ユウヒ
「・・・隊長、随分と盛り上がってるじゃないか?こんな夜中に、ご苦労だねぇ」
「!?・・・ユウヒ様!?」
騎士隊長の叫んだ名に、ミルアはハッとしてそちらに顔を向けた。
「ユウヒ・・・王子っ・・・!」
ミルアの驚いた声を聞き、この人物が戦に出るのを拒んでいる例の王子なのかとコウキも視線を向けた。
確かに、気品の漂う整った顔立ち、柔らかな茶色の髪、人のよい笑みをたたえた緑の瞳は、血にまみれた戦場で剣を振り回すにはあまりにも不向きに見えた。
だが、コウキは眉を寄せた。
(こんな状況見て、あんなのんきに笑ってられるか?)
ユウヒ王子はコウキの不審そうな視線に気付かず、兵士に囲まれているミルアを見つけて微笑みかけた。
「やぁ。本当にミルア姫だね。聞いた通りだったな」
なぜか満足げに頷きながら言うユウヒ王子に、ミルアは声を張り上げた。
「・・・王子!お久しぶりです!お騒がせしましたが、実は折り入ってお話があって・・・!」
「うん。知ってるよ」
ニコっと笑ったユウヒの笑顔にほだされ、ミルアがホッと肩の力を抜いた瞬間。
キィンーーーーっ!
「!?」
素早く移動してミルアに斬りかかったユウヒ王子の剣を、コウキの持つ剣が受け止めていた。
「王子っ!?コウキっ・・・!」
驚いたミルアの前で、笑みを浮かべたままのユウヒ王子をコウキは睨み付けた。
「オウジサマともあろう御方は、武器も持たねぇ娘にいきなり斬りかかるもんなのか?」
「いや?こうすれば絶対に君が出てくると思ったから」
笑みを絶やさずに食えないセリフを放ったユウヒに、コウキは挑発に乗せられたと気付いて顔を歪めた。
「王子!お下がりくださいっ!」
突然戦っていた相手を奪われた騎士隊長は、王子に何かあってはと慌てて前へ出ようとしたが、ユウヒの声にぴしゃりと止められた。
「下がるのは君だ。邪魔をするな」
先程とうって変わって威厳のあるその声に、コウキとミルアは呆然とする。
その隙を、ユウヒ王子は見逃さなかった。
再び斬りかかられたコウキは慌てて応戦する。
ユウヒ王子はまたもやにっこりと笑みを浮かべていた。
「へぇ?なかなかやるじゃないか」
黙って刃を振るうコウキは内心毒づいた。
(なんっかペース狂わされる奴だなっ・・・!)
ニコニコ笑っている相手と戦うなど初めてのことで、余計にそら恐ろしさを感じる。
兵士たちは、王子の戦いにへたに手を出すわけにもいかず、おろおろと見守るしかない。
ミルアも、悲痛な顔でその戦いを見守っていた。
(どうしようっ・・・私はどうしたらっ・・・)
どちらかが傷付くことにでもなったらと考えるとじっとしていられず、かといって剣の戦いに参戦することもできず、ミルアはぎゅっと唇を噛んだ。
その時。
「・・・ユウヒ様っ!!」
奥の部屋のとびらがバタンと開き、静まり返っていた廊下に女の声が響いた。
「!?」
「・・・え・・・?」
その声にコウキは目を見開き、ミルアは信じられない思いで瞳を上げた。
突然のことに呆然とする兵士たちの前で、声の主である女は無理やりコウキとユウヒ王子の間に割り込んだ。
今まさにユウヒ王子に向かって降り下ろされたコウキの剣の前に身を晒した女は、声を上げる。
「『防御』!」
女の声と共に、ユウヒ王子と女の周りに目に見えない膜ができ、コウキの剣を受け止めた。
だが、女の発動させた膜にはそれほどの衝撃はなかった。
コウキが、とっさに剣を寸止めさせたからだった。
目の前で起きたことが信じられず、コウキとミルアは呆然とした。
女は、なんとも言えない顔でコウキを見上げていた。
沈黙が続くなかでユウヒ王子だけが変わらぬ笑みを浮かべたまま、自分を守った女の肩に親しげに手を置いた。
「ダメじゃないか、リン。僕の部屋から出るなって言ったのに」
「・・・すみません、じっとしてられなくて・・・」
コウキから目を反らしたリンは、ユウヒに向き直って謝った。
ユウヒ王子はくすくす笑う。
「本当に心配性だな、リンは。大丈夫。殺したりはしないよ」
「はい・・・」
素直に頷きユウヒ王子のそばに立つリンの姿を、コウキとミルアは見詰めた。
「・・・リンっ・・・!」
「おい、どういうことだ!?」
再会に感激して駆け寄ろうとしたミルアを押さえ、コウキは低い声を出してリンとユウヒ王子をにらんだ。
ユウヒ王子はリンの肩に手を置いたまま、コウキに笑顔を向ける。
「どうって、なにが?」
「何がじゃねぇよっ!てめぇっ・・・」
「コウキっ!落ち着け!」
ユウヒ王子に食って掛かろうとするコウキの腕を、ミルアは必死で押さえた。
ミルアの声で少し我に返ったコウキは、こちらを見ようとしないリンをにらんだ。
「・・・俺の言いたいことがわかるか!?」
自分に向かって問われたとわかったリンの肩がびくりと震えた。
「・・・ええ、わかるわ・・・」
「わかってねぇっ!!」
声を遮って怒鳴られ、リンはそっとコウキに向き直った。
真剣な眼差しで真っ直ぐに見つめる視線に、リンは息を詰めてたじろぐ。
コウキは、一歩前へ出て、リンに近付いた。
「俺が言いたいのはっ・・・!」
ただならぬ雰囲気に、周りの兵士たちも息を飲んで見守った。
「・・・・」
胸の前で手を握るリンに、コウキは指を突き付けた。
「・・・なんでメイド服なんか着てんだ?似っ合わね・・・」
「悪かったわねっ!!」
バチーーーン!!
コウキを平手で打ったリンは、顔を真っ赤にして怒鳴った。




