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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
フォレスタの旅
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暗雲

「・・・あの二人、遅いな」

「そうね・・・」

 水汲みを男性陣に任せた二人は、火を起こして食事の下準備をしていた。

 フォレスタ城でもらった食料は、砦までの行程数日分の食事を充分にまかなえる量であった。

 といっても食べ盛りが揃っているので、その量は普通の三倍程の量だったが。

 先程見つけた小川は、ちょっと戻ったすぐの所にあったはずと首を傾げたミルアにリンも頷いた。

「・・・まさか迷ったのかしら?」

「ユウヒ王子はともかく、コウキは方向音痴じゃないはずだけどなぁ」

「そうよねぇ・・・」

 二人ともお腹は空いているはずだから、すぐに戻ってくると思っていたのだが。

「ちょっと見てきましょうか」

「あ、リン、私もっ・・・」

 もしかしたらすぐ近くまで戻って来ているかもしれないが、遅かったと一言文句を言うためにも、二人は腰を上げた。

 お腹が空いているのはリンとミルアも同じだった。

「魚とか釣ってるかもしれないな!」

「それならいいんだけどね」

 ニコニコしながら釣竿を垂らすユウヒを想像し、妙にハマると二人がくすくす笑った時、茂みの向こうからコウキの声がした。

「・・・おいっ!仮にもそいつは王子だぞ!もっと丁寧に扱えよっ!」

「!?」

 コウキの声に間違いは無かったが、言ってる言葉の内容に不信感を感じたリンは、とっさにミルアの腕を引いて身をかがめた。

「・・・リンっ・・・!?」

「しっ!・・・『消火』」

 驚くミルアに静かにするよう合図し、リンは言霊で洞窟内の焚き火の火を消した。

 煙が出ているのを見られるのはまずいと思ったのだ。

 そうしているうちに、今度はユウヒの声がした。

「・・・やだなぁ。仮じゃないよ。正式に王子だよ~」

 複数の足音と共に、次第に声が近付いてきた為、リンとミルアは茂みの中からそっとうかがった。

「!?」

 巡回中と思わしきフォレスタ兵が十数名、コウキとユウヒを捕らえて縄で縛り、列を組んでどこかへ連行するところだった。

(・・・え!?なんで!?)

 驚いてリンとミルアは顔を見合わせた。

 コウキだけならともかく、この国の王子であるユウヒまで、王子とバレていながらも後ろ手に縛られているというのは、どういうことだろう。

 驚いて見守っているうちに、兵士達と二人の行列はリンとミルアの隠れている茂みの前までやってきた。

 ユウヒがちらりとリンとミルアのいる茂みに目を向けたのがわかった。

「・・・ところで、なんで僕はこんな目に遭ってるんだっけ?」

 ユウヒに声をかけられたリーダーらしき兵士が表情も変えずに淡々と答えた。

「先程も申し上げましたが、王のご命令です。何者であろうとも、不審者は連行せよ」

「・・・僕って不審者かなぁ・・・?」

「不審です。城におられるはずの王子が、こんな所におられるのですから」

 キッパリと言われ、やれやれと苦笑したユウヒの代わりに今度はコウキが声を上げる。

「まぁいいだろ。どうせもともと王に会うつもりで俺を雇って旅して来たんだから」

 コウキの言葉に、ユウヒはこれ見よがしにため息をつく。

「・・・護衛も役に立たなかったねぇ」

「悪かったな!」

 痛いところを突かれたコウキは、更に独り言にしては大きな声でブツブツと言った。

「あ~、砦までの歩いて二時間か!意外と近かったな!」

 コウキのそれに倣ってユウヒも声を張り上げた。

「明日には父上も別の砦に移動するなんて、タイミングが良かったな~!」

「・・・ここは森の中です。お静かに」

 モンスターがうようよいるこんな場所で、大声で居場所を教えているような真似はやめてもらいたいと言ったリーダー兵士は、コウキとユウヒを連行したまま行進を続けて行った。

「・・・とりあえず、元気そうね」

「・・・王の所に連れて行かれるって・・・!」

 縛られたままの二人が、身を潜めていたリンとミルアに情報を残していってくれたことはわかった。

 二時間くらいなら、男達の足にもなんとか付いていくことができる。

「行こうっ!リン!」

 明日フォレスタ王が移動してしまえば、また段取りをしなおさなくてはならない。

 今夜がチャンスだ。

 リンは決意するミルアに頷いて立ち上がった。

 砦までの道は、モンスターが出ても兵士たちが戦ってくれる為、コウキとユウヒにとっては楽な道のりだったが、二人は途中で何度も疲れただのノドが渇いただのと喚き、行進を中断させた。

 後ろからこっそり付いてきてくれているはずのリンとミルアを気遣ってのことだった。

 リンとミルアは大まかな荷物を洞窟に残し、誰かに見つけられないよう小さな結界を張り、最小限の荷物だけを持って必死に兵士たちの後を付いていった。

 見失わないように、そして見つからないように追いかけるのは想像以上に大変だった為、コウキとユウヒが所々で立ち止まってくれるのはとても助かった。

「・・・なんか、どんよりしてるな・・・」

「どんよりしてるねぇ」

 見えてきた砦に上空を見上げ呟いたコウキに、ユウヒも頷いた。

 今は気分的にも世界中がどんよりしているが、この砦の上空には真っ暗な雲が集中して集まっているようだった。

「・・・ミルア、あの砦の向こうは・・・」

 リンに静かに問われ、ミルアは悲痛な顔で頷いた。

「・・・マール・モーリェだ。あの向こうで、兵士たちが戦ってる・・・」

 ミルアの、きゅっと唇を引いた横顔を見、リンは砦を見上げた。

「行きましょう・・・!」



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