「あ、あれはっ・・・!」

 無意識だったし覚えてないと言おうとしたミルアの前で、コウキはわざとらしく顎に手を当て難しく考えるようなそぶりを見せた。

「・・・まぁ、強いて言えば、胸はもっとあった方が・・・」

「悪かったな!」

 小柄で細身のミルアが一番気にしていることを言われ、、ミルアは怒鳴るのと同時に隣に座るコウキの腕をたたいた。

 避けずにそのこぶしを受けてやったコウキは笑う。

「元気出たじゃねぇか」

 そう笑われて、ハタと気づいたミルアはムッとした。

 やはり、まだまだ敵わないと証明されてしまったようだった。

 まだ笑っているコウキをにらみながら、ミルアは口を開く。

「・・・お前、体はもうなんともないのか?」

 ものすごく苦しんでいる姿が忘れられず、ミルアはそう聞いていた。

 だが、コウキはなんとも思っていない様子で立ち上がる。

「ああ。なんだったんだろうな?なんか食い合わせでも悪かったんじゃねー?」

 軽く言い切ったその態度が気に食わずムッとしたままのミルアに手を貸して立たせたコウキは優しい瞳を見せた。

「まぁ、ここの王様もしばらくは守りに徹するって決めたみたいだし、これからだろ?」

 降伏すると言い出したフォレスタ王に待ったをかけたのは、コウキとユウヒだった。

 フォレスタ王が正気に戻ったとはいえ、他国の王は未だ守護神の影響を受けたままである今、降伏などすれば一気に国に攻め込まれ、残っている国民たちまで犠牲になってしまう。

 ここは、兵力の全てを守ることに集中する方が良いとフォレスタ王を説得した。

 次はミルアの海の国マール・モーリェに向かおうとユウヒが言っていたのを思い出し、ミルアはきゅっと唇を引く。

 この戦争を終わらせたくて、今ここにいる。

 コウキの言うとおり、全てはこれからだ。

 ミルアはある決意をもって顔を上げた。

「・・・コウキ、私に魔法を教えてくれないか?」

 ミルアの突然の申し出にコウキは目を瞬いた。

「一つでも自分の出来ることを増やしたいんだ。・・・みんなの力になれるように」

 今のミルアは武芸には秀でてはいるものの、生身の体ひとつで戦うのには限界もあると、今回の豊樹神との戦いでわかった。

 コウキたちと対等に扱ってもらえるようになりたいという思いもある。

 ミルアの真剣な瞳に、コウキはやれやれとため息をついた。

 確かに、魔法は覚えていても損はない。

「・・・俺のは自己流みたいなもんだぞ?」

 承認の言葉と受け取り、ミルアは目を輝かせた。

「それでいい!ありがとう!」

 素直にお礼を言ってから、ミルアはにんまりと笑いながら、おもむろに口を開いた。

「・・・これで、契約期間は延長だな」

 言われたコウキはハッとして固まった。

 確か、契約は『フォレスタ王の前までミルアを連れていくこと』。

 途中何度か修正が入ったものの、最終的な約束はそこまでだったはずだ。

 だが、魔法を教えると言ったことで、ミルアが魔法を修得するまで一緒にいることになってしまった。

「お前っ・・・今のは・・・!」

延長・・な」

 慌てて訂正しようとしたが、ミルアの頑固な態度に、結局コウキは負けた。


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