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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
フォレスタの旅
38/119

役割

 よろりと立ち上がり再び剣を構えたコウキを見て、豊樹神は昏い瞳で薄く笑った。

 ーーーー・・・おもしろい人間だ。好きにするがいい。

 豊樹神の言葉に、コウキも笑みを浮かべた。

「そりゃどうも。そうさせてもらうぜ!」

 そう宣言したコウキはすぐさま雷の呪文を唱えて剣に雷を絡ませ、降りてきた豊樹神に向かって突っ込んでいった。

「・・・コウキっ!!」

 その様を見たユウヒとミルアは目を見開く。

 二人はまだ、どうしたらいいのかわからずに動けないままでいた。

 その二人の間でやっと体を起こしたリンが、手を伸ばした。

「・・・『回復』!」

 豊樹神の攻撃を弾いたことで消耗してしまったコウキの体力と魔法力を回復させたリンは、ふらりと前へ出る。

「・・・リン!?」

 何をするつもりなのかと驚く二人に、リンは薄く笑みを浮かべて振り返った。

「・・・正気に戻ってもらわなくちゃ・・・。それに、一人じゃ無理よ・・・」

 その言葉に、ミルアとユウヒはハッとした。

 リンに回復の力をもらったコウキは、体力も魔法力も戻ったのを感じ、思いっきり豊樹神に向かっていった。

「おらぁっ!!」

 豊樹神の槍と、コウキの剣がぶつかり合う。

(・・・あ~!やっぱりでけぇ・・・っ!)

 腕にかかる半端ない負担を感じ、きしむ両腕にコウキはぎりっと歯を鳴らした。

「『風刃』!」

 後方から聞こえた声と共に、コウキの両脇を風がすり抜け、槍を持つ豊樹神の腕を切り裂いた。

「はっ!!」

「たぁっ!!」

 その風を追うようにして、ユウヒとミルアも豊樹神に攻撃を仕掛けた。

 一気に負担が軽くなったコウキは、目を瞬く。

「コウキっ!僕が話してみる!だから無茶するなよっ!?」

 ユウヒの凛とした声が響き、コウキはニヤリと笑った。

「了解!任せる!」

 なんといっても自国の守護神と王子が話をつけるのが一番だとコウキは援護に専念することにした。

 それぞれに技を繰り出し、守護神の動きを封じようと試みる中で、ユウヒは剣をかかげながら豊樹神の間近に近付いた。

「豊樹神っ・・・!」

 群がる人間たちを疎ましいと思ったのか、豊樹神はすっと目を細めた。

 その予備動作に、ハッとしたコウキは急いで振り返る。

「リンっ!防御!」

「『防御』!」

 端的に命じられたリンはわけがわからないままに、コウキの切羽詰まった声に押されて全力で防御膜を張った。

 その瞬間。

 フォレスタ王が豊樹神に操られていた時に出したのと同じ、禍々しい真っ黒な障気が豊樹神の体から吹き出してコウキたちを襲った。

「・・・っ!」

 その衝撃に、リンは歯を食い縛って耐えた。

 一番豊樹神のそばに来ていたユウヒは迫り来た黒い障気に思わず腕を上げて頭をかばったが、何の影響もないことに気付き振り返った。

 リンが防御膜を張ってくれたことはすぐわかったが、皆無事か、リンは耐えられるかと確認する為に振り返ったユウヒの視界の中で、コウキが苦しげにひざまずいていた。

「・・・コウキっ!」

 驚いたミルアがすぐさま駆け寄った。

 今まで元気に動いていたとは思えないコウキの様子に、ユウヒも眉をひそめながら急いで駆け寄ろうとした。

「・・・来んな!いいから、自分の仕事しろ!」

 苦しむコウキから飛んだ言葉に、ユウヒはハッとして踏みとどまった。

 今、自分の成すべきことは、コウキの心配をすることではない。

 今までのことを思い出しても、コウキが苦しんだのは、黒い障気が出ている時。

 そして、その障気を出しているのは。

 ユウヒは、コウキを苦しめているものを取り除く為にも、唇を噛んで豊樹神に向き直った。

 豊樹神はなおも障気を放出し続けている。

 リンの張った防御膜も、限界というように波打った。

 ユウヒは大きく息を吸い、豊樹神に向かって声を張り上げた。

「豊樹神っ!なぜこんなことをするんだ!あなたは守護神の中でも、特に優しい穏やかな気質を持つ者のはずだ!我がフォレスタの民が一番穏やかな民と言われるのも、あなたの気質を継いでいるからだと!」

 豊樹神は何の反応も示さず、障気を出し続けている。

「国民たちも皆ずっと、あなたに見守られていることを肌で感じていたはずだ!姿は見えなくても、守護神信仰が消えないのは、皆信じているからだ!あなたの存在を感じているからだ!」

 ユウヒが叫んでいる間にも、コウキは胸を圧迫する圧力に耐え続けていた。

「コウキ!どうしたんだ!?」

 そばでは心配したミルアが背中を擦ったり額を触ってみたりしていたが、苦しむコウキにはそれに答える余裕はなかった。

 返事を返すこともできない様子を見、ミルアは焦って助けを求めるように視線をさ迷わせた。

 だが、頼みのリンは豊樹神の障気を押さえるだけで手一杯。

 ユウヒは豊樹神に向かっており、フォレスタ王やリーダー兵士に至っては、神の迫力に負けて動けないでいる。

 ミルアは泣きそうになってコウキを見詰めた。

「・・・コウキっ・・・すまない、私にも何か力があればっ・・・!どうしたらいいっ・・・!?どうして急にっ・・・」

 いつも飄々として余裕の態度を崩さないコウキの、初めて見せる苦しげな様子に驚き、何もできない自分が悔しくて泣きながら、ミルアはコウキを守るように抱き締めた。

(・・・みんなっ・・・!)

 防御膜を支え続けるリンの体は、限界を感じてガクガクと震えていた。

 だが、今防御膜が破れれば全員が障気に飲まれることになる。

 守護神の障気が人間にどんな影響があるのかわからないが、どす黒いあれが体に良いはずがない。

 あきらめるわけには、いかない。

 波打つ防御膜に、ユウヒは焦る。

「・・・豊樹神っ!お願いします!話を聞いてくれっ!人間に、何か悪いところがあったのか!?直すところがあるなら直すっ!言ってくれっ!・・・もうっこれ以上人間が無駄に死んでいくのは見たくないんだっ・・・!!」

 最後の、ユウヒの慟哭にも似た叫びに、豊樹神の目が揺らいだ。

 ーーー・・・違・・・う。・・・私の・・・願・・・は・・・。

 その声に、コウキ以外の全員がハッと顔を上げた。

 豊樹神の顔が、苦しげに歪んでいるように見えた。

 ーーーー・・・私・・・は・・・。

 黒い障気が、一瞬、ゆるんだ。

「・・・リン!光!」

 突然耳に入ってきたコウキの声に、リンはびくりと震え、反射的に叫んでいた。

「『癒風光』っ!!」

 防御膜を内側から突き抜け、リンが放った光が豊樹神を襲った。

 とっさのことで加減もできずに凄まじい奔流となって放たれた光は、豊樹神だけでなく全てを包み、皆の視界を奪った。



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