守護神
突拍子もない話に、ミルアは目を見開いて息を飲み、騎士隊長は声を上げた。
「守護神って・・・」
コウキのつぶやきを聞き、ユウヒ王子は説明をした。
地上6カ国それぞれの国の、それぞれの守護神のことを。
緑の国フォレスタ・豊樹神。
海の国マール・モーリェ・慈澪神。
風の国ウェントゥス・風奏神。
岩の国ヴラフォス・玄地神。
氷の国アイズベルグ・氷月神。
太陽の国アルバ・ソル・紅陽神。
「そして、月にも守護神がいます。青き月の守護者・夜霧神と、赤き月の守護者・幻霧神です。その二神から、月の民の長老たちにご神託があったんです。地上の守護神たちが、人間同士を戦わせ滅ぼそうとしていると・・・」
リンの話すあまりの内容に、一同は沈黙した。
「・・・リン・・・」
青ざめた顔でミルアはその名を呼んだ。
「力が強大すぎるって、だからか・・・」
神の力相手では、月の民といえど一個人が対抗できるものではない。
村ひとつに結界を張ったリンが、あのとき2日以上も昏倒した理由がわかった。
「確かに、そんな話誰にでも話せることじゃないな・・・」
呆然と呟いたミルアの隣で、コウキもムスッとしながらも否定はしなかった。
「・・・そんなばかげた話があるかっ!」
それまで黙って話を聞いていた騎士隊長が、怒りを現して立ち上がった。
びくりとしたリンの隣で、ユウヒ王子は騎士隊長を見上げた。
「でも、父の様子には君も疑問を持っていたはずだ」
「!・・・しかしっ・・・全てこの娘の嘘かもしれません!頭のイカれた娘が、王子に妙な魔法をかけたのやもっ・・・!」
「慎めっ!!」
ユウヒ王子の張りのある声で一喝され、厳しい瞳で睨み上げられた騎士隊長は、条件反射で口を閉じた。
「・・・はい」
若い王子の迫力に押されぐっと唇を引いた騎士隊長は、静かにソファーに腰を下ろした。
その様子を見て、ユウヒ王子は目元を和ませる。
「君も、あの光に触れてみればわかるよ。リンの力が怪しいかどうか」
「・・・私には必要ありません」
黙って従ったものの頑なな態度を崩さない騎士隊長にひとつため息をついたユウヒ王子は、ミルアとコウキを見た。
「どう?迫力あったかな?王子っぽい?」
「・・・・」
「・・・自分でそれを言わなきゃな・・・」
お茶目に片目をつぶって見せたユウヒ王子に、ミルアはユウヒ王子がこんなキャラだと思わなかったと絶句し、コウキは冷めた視線を返した。
「まあ、それでリンがこの国を一番最初に訪れた理由なんだけど・・・」
このフォレスタに降り立ったのは偶然ではないのだと仕切り直したユウヒ王子の言葉に、ミルアは姿勢を正した。
リンが引き継いで口を開く。
「私の目的は、この国に伝わる『三種の神器』を貸してもらうことでした」
ミルアは首を傾げた。
「『三種の神器』?」
聞いたことのない言葉に目を瞬くミルアに、ユウヒ王子は静かに語り聞かせた。
「『三種の神器』っていうのは、我がフォレスタに古代から伝わる秘宝なんだ。と言っても、僕は見たことがない。なぜなら『三種の神器』は、フォレスタ王家の乙女の魂に宿るものだからだ」
「え・・・?」
隣で聞いていたリンは黙って唇をかみ、ミルアは戸惑いの声を上げる。
ユウヒ王子は更に説明を付け加える。
「だから、僕は見たことがないけど、教えられていた話では『三種の神器』とは古代、まだ世界が国に分かれていなくてひとつだった頃に、世界を統べる王と王妃が作ったもの。・・・守護神たちを制御する力を持つと言われている」
「守護神たちを、制御・・・っ!?」
さすがのコウキも眉を動かし、ミルアはそんなだいそれたものが実在するのかと驚いた。
しかし、ユウヒ王子は首を横に振り、リンはうつむいた。
「だから、言っただろう?『三種の神器』は王家の乙女にしか宿らない。今現在、王家に女子はいないんだ」
ユウヒ王子の言葉に、ミルアはあっと気づいた。
フォレスタ王家は、王家としては望ましい男系の家系で、女子が産まれることは稀なのだと。
ユウヒ王子は大きくため息をつく。
「リンが来てこの話を聞いた時、僕が女だったらとどれだけ悔やんだことか・・・。あ、でも乙女じゃなきゃだめなら、どっちにしろダメだな、もう僕・・・」
「そういうカミングアウトはいらねーよ」
ブツブツと独り言のように言ったユウヒ王子に、コウキはジト目で突っ込んだ。
しばし考えていたミルアは、顔を上げる。
「・・・じゃあ、人間を滅ぼそうとしている守護神たちを止めることはできないのか・・・?」
「・・・・」
「・・・・」
ミルアの言葉に、コウキと騎士隊長は黙り込んだ。
制御する力が無ければ、どうしようもない。
守護神相手では、どうする術もないのだ。
沈黙が続くなかで、リンとユウヒ王子は顔を見合わせた。
その様子に気付いたコウキが目線を向け、その動きにつられたミルアも顔を上げた。
リンとユウヒ王子は、決意した瞳で頷き合う。
「・・・『三種の神器』に頼らないで、守護神たちを治める。それが、僕とリンが出した結論だ」
「・・・はぁ!?」
一番最初に声を上げたのは、コウキだった。
「本気で言ってんのか!?治めるって・・・どうやるつもりだよ!?」
ユウヒ王子は困ったように苦笑した。
「それはまだわからないよ。とにかく守護神と会ってみないことにはね。それに、僕は聞いてみたいんだ。どうして、人間を滅ぼそうと思ったのか」
あまりの無謀さにコウキはあっけに取られて黙りこんでしまった。
ユウヒ王子の隣でリンも必死に訴える。
「それに、話してみればわかるかもしれない。どうすれば人間を滅ぼすのをやめてくれるのか。悪いところがあるんなら、今からでも直せばきっと・・・」
「ばかじゃねぇの!?」
コウキの怒鳴り声が響き、リンは身をすくませた。




