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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
フォレスタの旅
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豊樹神

 ユウヒが力強い瞳で頷くのを見て、コウキが動く。

 ミルアは指を組んで祈るように見守った。

「・・・あっ・・・!?」

 コウキが手を伸ばしてリンの肩を掴んだ瞬間、光が弾けて反動を受けたリンが衝撃で後ろに倒れ込んだ。

 自己暗示をかけて王の心が癒されるまでと術に集中していたリンは、突然の衝撃に自覚もないまま倒れ、しばらくしてからそっと目を開けた。

 腰を落として勢いを緩和したコウキの腕と胸に支えられている事に一瞬驚いたリンは、ハッとして首を巡らせる。

「王様はっ・・・!?」

 側にしゃがんだミルアが、そっとフォレスタ王を示した。

 まだ有効になっている結界に守られたままの王が体を起こそうとしているのを、ユウヒが助けていた。

 ユウヒに支えられて体を起こしたフォレスタ王と、コウキに支えられたリンが目を合わせた。

「・・・・」

 自分の術がどういう結果を出したのか、王の心がどうなったのかと心配そうにじっと見詰めるリンに、フォレスタ王は申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「・・・癒しは、いらん・・・」

「・・・っ!」

「父上っ・・・!?」

 そっと呟かれた言葉にリンは息を飲み、ユウヒは驚いて父の顔を見た。

 正気を失っていた間もずっと見ていたはずの息子の心配そうな顔を見たフォレスタ王は、ゆっくりと首を振った。

 その様子を見て、リンは掠れた声を絞り出す。

「・・・だからずっと、術を拒んでたんですか・・・?」

 リンの言葉を聞きとり、他の三人はフォレスタ王を見つめた。

 フォレスタ王は自嘲の笑みを唇に浮かべる。

「・・・ずっと、わしの心に語りかけてくれていたな・・・。事情も理解した・・・。だが、わしはそれに甘んじるわけにはいかぬ・・・」

 ユウヒが拳を強く握るのを見ながら、フォレスタ王は続けた。

「何があろうとも、わしはこの国の王なのだ・・・。民を守るべき者は、例え相手が神であろうとも、負けるべきではなかった・・・」

「父上・・・」

「王様、それは・・・」

 リンが慰めようとするのを、王は首を振って拒んだ。

「どんな言い訳も役には立たない。わしは癒される事は望まん。わしの背負うものは、あまりに大きい。・・・だか、逃げるわけにはいかぬ」

 唇を噛んで動かないミルアをちらりと見てから、コウキは口を開いた。

「そう決めたんなら、それでいいんじゃねーの?あとは、これからどうするかだろ?」

 軽く言い切ってしまったコウキに全員の視線が集中した。

 その中に混じっている何人かの非難する瞳に、コウキはムッとする。

「・・・周りが何言ったってしょうがないだろ?決めるのは本人だ」

 頑張って術を使い続けたリンには悪いが、本人に拒否されたらどうしようもないのだ。

 本人の意思を無視して強引に癒しを施しても、それは自己満足にしかならない。

 コウキの言葉に、リンは深い意味を悟り黙り込んだ。

 人の心は複雑だ。

 癒しを与えたからと言って、必ずしも救われるわけではない。

 本人が、何を望むかだ。

 浅はかだった自分が恥ずかしくなり、ぎゅっと拳を握ったリンと、王を見つめていたコウキは同時に顔を上げた。

「・・・『防御』!!」

 リンが護りの言霊を叫んだ瞬間、砦の天井が凄まじい音を立てて勢いよく崩れ落ちた。

 砲撃でも受けたかのような衝撃に、リンは歯を食い縛る。

「・・・来たか」

 舌打ちして呟いたコウキの声が、聞こえたかどうか。

 ミルアとユウヒは最初の驚きを越え、天井がなくなってすっかり見えるようになった空を見上げた。

 そこに浮かんでいたものは。

 黒いもやに包まれながらこちらを見下ろしている、巨大なケンタウルス。

 緑の国フォレスタの守護神。

「・・・ほう・・・じゅ・・・しん・・・?」

 ユウヒは虚ろな声で呟いた。

 呆然とする皆の前で、コウキは迷わず剣を構えた。

「・・・コウキ!?」

 戦う姿勢を見せたことに驚いたミルアに、コウキは振り返らずに言った。

「どう見ても、改心して謝りに来たって雰囲気じゃないぜ?」

 いまだ空中に浮かぶケンタウルスは、危険な光を瞳に宿している。

 禍々しいオーラを放つ守護神を前にして、のんきではいられない。

「・・・王との繋がりを絶ち切られて、怒って来たって感じだな・・・」

 一筋の汗を垂らしながらも、コウキは不敵に笑った。

 まさに、笑うしかない状況が今だと思った。

「コウキ!我が国の守護神だ!」

 話をしたくて来たのに刃など交えたくないと叫んだユウヒに、コウキはちらりと視線を向ける。

「・・・倒せるなんて思ってねーよ。でも、俺も死ぬ気はない」

「・・・っ!」

 その言葉に、ミルアとユウヒは息を飲む。

 覚悟を決めなければならない。

 どうするのか。

 フォレスタ王はぐったりした様子で、空に浮かぶ守護神を見上げた。

「・・・豊樹神ほうじゅしんよ・・・なぜ・・・」

「来るわ!!」

 豊樹神がゆっくりと体の向きを変えて降りて来ようとするのを見たリンが叫んだ。

 コウキは、一番前に出て剣を握り直した。

「もう一回防げるか!?」

「・・・『防御』!!」

 コウキの言葉を受けてリンが張った護りの為の見えない壁を、ケンタウルスの持つ槍が雷を伴って突いた。

「・・・・ああっ!!」

 なんとか攻撃を防いだものの、神の力に敵うはずもなく、防御膜は衝撃に耐えられずに破れた。

 術を使ったリンも反動を食らって衝撃を受け、ひざまずいてしまう。

「リンっ・・・!」

 ミルアとユウヒがリンに駆け寄る間に、コウキは呪文を唱えた。

「我が身我が魂に集いし雷の精霊 我が手を依代にその力を現せ!!」

 二撃目を加えようと降り下ろされた豊樹神の槍を、コウキの雷が弾いた。

 その時、豊樹神は初めてその存在に気付いたかのように、コウキたちに瞳の焦点を合わせた。

 ーーーー人間ふぜいが、我に刃向かうのか・・・。

 神の力を弾いたコウキは、膝をついてしまった体勢のまま、なんとか顔を上げた。

「・・・その人間ふぜいに、守護神サマは何しようとしてんだよ?」

 力の差は目に見えて歴然としているのに、神サマというのは弱い者いじめをするものなのかと問うたコウキに、豊樹神は目を細めた。

 ーーーーこれは、必要なこと。逆らうのは愚かなことだ。

「ああそうかよ。だからって何もしないでやられるのはご免だ。愚かだろうがなんだろうが、俺は刃向かう」



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