月の民
王子に暴言を吐くという見逃せないコウキの無礼に、騎士隊長は思わず立ち上がり剣に手をかけた。
「貴様っ王子に対してなんと無礼なっ・・・!」
「ああっ!?無礼なのはそっちだろっ!」
「・・・コウキっ!!お前は私の護衛だっ!!」
突然ミルアの怒鳴り声が響き、一同は沈黙した。
ユウヒ王子に向き直ったミルアは頭を下げる。
「申し訳ありません、ユウヒ王子。私の護衛がご無礼をいたしました。どうかお許しください」
雇い主であるミルアには、コウキの言動に責任がある。
コウキは舌打ちして、今度はおとなしくソファーに座り直した。
それでも腕を組んだ偉そうな態度はそのままだったが、ユウヒ王子は笑みを浮かべる。
「いや?僕にあんなにハッキリ言う人はいないから、楽しいよ」
「・・・すみません・・・」
肩を離してもらったリンが謝ると、ユウヒ王子はにっこりと笑った。
「リンが謝ることはないと思うよ。関係ない人なんだろう?」
その言葉に、自分でも認めた言葉であっても他人に言われると引っ掛かり、コウキはムッとした。
その様子に気付いていながらも、ユウヒ王子はコウキに笑顔を向ける。
「まあ、これからミルア姫とリンと大事な話をするから、護衛君は静かに聞いていたまえ」
一同の顔を見渡したユウヒ王子は一度頷き、話を始めた。
「まずは、さっきの隊長の質問からだ。この娘、リンは確かに隊長が捕らえて牢に入れた娘だ。不思議な術を使っていたというから、僕は会ってみたくなったんだ」
リンの入れられていた牢の前で、ユウヒ王子は自分が王子であると名乗った。
とたんに、それまでおとなしかったリンの目付きが変わった。
大事な話があると訴えるリンの瞳に惹かれる何かを感じたユウヒ王子は、何か術を使ってみせろと言った。
しばし考えたリンが使ったのは『癒風光』。
光の風に触れたユウヒ王子は、自分の心が癒され、エネルギーが満ちるのを感じた。
「あの光の風で、僕の中の何かが変わった」
癒された心のままに、牢の前で涙を流してしまったことは、リンとユウヒ王子だけの秘密である。
ユウヒ王子は、真っ直ぐな瞳をミルアに向けた。
「そして同時に気付いたんだ。リンが『月の民』であること」
「!?」
「月の民っ・・・!?」
ミルアどころか、騎士隊長までも驚きの声を上げた。
ユウヒ王子は頷く。
「そうだ。リンの使う術は、言葉を現実にする『言霊』。月の民にしか使えない術なんだ。・・・君は知ってたのか?」
ユウヒ王子は、驚きの反応がなかったコウキを見た。
コウキは、ひょいと肩をすくめる。
「いや?ただ、俺はそいつが空から降りてきたのを見てるからさ。それに、もう何聞いても驚かねーよ」
そう言ったコウキに薄く笑ってから、ユウヒ王子は再びミルアに向き直る。
「だから僕は驚いて聞いたんだ。地上とは交流は無いはずなのに、何しに来たのかってね」
ミルアはもはや、ユウヒ王子の言葉を聞きながらもただ呆然とリンを見詰めていた。
「・・・ミルア姫、君はさっき言ったね?父が父でなくなっていくようだと。僕の父も全く同じ状態なんだ。僕の話をちっとも聞いてくれない。戦争が始まってから、何度も訴えてきたけどね」
「城下のやつらは、あんたのことを腰抜けって言ってたけど?」
腕組みしたまま言ったコウキの言葉にリンとミルアはぎょっとしたが、言われたユウヒ王子はくすりと自嘲的に笑った。
「戦争に行きたくないって駄々こねてるってやつだろ?そう言われてるのは知ってるよ。でもこれは、僕のささやかな抵抗だ。ただ意味のない殺し合いをさせる為だけに兵を率いていくなんて、僕にはできない」
ユウヒ王子のその言葉を聞き、コウキは何も言わずただ納得したようにソファーに身を沈めた。
理解してくれたようだと感じたユウヒ王子はリンを見た。
「・・・ここからは、君に話してもらっていいかな?」
ユウヒ王子に言われ、リンは思わず気まずそうにコウキとミルアを見た。
一度はあんなにキッパリと事情は話す気がないと言って別れた二人に、立場が変わったからやっぱり話すというのも調子が良いように思えた。
案の定、コウキはジト目でにらんでいたが、ミルアの何でも話してくれと願う切なる瞳に負けて、リンは頷いた。
「・・・わかりました」
ひとつ呼吸を置いて、リンは顔を上げた。
「緑の国フォレスタの王も、海の国マール・モーリェの王も、そして他の国の王たちも皆『外からの影響』を受けています」
リンの言葉にミルアはハッとした。
あの村でも、リンは同じ事を言ったのだ。
騎士隊長はいぶかしげに眉をひそめた。
「『外からの影響』とは・・・?」
リンは顔を向けて騎士隊長に頷く。
「ユウヒ様にはお話したことですが・・・。王たちに影響を与えて戦争を起こさせているのは・・・各国の守護神たちなんです」
「・・・!?」
「なんだと・・・っ!?」




