似てる
コウキは今までに無いほど、本気で怒った顔をしていた。
「お前ら何考えてんだよ!?守護神と話す!?悪いところを直す!?そういう段階とっくに過ぎてるから今こうなってるんじゃないのか!?もう手の施しようがねぇから守護神たちは決断したんじゃねぇのかよ!?」
「・・・っそれは、そうかもしれないけど、でもっ・・・」
「だいたいお前がっ・・・!!」
立ち上がって訴えようとしたリンの言葉をさえぎり、コウキも思わず立ち上がっていた。
「お前がそこまでする必要あんのかよ!?何にも関係ねーんだろ!?話すこと話したらさっさと月でもどこでも帰れよ!!」
「で、でも私っ・・・」
「守護神に見捨てられた地上の奴らのことなんか放っときゃいいだろ!?滅びるなら滅びちまえよ!自業自得だろうがっ!関係ねぇ奴はさっさと帰っ・・・!」
バチーーーン!!
「・・・いってぇなっ・・・!」
いきなり平手で打たれ、コウキは更に頭に血が昇り怒鳴り返そうとして、ハッとした。
リンが、平手打ちをした格好のまま、肩を震わせてうつ向いていた。
「・・・あなたの口から、そんな言葉聞きたくなかったっ!!」
目を合わせずに叫んだリンは、そのまま身を翻して奥の扉を開け、その奥の部屋に駆け込んでいってしまった。
「・・・リンっ・・・!」
ミルアは初めて見るリンの涙に驚き、追いかけようとしてハッとコウキを見て動きを止めた。
ユウヒ王子はソファーに座ったままため息をつき、静かにコウキを見上げる。
「・・・泣かせちゃったねぇ」
コウキはリンの駆け込んだ扉から目を反らし、ぐっと拳を握った。
ユウヒ王子はゆっくりと立ち上がる。
「リンの気持ちも考えなよ。たった一人で地上の人間の為にここまで来た彼女が、どんな気持ちでいるのか」
静かな声で言ったユウヒ王子に、しかしコウキは黙ったまま顔を向けなかった。
そんなコウキをしばし見つめてから、ユウヒ王子はミルアに向き直る。
「・・・今夜はここまでにしよう。この部屋で自由に休んでいいから。隊長、二人に食事の手配を頼むよ。ちゃんと休んで、明日・・・いや、もう今日か。とにかく起きたらちゃんとした頭でもう一度話そう。・・・それまで、父上には内緒だ。わかってるね?」
「・・・はい」
騎士隊長は渋々ながらも部屋を出ていった。
ユウヒ王子はこれ見よがしに、両腕を上げて伸びをする。
「・・・さて、僕の寝室、リンが入ってっちゃったあっちなんだけど、行ってもいいよね?」
少々わざとらしいユウヒ王子の声にも、コウキは反応を示さなかった。
心配げなミルアの視線を一度見てから、ユウヒ王子はリンを追って寝室へと入っていった。
何事もなかったように寝室の扉を閉めたユウヒ王子は、左側の足元を見る。
そこに、リンが座り込んで泣いていたからだ。
「・・・大丈夫かい?」
目線を合わせてしゃがみ込み、優しい声で問われても、リンは嗚咽を止めることができなかった。
「・・・ごめ・・・なさっ・・・私っ・・・!」
ユウヒ王子はそっと手を伸ばし、リンの髪を撫でた。
「うん。いいよ。泣きなさい」
「・・・っ!」
ユウヒ王子の言葉にますます止まらなくなった涙に逆らわず、リンはしばらく泣き続けた。
そうして頭を撫でてやりながら、リンの涙が少しだけ収まった頃、ユウヒ王子はぽつりと呟いた。
「・・・でもさ、彼はきっと、君のことを心配してるんだと思うよ・・・」
「・・・!」
二人掛けのソファーに横になっていたミルアは、ハッと目を覚まして視線を巡らせた。
向かいの二人掛けのソファーにコウキが座っているのを見つけほっとする。
だが、コウキは声を掛けるのをためらうほど、機嫌の悪い顔で目を閉じ、腕組みをしていた。
