フォレスタ王
砦の中へ連れてこられたコウキとユウヒは、最優先で王のいる最上階へ登らされた。
そこの広間で、コウキは縛られている縄を引かれ強制的にひざまずかされる。
その様子を見たユウヒは、縄を引いたリーダー兵士をにらんだ。
「おい、その男は仮にも僕の友人だ。頑丈そうだが、もっと丁寧に扱いたまえ」
その言葉に、リーダー兵士ではなく、コウキの方が眉を寄せた。
(・・・さっき『仮にも王子』って言ったこと、根に持ってやがんな・・・)
かばっているのか貶しているのかわからないユウヒの言葉にコウキは虚ろに笑った。
何よりも、目の前に王がいるにも関わらずそんな軽口をたたくユウヒのマイペースぶりに恐れ入る。
そう。
フォレスタ王は、広間の奥の一段高くなった王座に初めから座っていたのだ。
顔を上げようとしたコウキの頭を、リーダー兵士が押さえた。
「王の御前だ!」
だが、逆らう気もなく、コウキは一瞬見た王の姿に絶句していた。
(・・・おいおい・・・ありゃ『似てない』とかのレベルじゃねーぞ?絶っっっ対なんか取り憑いてるって・・・。背中から、何か生えてたよな・・・?)
「・・・お久しぶりです父上。お変わりないご様子ですね」
いつもと違うユウヒの硬い声を聞き、コウキは更にぎょっとする。
(変わりねーのかよ!?もしかして生まれつきなのか!?いやいや、絶対人相も変わっちゃってる系だろ!!何落ち着いてんだよユウヒ!!)
頭を押さえられている為、目の前に立っているユウヒの足しか見えないコウキは、なんとか目線を上げて見ようと目を動かす。
「・・・ユウヒ、何を考えておる?」
腹の底に響くような、頭の奥から聞こえてくるような耳障りなしゃがれた声が聞こえ、コウキは息を飲む。
(・・・人間の声じゃねーな・・・)
なんというかもう、レベルが違うと感じた。
守護神の影響を受けるということが、どれだけ恐ろしいことなのか、この時初めてわかった。
何を言っても通じないと言ったユウヒとミルアの言葉の意味がやっと理解できた。
(・・・ミルアの親父も、こんなんなってんのか?)
コウキが頭を下げさせられている前で、ユウヒは勇気をもって口を開いた。
「・・・僕の考えは変わりません。この戦争から手を引いて頂きたいのです。それが言いたくてここに来・・・」
「まだわからんかっ!!愚かな息子よっ!!」
突然間近に雷でも落ちたかのような大音響が響いた。
フォレスタ王の怒鳴り声だった。
コウキは、王からどす黒い障気が吹き出たのを感じ、歯を食いしばって耐えた。
ユウヒと兵士は怒鳴り声にびくりとはしたものの、障気の圧力には気づいていないように思えた。
(・・・くそっどうなってんだ!?)
よもやこんな障気は人間が出せるものではない。
絶え間ない圧力に晒されたコウキは、ぎりぎりと歯を鳴らした。
(王は・・・本当に影響を受けてるだけなのかっ!?)
「・・・ユウヒ・・・っ!気をつけろっ・・・もしかして・・・!」
「!?」
なんとか絞り出されたコウキの声の様子に驚き、ユウヒは振り返った。
変わらず兵士に押さえつけられたまま、なんとか目線だけ上げたコウキは、真っ青な顔に脂汗をかき、今までに見せたことのないほど余裕のない顔をしていた。
「どうした・・・!?」
あまりの様子のコウキに駆け寄るユウヒを見て、フォレスタ王の目がすっと細められた。
「なんだ?その者は?」
王がコウキに興味を示した為、兵士はコウキの顔を上げさせた。
「・・・っ・・・!」
王と目を合わせた瞬間に、ただそれだけでコウキはダメージを受けた。
肉体的にというよりも精神的に干渉してくる王の波動が、目を合わせたことによってモロに来たのだ。
「コウキっ!?」
ただ座っているだけなのに突然苦しみだしたコウキにユウヒは慌てた。
その間も、フォレスタ王は怪しむようにコウキをじっと見据えている。
胸部の圧迫を感じ、コウキはうめいた。
(・・・っだめだ・・・!もう・・・!)
その時、開けられていた窓から、水色の風が飛び込んできた。
「フォレスタ王っ!!」
王の視線がそちらに向けられ、コウキは唐突に圧迫感から解放されて大きく息をついた。
水色の風の正体を見たフォレスタ王
は、唇に笑みを浮かべた。
「・・・確か・・・マール・モーリェの小娘か・・・?」
そう呼び掛けられた水色の風ーーーーミルアは大きく頷いた。
「フォレスタ王っ!私もユウヒ王子と同じ願いを持ってここに参りました!」
「ほぉ・・・」
ミルアの言葉に、フォレスタ王は面白そうに顔を歪めた。
(ミルア・・・!)
呼吸を整えながら、コウキは状況を見る。
窓から入ってきたのは、ミルア一人だ。
リンはいない。
コウキはちらりと兵士を見た。
コウキから取り上げた剣は、まだ兵士の腰にある。
「どうか、こんな戦はお止めくださいっ!民がいなくなってしまっては、国は滅びますっ!!」
「黙れっ!!」
再び大音響が響いて窓がビリビリと唸り、ミルアは身をすくめた。
フォレスタ王はゆっくりと立ち上がった。
ただそれだけで、体が何倍にも大きく見えた。
とてつもない威圧感に、皆、後ずさる。
後ろに下がってきたユウヒと、横にいる兵士を、コウキは見た。
フォレスタ王はなおも怒鳴る。
「小娘が生意気なっ!!死体にして国へ送り返してくれるわっ!!」
「!」
フォレスタ王が伸ばした手の先から、どす黒い障気をまとった木のつるがミルアに向かって勢いよく伸びた。
その黒いつるが、思わず目をつぶってしまったミルアに届く前に、別のものに絡み付いた。
ミルアの前に走り込んだコウキが構えた剣だった。
「・・・コウキっ大丈夫か!?」
「・・・俺のセリフだっつの・・・」
驚くミルアにコウキは苦笑した。
王に怯えるように後ずさったユウヒが、兵士の隙をついて剣を奪い、コウキの縄を切ったのだ。
「父上っ!おやめくださいっ!!」
自らも剣を構えたユウヒが叫んだ。
だが、フォレスタ王は鼻で笑い、コウキの剣に絡んだつるを通して、黒い障気を二人に向けた。




