戦い
凄まじい勢いでつるを伝ってくる障気にぎょっとしたコウキは、剣を離してミルアと共に飛び退いた。
「コウキ!ミルア!」
ユウヒが叫び、フォレスタ王は武器を手離して丸腰になったコウキを見、昏く笑みを浮かべた。
その時だった。
「・・・リンっ!」
「『結界』!!」
コウキが名を呼んだのと同時に、リンの声が広間に響き渡った。
「なんだっ・・・!?」
突然響いた女の声に驚くフォレスタ王の頭上で、虹色に輝く膜が拡がった。
「!?」
経験のない状況に動揺する王の背後の窓から、ふわりと浮いたリンが入ってきた。
じっと王を見据えたまま、リンの両手は王に向けられていた。
「何者だっ・・・!?」
じわじわと虹色の結界に覆われていくフォレスタ王は、苦悶の表情を浮かべ始めた。
「・・・やめろっ貴様っ!」
フォレスタ王が術を使うリンに向けてつるを伸ばしたが、回り込んだユウヒが剣で阻止した。
フォレスタ王はぎりっと歯を鳴らす。
「・・・こしゃくなっ!!」
「きゃっ・・・!?」
王の体から障気が吹き出し、結界を破られたリンは衝撃を受けてひざまずいてしまった。
「リンっ・・・!」
「大丈夫かっ!?」
ミルアとユウヒの声を聞きながら、コウキは頭を巡らせる。
(結界が効かない!?前に村全体に張った時より、王一人だけ対象の小さい結界なのに・・・それだけ干渉度が強いってことか!?)
ならばどうしたらいいかと考えたコウキの見る前で、ユウヒに支えられたリンは瞳を険しくして顔を上げた。
「・・・『結界』!!」
再び響いたリンの言霊に反応し、今度は一気にフォレスタ王の体を虹色の膜が覆った。
見るからに、リンが力業で無理をしたとわかった。
「・・・あ・・・貴様・・・何を、したっ・・・」
結界の中で王が身動きしなくなったのを見ながら、コウキとミルアはリンとユウヒの側に移動した。
息を切らせたリンは、結界の効き目を確認するように、じっと王を見詰めている。
「う・・・あああっ・・・ああああああっ!」
コウキの目に、王の体から黒い影が抜けていくのが見えた。
それと同時に、王の体から生えていた人外の物も消え失せ、普通の人間の姿に戻ったのを確認しコウキは大きく息をついた。
「・・・良かった・・・元の姿に戻ったわね・・・」
リンの呟きが聞こえ、コウキは二人が同じものを見ていたとわかった。
「父上っ!」
結界の中で倒れ伏したフォレスタ王に駆け寄ろうとするユウヒを、コウキが手で制した。
「まだだ」
ミルアに支えられて立っているリンにコウキは目を向ける。
「・・・できるか?」
問われたリンは、しかし自信無さげに目を細めた。
「・・・わからないわ」
目の前で交わされた会話にミルアは目を瞬く。
ミルアは、マイカの村での一連を見ている為、次にリンが癒風光を使うのだろうとわかっていた。
「リン、術が辛いなら、少し休んでからでも・・・」
立て続けに結界の術を使ったことでもあるし、前のように倒れていまうのが心配なミルアはそう言った。
「そういう意味じゃねぇよ」
厳しい声を発したコウキに、ミルアとユウヒは顔を向けた。
「・・・あの癒しの光で、王の心が癒しきれるかって話だ」
コウキの言葉に、強張った表情でフォレスタ王を見ていたリンは頷いた。
「癒風光は、人間が本来持つ強さを引き出すもの。国を愛する王が、正気に戻ってどこまで耐えられるか・・・」
「!」
リンの言葉に、ユウヒとミルアはハッとした。
たくさんの兵士と国民を犠牲にしてきた自分を、果たしてフォレスタ王は受け止めることができるのだろうか。
「・・・もちろん、私も全力を尽くすけど・・・」
リンはユウヒを見た。
決断を求められ、ユウヒは息を飲んだ。
「・・・頼む。このままにはしておけない!父なら、きっと大丈夫だ!」
束の間迷ったユウヒの力強い言葉を聞き、リンは頷いて結界のそばに近付いた。
「ぶっ倒れても、また担いでってやるから心配するな」
コウキからそんな言葉をもらい、リンは微笑んだ。
思う存分やれと言われたリンは、そっと結界に触れ、大きく息を吸った。
「『癒風光』!」
結界の中が光で満たされ、溢れだした光は砦の窓から外へ飛び出し夜空を照らした。
その光は、すぐ近くにいた海の国マール・モーリェの兵士達からも見える程のものだった。
夜空を照らす光は、それから夜明けまでの間輝き続けた。
砦の広間で、リンは癒風光をかけ続けていた。
何時間経ってもやめようとしないその姿に、ミルアの方が何度も根を上げそうになった。
もうやめてほしいと、のどまで上がってくる言葉を必死で飲み下した。
ユウヒは、まだ広間にいたリーダー兵士に状況を話し、誰もリンの邪魔をしないよう指示を出した。
兵士は理解しきれない話に混乱しながらも部下たちに伝令を伝えた。
コウキは、腕組みして立ったまま、微動だにせずリンを見守っていた。
全員が、緊張した時間を過ごした。
そして、東の空が明るくなってきた頃。
「・・・・もう・・・いい・・・」
結界の中から聞こえた微かな声に、リン以外の者はハッとした。
倒れ伏したフォレスタ王が、わずかに顔を上げていた。
「・・・この娘を・・・止めてやってくれ・・・。自己暗示をかけて・・・おるようだ・・・」
王の途切れ途切れの言葉を聞き、三人は顔を見合わせた。
言葉通りにしても、良いものか。
「・・・わしは・・・大丈夫だ・・・。娘の方が、もたんぞ・・・」
その言葉を聞き、ユウヒは決断した。




