メイド服
メイド服を着た大人しそうな黒髪の娘が、抜き身の剣を持った体格のいい燃えるような赤髪の剣士にビンタをお見舞いする。
その一部始終を見てしまった兵士たちはざわついた。
「・・・おお、口より先に手が出たぞ・・・」
「見かけによらないな・・・」
「かえって怖いよな・・・」
だが、ユウヒ王子は全く動じていなかった。
「僕は似合うと思うけどなぁ」
くすくすと笑いながら言ったユウヒ王子に、コウキは冷めた視線を向ける。
「あんたの趣味か?趣味悪いな」
王子に向かって平然と悪態をつくコウキにまた笑ってから、ユウヒ王子は片手を振って兵士たちに合図を送った。
「ここから先は僕が責任を持つ。君たちは必要ない」
立ち去れと言われた騎士隊長はぎょっとした。
「しかし・・・!」
「聞こえなかったか?」
笑顔を消し、厳しい瞳を向けられた騎士隊長はぐっと唇を噛み、渋々ながらも王子に従った。
「・・・ただし、私だけは同行させて頂きます」
断固とした姿勢で言われ、ユウヒ王子は職務熱心な騎士隊長にやれやれとため息をついた。
「わかったよ。ただし、余計な口を挟まないことだ」
しっかりと念を押された騎士隊長は、敬礼でもって了承の意を表した。
それを見てから、ユウヒ王子はコウキとミルアに笑顔を向ける。
「さあ、こんな所じゃ話もできないから、僕の部屋へ行こう」
コウキとミルアは顔を見合わせてから、ユウヒ王子だけが言葉に従うことを了承した。
コポコポコポと良い音を立てて、夜中に飲むのにふさわしいハーブティーが淹れられた。
メイド服姿のリンが淹れていた。
各人の前にお茶のカップを配ったリンに、ユウヒ王子が微笑む。
「ご苦労様。長い話になるから、リンもここに座りなさい」
「はい」
ポンポンと自分が座る二人掛けのソファーの隣を示したユウヒ王子に従い、リンも腰かけた。
向かい合った二人掛けのソファーにそれぞれユウヒ王子とリン、ミルアとコウキが座り、狭い方の一人掛けには騎士隊長が座った。
コウキの正面にくることになったリンはうつ向いている。
「・・・さて、話を聞こうか。ミルア姫?」
ユウヒ王子に話を切り出されたミルアは、膝の上でこぶしを握り、ごくりとのどを鳴らした。
王ではないが、王に最も近い相手に、いよいよ話す時が来たのだ。
唇が、震えた。
「・・・私が、ここまで来たのは、この戦争の終結を願う為なのです」
ユウヒ王子は黙って話の続きを待った。
ミルアは気持ちを奮い立たせ、続ける。
「この戦争はおかしい。どの国も、何のために戦っているのかわからない。何度も父を説得しようとしましたが、聞き入れてもらえず、どんどんと父ではなくなっていくようでっ・・・。だからもう、他国にすがるしかないと思ったのです。ユウヒ王子!どうか、こんな戦争を止めるために力をお貸しください!」
ユウヒ王子は、じっとミルアの瞳を見詰めた。
ミルアは唇を結び、真っ直ぐな瞳で見返した。
ユウヒ王子は、ゆっくりと口を開く。
「・・・自分の父親一人説得できない子が、敵国を説得できると思うかい?」
「!」
「ユウヒ様っ・・・!」
ユウヒ王子の言葉にミルアはショックを受けて目を見開き、コウキが鋭い瞳でにらんだが、ユウヒ王子は平然と受け流して自分の名を呼んだリンの方を見た。
リンの、悲しいような咎めるような顔を見て、苦笑する。
「・・・わかってるよ。少しいじめ過ぎた。今のは、僕自身に対する言葉だ」
「・・・ユウヒ様、ご自分を責めないでください。貴方のせいではないとお話したはずです」
そんな二人のやりとりを、コウキは行儀悪く足を組み腕組みして見下ろすようにして見ていた。
「何を話したって?」
その偉そうな態度に、それまで黙っていた騎士隊長はムッとしてコウキをにらんでからユウヒ王子に顔を向けた。
「私もお聞きしたいです。その娘は、先日私が広場で捕らえた娘ですね?なぜおそばに?先程の力はいったい・・・」
「ぷぷぷっやっぱり捕まったのってお前だったのかっ!」
騎士隊長の言葉が終わる前に吹き出して笑ったコウキに、ばかにされたとわかったリンはムカッとしてにらんだ。
「うるさいわね!作戦よ!作戦!」
「へぇ~え?作戦ね~?どうだか~?」
「あなただって捕まってたでしょ!?」
「俺の本意じゃねぇよっ!」
「私だってそうよっ!・・・あっ・・・!」
「ほらみろ!やっぱりしっかり捕まったんだろうが!一人で大丈夫な奴がざまぁねぇな~!」
「結果が良かったんだから、いいでしょ!?あなたに関係ない!」
「ああ関係ないさ!だからこそ笑えるよな~!」
そこまで、二人のケンカに懐かしさを感じて感激していたミルアはハッと我に返る。
「・・・コウキっ!王子の御前でっ・・・」
「うるせぇ!俺はムカついてんだよ!腹立ってんだよっ!」
たしなめたミルアに怒鳴り返したコウキを見て、
リンは更に怒鳴る。
「何が腹立ってるのよ!?ちょっと静かにしてなさいよ!!」
「してられるかっ!今の状況、全部が気に食わないっ!!」
「・・・ああ、つまり、そういうことかぁ~」
のんびりと口を開いたユウヒ王子が、全員の注目を集めた。
みんなが見る前で、興奮して思わず立ち上がっていたリンの手を掴んで引き寄せ、その肩を抱く。
「つまり君は、リンが僕好みの服を着てるのも、こんな夜中に僕の部屋にいた事も、僕たちが親しげなのも気に食わないと。つまり、嫉妬だね。図星かい?」
「・・・図星じゃねーよ!どんだけ偏った頭してんだ!?」
一瞬、ユウヒ王子の言ったことに頭がついていかなかったコウキは、理解した瞬間にそう怒鳴り返していた。




