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ハニームーンの卵~炎竜と言霊使い~  作者: 伊藤ひおり
フォレスタの旅
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言霊

 ほどなくして、頃合いを見た騎士隊長が四人分の食事を乗せたワゴンを運んできた。

 王子の居間で食事を摂りながら話せるようにとの配慮だ。

 居間に入るなり、髪の短くなったリンを見て目を丸くしたが、騎士隊長は何も言わずに料理を並べ始めた。

 リンは手伝おうとしたが、騎士隊長の厳しい視線に牽制されて引き下がった。

 まだ騎士隊長がリンを警戒しているとわかり、短くため息をついたユウヒ王子が慰めるようにリンの肩に手を乗せた。

「・・・どうぞお座りください」

 すぐにテーブルが整い、ユウヒ王子にもうながされて昨夜と同じように一同はソファーに腰かけた。

 今度は大人しく口を閉じている様子のコウキをちらりと見てから、騎士隊長はユウヒ王子に顔を向けた。

「・・・王子。決意は変わらないのですか?」

 騎士隊長の挑むような視線をユウヒ王子は真っ直ぐに受け止めた。

「うん。変わらないよ。僕は守護神を治める為の旅に出る。今まで戦場に出るのを拒むことでしか抵抗できなかった僕の、進むべき道だ」

 ユウヒ王子の曇りのない目を騎士隊長はじっと見つめた。

 王の様子に疑問を抱いていたという騎士隊長も、昨夜は散々悩んだのだろう。

 リンの話を信じて良いものかどうか。

 王子の決意を受け入れて良いものかどうか。

 隣国の王女ミルアまでもが加わり、事態は大きくなっている。

 王に相談なく、決断して良いものか。

「・・・その者が、本当に月から来たのか、証拠が見たい」

 視線を受けたリンは、背筋を伸ばしてその意思を受け止めた。

 ミルアが心配そうな顔をしているのを見て、ニッコリと笑う。

「月の民のみが使える『言霊』をお見せします」

「なら、あの光の風がいいと思うけどな~」

 口を挟んだユウヒ王子に騎士隊長は慌てた。

「いえ、自分に掛けるのは無しです!目で見て認識できるもので!」

 万が一にでも洗脳されるようなことがあったらたまらないと騎士隊長は拒否した。

 ミルアはムッとして騎士隊長をにらむ。

「そんなに怖がらなくてもいいだろう。失礼だな」

 臆病者と言われたようで、騎士隊長はムッとする。

「王子の安全を確認する為の義務です」

 しばし考えてから、リンは頷いた。

「わかりました。では、目に見えるもので」

 そう言って束の間目を閉じて呼吸を整えたリンは口を開いた。

「『花畑』!」

 リンの声が終わるや否や、ユウヒ王子の居間の床の全てが花いっぱいに咲き乱れた。

「わぁ♪」

 目を丸くした騎士隊長のそばで、ミルアが歓声を上げた。

 リンは言霊を続ける。

「『池』!『小鳥』!」

 言葉通りのものか次々に現れ、一同は絶句した。

 リンは立ち上がって手を伸ばし、小鳥を呼ぶ。

 愛らしい小鳥が恐れもせずにリンの手に止まった。

「どれだけしっかりとイメージして言霊を紡ぐかで、鮮明度も変わります。私は今、とても人懐っこい小鳥をイメージしました。だから、こうして人を恐れずそばにいるんです」

 どこからか十数羽現れた小鳥が、それぞれにミルアの肩やユウヒ王子の頭、コウキの膝に止まった。

「わぁ♪かわいいな♪」

 ミルアは喜んで小鳥とたわむれる。

 目の前のテーブルに止まった小鳥に向かっておずおずと伸ばした騎士隊長の腕に、飛んで来た小鳥が3羽も止まった。

 立ち上がって遊んでいたミルアは、部屋の隅に出来た池を見て驚いた。

「魚もいる!」

 目を輝かせて池に駆け寄るミルアを見て、ユウヒ王子は苦笑した。

「僕の部屋、どうなっちゃうのかな」

 花に毎日水をやらなくてはと考えるユウヒ王子に、リンは笑った。

「ご心配なく。元に戻せますから」

 言って、リンは手をかざした。

「『消去』!」

 その途端、室内にあふれていたメルヘンチックな光景は跡形もなく消えた。

「ああ良かった。花の手入れは苦手なんだよ」

 ホッと胸を撫で下ろしたユウヒ王子の声が聞こえないほど、騎士隊長は呆然としていた。

 まるで夢を見せられているようだったが、どんなに腕のいい手品師でもあんなことはできない。

 動けずに固まったままの騎士隊長を見て、コウキが動いた。

 いきなり手を伸ばしたかと思うと、リンのメイド服のスカートをめくり上げたのだ。

 一瞬何が起きたのかわからなかったリンは、ハッと我に返る。

「・・・ふ、『風刃』~~~~~~~っ!!」

 悲鳴の代わりに攻撃の言霊を叫んだリンによしと頷いて、コウキはひょいと風の刃を避けた。

「『風刃』『風刃』『風刃』~~~~~っ!!」

 立て続けに風の刃を向けられたコウキは慌てた。

「わっばかっ!もういいって!!隊長に攻撃力見せたかっただけだっつの!!」

 王子と旅をするなら、それなりに戦える力があると見せた方が騎士隊長も納得するだろうと思っての行動だった。

「そんなの言ってくれればやるわよっ!!『落雷』!!」

 この変態と叫ぶ代わりに、リンの雷が炸裂する。

 ミルアはジト目で、逃げ回るコウキを見た。

「コウキ・・・サイテーだ」

 ユウヒ王子は困った笑みを浮かべた。

「いいもの見せてもらったけどさ、僕の部屋めちゃくちゃだな~」

「王子もサイテーだ・・・」

 室内でのドタバタ劇は、しばらくの間おさまらなかった。

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