あたりはすっかり明るくなっていたが、まだ朝の早い時間のようだった。
「・・・コウキ・・・」
ミルアのか細い声が聞こえ、コウキは目を開けた。
「うわっ!?なんだコウキっ!!そのクマっ!?全然寝てないのか!?」
「・・・うるせー・・・」
ミルアが驚くほど、コウキの目の下にはくっきりとクマが浮かんでいた。
その開いた目も真っ赤に充血している。
ミルアは眉間にしわを寄せてため息をついた。
「・・・コウキ。お前は、どうするつもりなんだ?」
「何が?」
機嫌の悪い目付きのコウキを、ミルアは真っ直ぐに見た。
「・・・私は、ユウヒ王子とリンと一緒に行きたい。少しでも望みがあるなら、それに賭けたいんだ」
「・・・・」
コウキは目だけ動かしてミルアを見た。
「・・・お前は、それでいいのか?」
「え・・・?」
コウキは、もう一度問う。
「もう、どうしようもないかもしれないんだぞ。人間は救いようのないところまで来てるかもしれない。それでも、守護神に逆らうような真似をするのか?」
ミルアは一瞬息を飲んだ。
守護神に逆らうなどという考えは、全く思い付かなかったのだ。
しかし、守護神のしようとしていることを止めようとする事とは、つまり・・・。
「・・・っなんか、今のお前は、私の知ってるコウキじゃないみたいだ」
「・・・・」
「お前はいつも私やリンを助けてくれたじゃないか・・・!それと同じだ・・・!救える道があるなら、救いたいんだっ・・・!」
「・・・ああ。お前やあの王子はそうだろうさ。でも、リンは違うだろ。生まれた場所でもなけりゃ、育った場所でもない。ついこの間初めて来た場所だろ?一緒に行く理由があんのか?」
「・・・コウキ・・・お前・・・」
ミルアはコウキを見つめた。
その時、奥の寝室の扉が開いた。
「・・・それは、リンが自分で決めることなんじゃないかな?」
現れたユウヒ王子に、コウキは鋭い目を向けた。
ユウヒ王子はその視線をなんなく受け止める。
「つまり君は、リンに帰ってもらいたいのかい?月に」
「・・・そうだ。あとは、なんとかしたい奴がなんとかすればいいだろう?」
「・・・ふ~ん・・・」
ユウヒ王子は突然ニヤリと笑った。
そのままニヤニヤと笑うユウヒ王子を、コウキは警戒した。
この男が笑うときには、ろくな事がない。
「・・・なかなか興味深い男だね。コウキ、だっけ?冷静かと思えば、熱さも持ってる。今まで周りにいなかったタイプだな」
「そーかよ。だからなんだ?」
トゲトゲしい声を返され、ユウヒ王子はくすくす笑った。
「いや?ただ、リンと似てるなーと思っただけだよ」
「はあ?似てねーよ」
「似てるさ。今までの旅の話、リンに聞いたよ。困ってる人を見たら放っとけないし、頼られると断れない。ま、リンも似てるとは思ってないみたいだけどね」
「・・・だからなんだよ」
ユウヒ王子は笑みを深めた。
「いや?だからリンの気持ちを一番わかってるのも君なんじゃないかと思ってね。だから、不思議だよ。昨夜、君があんな言い方をしたことが」
黙り込んだコウキを見て、それまで二人の会話を聞いていたミルアが口を開いた。
「コウキ・・・お前、もしかして・・・」
ミルアは気付いた。
マイカの村を出た後、リンがコウキとミルアとは一緒にいられないと言ったこと。
そして昨夜、コウキがリンに帰れと言ったこと。
この二つの出来事はとても似ている。
(同じだ・・・)
そこに導き出される気持ちは。
(『巻き込みたくない』・・・)
「・・・やっぱり、お前たち、似てる」
「ああっ?」
ミルアにまで言われたコウキは、心底嫌そうに顔を歪めた。
その時、奥の扉がカチャリと開いた。




